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第28話:爆炎の支配者

第28話「爆炎の支配者」


### 帝国軍・右翼陣中


左翼でハナが大学芋に手を伸ばしていた頃、右翼でもまた、運命の対峙が始まっていた。


フルーレ「やっと見つけた……。あちこち動き回るから、探すのがめちゃめちゃ面倒だったっすよ」


剣士師団長フルーレは、完全にダルそうな声を出しながら、灰色の髪を後ろに括り直し、一本の刀を抜いた。


その視線の先には、ハイドン将軍の左腕と謳われるサンチェスがいた。


サンチェス「!? ……何者だ、貴様」


サンチェスは、カムストックと同じく華奢な優男だった。だが、その構えは一点の隙もなく、ハイドン直伝の「剛の剣」の重厚な空気を纏っている。


フルーレ「剣士師団のフルーレっすよ。サンチェスさんに用があるんだけど、いいすかね?」


サンチェス「!! ……八刀流の、フルーレだと!?」


サンチェスの頬が緊張に引き攣る。帝国の剣士たちにとって、フルーレの名は畏怖の対象だ。八本の刀を戦況に応じて使い分け、変幻自在の流派で敵を蹂躙する「疾風の剣姫」。


サンチェス「……噂で聞いていた容姿とは、かなり違うようだが。だが、対峙して伝わってくるこのプレッシャー、本物だな」


フルーレ「ちょっと待った。噂で聞いてた容姿と違うとは、どういう意味っすか?」


フルーレが、予想外のポイントで食いついた。


サンチェス「えっ、そこかよ……。ああ、気を悪くしたなら済まない。聞いていた話よりも、随分……幼く見えただけだ。子供がコスプレでもしているのかと……」


フルーレはあからさまに「ぶすっ」とした顔になり、無愛想に刀の切っ先を突きつけた。


フルーレ「あー、そう。子供ね、コスプレね。……サンチェスさん、今の言葉、高くつくっすよ?」


サンチェス「くっ、失言だったか……」


フルーレ「まあいいっすよ。とにかく、私が勝ったらサンチェスさんは私の部下になる。それでいいっすよね?」


サンチェス「それは断る! 私の師はハイドン将軍ただ一人。それに、勝つのは私だ!!」


フルーレ「……ふーん。まあ、いいっすよ。無理やりにでも私の師団に入れて、一からみっちり、その生意気な口を直してあげるっす」


フルーレの周囲に、彼女が持ち歩く予備の刀たちが、まるで見えない意志を持っているかのように微かに鳴動した。


フルーレ「楽しませてもらうっすよ‥‥」


---


### カレンの本陣


「報告! フルーレ様、敵右翼隊長サンチェスと接触、戦闘を開始しました!」


ガリクソン「……サンチェスか。あいつはカムストック以上に執念深く、しぶとい剣を振るいます。フルーレ様も、今度は苦戦するのでは……?」


カレン「ふふ。あの子を怒らせたら、相手が誰であっても無傷では済まないわよ。何せ今の口のうごきでは、一番言われたくない『子供扱い』をされたみたいだし」


ガリクソン「……えっ、あの剣鬼にそれを言ったんですか? サンチェスのやつ、死んだな」


---


一方、リノの部屋では。


マキ(フルーレよ……。お前が怒る気持ちはよく分かる。私も今、この『子供扱い』の極地にあるからな……。だが、怒りに任せてサンチェスを刻みすぎるなよ。あいつは貴重な中間管理職候補なのだから……。って、リノ! 寝返りの拍子に私の腹の上でヨダレを垂らすな! 冷たい! 冷たいぞーー!!)


マキは、リノの安らかな寝顔と、自分の腹に広がる湿り気の狭間で、この世の終わりを感じていた。


---


### 帝国軍・右翼陣中


「さて……そろそろ始めようよ?」


フルーレの纏う空気が、一瞬で凍りついた。先ほどまでの「面倒くさそうにふてくされた少女」の面影は消え、そこには戦場を支配する「剣聖」の冷徹な殺気が立ち込めていた。


サンチェス「……! 雰囲気がガラリと変わるやつだな。顔つきまでさっきとは別人だ。だが、生き残るのは俺だよ!」


フルーレ「我が名は王国騎士団、フルーレ・フォスター。いざ、尋常に勝負……」


その口上は、かつて彼女の魂を震わせたマキの戦う姿、その生き様への憧れ。少しでもマキの域に、あの高みに近づけるように。彼女は心の中でマキの名を唱え、刀を構えた。


サンチェス「行くぞ!!」


**「ハァッ!!」**


サンチェスの放つ剣は、その豪快な見た目に反して鋭く、そして速い。重戦車が音速で突っ込んでくるような錯覚。しかし、フルーレは動じない。


右手の刀でその威力を正面から受け止め、刹那、左手の刀でその軌道を横へと滑らせる。


**ドォォォォンッ!!**


サンチェスの渾身の斬撃は空を切り、無残に地面を爆ぜさせた。


フルーレ「剛剣に素早さを兼ね備えたタイプっすか。……面白くなってきたっすよ」


鋭い目つきで、冷たく、しかし楽しげに微笑むその顔。

そこには「童顔のお嬢ちゃん」などどこにもいなかった。


砂煙の中に立つ彼女は、見る者を畏怖させるほどに凛々しく、まさに帝国兵たちが噂し、恐れた「美しき疾風の剣姫」そのものであった。


---


### リノの馬車(自室)


その頃、戦場から遠く離れた(といっても目と鼻の先だが)馬車の中では、マキがリノの寝相という名の「不可抗力」と死闘を繰り広げていた。


マキ(フルーレ、シルフィ、ハナの同期三人娘は基本的に童顔だからな……。三人とも結構気にしているようだが。……案ずるな、フルーレ。私より童顔な人間などこの世にはおらん! 自信を持て!! ……って、リノの寝相が悪すぎだーー!! 私を抱き枕にして回転するな!! 圧死する! 物理的に圧死してしまうぞーーー!!)


マキは、リノの柔らかい(が、異常に筋力の強い)腕に締め付けられ、戦場の緊迫感とは別の意味で「死」を身近に感じていた。


---


### カレンの本陣


「報告! フルーレ様、サンチェスと互角の攻防を展開中! ですが、フルーレ様が『二本目』を収めました!」


カレン「二本目を収めた? ふふ、あの子、もうサンチェスの動きを見切ったわね」


ガリクソン「……そうなんですか? サ、サンチェスはまだ本気を出して……」


カレン「ガリクソンさん。あの子にとって、刀の数は『本気度』じゃないの。相手を『料理するための調理器具』を選んでいるだけ。一本を選んだということは、もう『味付け』が決まったってことよ」


カレンは確信していた。フルーレの剣が、サンチェスの誇りと共に、その剛剣を粉砕する瞬間を。


---


### 帝国軍・右翼陣中


サンチェスの放つ、大樹をなぎ倒さんばかりの剛剣。それをフルーレは、二本の刀を風車のように回転させ、火花を散らしながらすべてを無効化していた。


フルーレ「楽しいっすね、サンチェスさん」


冷たい静謐さを湛えたその微笑み。サンチェスは、自分が戦っている相手が、先ほどまで「不貞腐れていた少女」と同一人物であることを、もはや脳が受け付けなくなっていた。


サンチェス「くっ……。楽しい、だと? 私は死に物狂いだというのに……!」


フルーレ「でも、早く終わらせないと。とんでもないセシリアが獲物を探して飛んでくるかもしれないし……残念ながら、これで終わりにするっすよ」


フルーレは、手にしていた一本の刀を鞘に収め、代わりに腰の奥に差していた一振りを引き抜いた。その刀身は、抜かれた瞬間から脈動するように真紅の輝きを放ち、周囲の空気を一気に加熱させる。


サンチェス「……! 魔法力を帯びた魔剣か」


フルーレ「この刀はね、『紅炎こうえん』。……私の尊敬する師から、直々に譲り受けた大切なものなんだ」


---


### フルーレの回想


訓練場の片隅。爆炎の支配者の異名を持つマキ、いつもは背中のみで語るマキが、落ち込むフルーレに言葉をかけていた。


マキ「フルーレ。魔法が不得手だからといって臆することはない。そんなもの、いくらでも対処法はあるのだ」


フルーレ「でも、マキ様やセシリア様みたいに、剣と魔法を織り交ぜた華やかな技を私も身につけたいっすよ……」


マキ「案ずるな。お前の剣技はいずれ私に到達する。私が見込んだ才能は、まだまだ底を見せてはおらんぞ?」


フルーレ「マキ様……。でも、まだまだ全然追いつけないっすよ……」


マキ「……フルーレ。この剣をお前にやろう」


マキが差し出したのは、彼が戦場で愛用していた名刀『紅炎』だった。


フルーレ「えっ!? これってマキ様がお気に入りの刀じゃないっすか!?」


マキ「紅炎は、使い手の剣技が鋭ければ鋭いほど、その摩擦と気を吸収して魔力を増幅させる。お前なら……私やリノが放つ爆炎よりも、さらに純粋で強大な炎を纏えるようになるはずだ」


フルーレ「いいんすか?……ありがたく、頂戴するっす……!」


---


### 帝国軍・右翼陣中


「紅炎」から放たれる熱気が、サンチェスの額に汗を滲ませる。


サンチェス「……ふん。魔法は苦手、ということか。俺の師匠ハイドンも同じだ。まあ、俺もだがな!ハッハッハ」


サンチェスは自嘲気味に笑い、再び重い構えを取る。魔法という異能に頼らず、己の腕一本で這い上がってきた武人の矜持がそこにはあった。


フルーレ「……ますます気に入ったっすよ。意地でも私の部下にしたくなったっす」


フルーレの瞳に、獲物を捕らえる猛禽のような光が宿る。


その頃、馬車のベッドでは。


マキ(フルーレよ……。お前に贈ったあの刀、実は振るたびに魔力を吸うから、燃費が悪くて私には使いこなせなかったのだ……。だが、お前の膨大な『剣気』なら、それを熱源に変えられるはずだ。……って、リノ! 暑い! 『紅炎』の熱気よりも、お前の抱きつきの体温の方が暑いぞーーー!! 夏場のサウナかここは!!)


マキは、リノの抱擁という名の「熱地獄」に、本気で意識を飛ばしかけていた。


---

### 帝国軍・右翼陣中


フルーレが「紅炎」を振るうたび、大気がジリジリと焼け付くような熱を帯びる。しかし、サンチェスはその熱を真っ向から受け流し、己の矜持を乗せた重厚な連続攻撃を叩き込み続けた。


フルーレ「いいね、いいっすよサンチェスさん……」


猛攻を真紅の刀身で軽やかに受け流しながら、フルーレは冷徹な眼差しの奥で確信していた。この男は、本物だ。


サンチェス「……そりゃどうも!」


サンチェスは必死だった。体に染み込ませた剣技、ハイドンから授かった教え。それだけを信じて突き進む。圧倒的な実力差を見せつけられても、彼の魂はまだ折れていない。


フルーレ「――これで、終わり」


フルーレの動きが加速した。紅炎を囮にサンチェスの意識を上に逸らし、同時にもう一本の、波打つような漆黒の刀身を持つ刀を低く滑らせた。


**ドシュッ!!**


サンチェス「ぐはっ……!!!」


肺の空気をすべて吐き出すような衝撃。フルーレの放った一撃は、サンチェスの脇腹を正確に、かつ強烈に捉えていた。


フルーレ「峰打ちっすよ。……まあ、当分は指一本動かせないくらい、強く打ち込んじゃったんすけどね」


サンチェスは崩れ落ち、地面に膝をついた。これほどまでに完膚なきまでに叩きのめされるとは。絶望を通り越し、あまりの清々しい完敗に、彼の口からは渇いた笑いが漏れた。


フルーレは倒れたサンチェスに背を向け、ハイドンの本陣が構えられた方角を見据えて「紅炎」を真っ直ぐに突き出した。


フルーレ「焼き尽くせ! 紅炎!」


**ドォォォォォンッ!!!!**


それは、先ほどリノが放ったような広範囲を消し飛ばす戦略魔法ではない。しかし、一直線に伸びる火柱は凄まじい密度を持ち、ハイドン本陣の真横に着弾して巨大な火柱を上げた。爆音と熱波が戦場を支配する。


フルーレ「……これほどの威力。サンチェスさん、貴方の剣気、かなりの素質っすよ? 私と一緒に修行すれば、もっともっと高みを目指せるっす」


サンチェス「ハハ……完敗だ。好きにしな……」


気を失う寸前、サンチェスが見たのは、炎の中で揺れる灰色の髪の少女の、誰よりも高潔で美しい剣士の姿だった。


---


### カレンの本陣


「報告! フルーレ様、敵右翼隊長サンチェスを撃破、捕獲しました!」


カレン「ふふ、あの子ったら。師匠(マキ様)からもらった刀を自慢したくて、あんな派手な一撃を放ったのね」


ガリクソン「……信じられん。あのサンチェスまで……。これでハイドン将軍の両翼は完全に消失したというわけか」


カレン「ええ。さて、残るは中央の『獲物』だけね」


---


### リノの部屋


マキ(フルーレよ……。紅炎を使いこなしているようだな。だが、お前が熱気を増幅させればさせるほど、隣で寝ているリノの体温まで連動して上がっているような気がするのだ……。暑い! 暑すぎるぞ!! 頼むからもう爆炎を撃つのはやめてくれ!!)


マキは、リノの抱擁という名の「人肌の溶岩」に包まれながら、戦勝の報告を半泣きで聞いていた。



今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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