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第26話:ゾイドの攻防戦

第26話「ゾイドの攻防戦」


王国騎士団は、空が白み始めるよりも早くゾイド奪還を目指し進軍を開始した。


カレンの読みは冴え渡っている。ハイドン将軍が屈辱を晴らすべく、早朝よりゾイドを包囲し、孤立した部隊を叩きに来ると踏んでいた。


カレン「マキ様、あーんちてくだちゃーい? もうすぐいくさなので、先にごはんをしっかり食べまちょーね? おいちいでちゅかぁー? うふふ、お顔が汚れてまちゅよ、ペロっ」


マキ(軍師カレン……。まさに恐ろしいやつよ。物理的攻撃以外で、ここまで相手のプライドと精神をズタズタに破壊できるやつはそうはいない。こいつが敵じゃなくて本当に良かった……って、味方でも酷すぎるじゃないかーーー!! 私の威厳が! 騎士団長としての尊厳が消滅するーー!!)


リノの思念『マキ様、良かったですね。カレン様の言葉責めと、私の物理的な責め……。両方を一度に味わえる赤ん坊なんて、世界中でマキ様だけでちゅよ? 感謝してくだちゃいね』


---


### ゾイド城・城壁


その頃、ゾイドを守備するドーガンとリチャードは、地平線を埋め尽くす帝国軍の砂煙を凝視していた。


ドーガン「帝国軍の立て直しが予想以上に早かったな。ハイドン将軍という男、三年前の汚名を雪ぐべく、死に物狂いで部隊を再編したか」


リチャード「我々がわずか千五百(実質千)でこの城を奪ったことは、捕虜たちにも感付かれつつある。ハイドンの本隊が包囲を完了すれば、城内の五千人が呼応して暴動を起こすだろう。……いよいよ年貢の納め時かもしれんな」


二人の老騎士は、覚悟を決めた。だがその瞳には、セシリアに言われた「死んだら殺す」という理不尽な命令を守り抜こうとする、奇妙な活力が宿っていた。


---


### 帝国軍・ハイドン本陣


一方、一万五千の軍勢を率いてゾイドを包囲したハイドン将軍もまた、勝利への執念を燃やしていた。


ハイドン「ゾイドを制圧した騎士団が万単位だとしても、この包囲を維持すれば兵糧は一週間と持たん。その間にドルネイとの補給線を盤石にするのだ。……今度こそ、カレンの首を取る!」


想定外の連続で足元を掬われてきたハイドンだが、戦術の教科書通りに動く限り、この包囲戦は圧倒的に帝国が有利。彼は己の経験を信じ、決死の包囲陣を敷いた。


---


山岳地帯を隠密に進軍するカレンとセシリア。

カレンの瞳の奥には、ハイドンが引いた「完璧な包囲網」を、文字通り粉砕する準備が整っていた。


セシリア「カレン。ハイドンのやつ、真面目に包囲陣を組んでおるな。……壊し甲斐がありそうだ!」


カレン「ええ。でも、ただ壊すだけじゃつまらないわ。ジェームズさん、準備はいいかしら?」


捕虜から「特別工作員」へと格上げ(?)されたジェームズは、帝国の紋章が入ったマントを羽織り、複雑な表情で頷いた。


ジェームズ「……ああ。まさか、俺がこんな役目を仰せつかるとはな。……本当にやるのか? 帝国軍が『物理的』に死ぬぞ?」


カレン「ふふ、それが私のやり方よ」


---


### 帝国軍・ハイドン本陣


「ハイドン将軍、タリムシティから出発した敵軍が背後より迫っております!」


参謀の報告に、ハイドンは余裕の笑みを崩さなかった。


ハイドン「ふん、思いのほか早い到着だが想定内だ。ゾイドに万単位の兵を送り込んだのであれば、後続は精々数千の端兵だろう。まずはそちらを殲滅し、退路を断ってからじっくりと城を落とす……」


「そ、それが……敵軍の数が報告と違います!!」


ハイドン「……何だと?」


「一万……いや、一万五千の軍勢かと!!」


ハイドンは飲んでいた水を噴き出した。


「な、何だと!? ほぼ騎士団の全軍ではないか!! ……と、いうことは……ゾイドの城を占拠している兵数はいったい……!?」


ハイドンはわなわなと震え、血走った目で背後のゾイド城を振り返った。


もし背後の軍が一万五千なら、城を落としたのは「空っぽのブラフ」だったのか、それとも自分の知らない「未知の軍勢」が他にいるのか。


ハイドン「お、おのれ……カレンめぇぇぇ!!! またしても、またしても私を虚仮こけにするのか!!」


---


### 王国騎士団・本陣


その頃、騎士団は鉄壁の陣容を完成させつつあった。


左翼にフルーレの剣士師団、右翼にハナの諜報師団。中央には不敵に笑うセシリアの近衛師団。さらにその後方にリノの魔道士師団とシルフィの支援師団が控える、まさに「殺意のフルコース」である。


しかし、この完璧な布陣が決まる直前、首脳陣の間では**「血で血を洗う壮絶なジャンケン合戦」**が繰り広げられていた。


フルーレ「セシリア様、今の思いっきり後出しっすよ! ズルっす、そんなの認めないっす!!」


セシリア「何を言う! 私は後出しなどしておらん! 私の右腕が神速すぎて、貴様の目には後から出たように見えただけだ!!」


ハナ「嘘だぁー! 誰が見ても今の『パー』は、ボクの『グー』を見てから変えたじゃないかー!!」


彼女たちがここまで必死なのは、ハイドンの右腕・左腕と称される優秀な副官たちがどの位置に配置されるかを読み合い、彼らを「捕獲スカウト」する権利を勝ち取るためであった。


カレン「……静かにしなさい。敵陣がパニックになっているというのに、味方の首脳陣がジャンケンで内乱を起こしてどうするのよ」


カレンは呆れた顔でマキ(本日の食事:高級パン粥)をあやしている。


マキ(……もはや戦ではないな。これは才能ある人材の『狩り』だ。ハイドンよ、お前の軍勢は今、最強の肉食獣たちに『どこの部位から食べるか』を相談されているようなものだぞ……)


リノの思念『うふふ、マキ様。私もジャンケンに混ぜてほしかったです。勝った人はマキ様と一緒にお風呂に入れる権、とか……』


マキ(絶対に混ざるな!!! ジャンケンどころか世界が滅ぶわ!!)


結局、カレンの鶴の一声で布陣が確定し、王国騎士団はいよいよ、混乱の極致にある帝国軍への総攻撃を開始する。


---


### 騎士団陣営:中央突破口


中央のセシリア部隊が、モーセの十戒のごとく左右に割れ、道を開く。その先には、幼子マキを抱いたまま不敵に微笑むリノが立っていた。


カレン「セシリア部隊、絶対に直線上に入らないで! 巻き込まれたら塵も残らないわよ!」


カレンの隣で、捕虜から半ばオブザーバー扱いになっているガリクソン隊長は、ガチガチと歯を鳴らしながらその光景を凝視していた。


リノ「準備は整いました。それでは、ハイドンさんの心をポッキリ折りに行きましょーね。せーのっ、いっけー!!」


**ゴオォォォォッ!!!**


空気が悲鳴を上げ、天を突くような巨大な火柱が放たれた。それは「魔法」という概念を超え、まるで太陽の欠片を投げつけたような暴力的な光。

火柱は前衛部隊を飛び越え、ハイドンの本陣すら掠め、ゾイド城と本陣のちょうど中間地点に着弾した。


**ドォォォォォォォンッ!!!!!**


凄まじい爆圧が戦場を駆け抜け、地響きで立っていられない。着弾地点には巨大なクレーターと、天まで届く炎の壁が出来上がっていた。


リノ「あ、やりすぎちゃいました! てへっ☆」


マキ(だーかーらー! 私を抱っこして『あやしながら』撃つような魔法ではないだろうが!! 鼓膜が! 私の赤ちゃんとしての繊細な鼓膜が死ぬだろうがーーー!!)


---


### 帝国軍:ハイドン陣営


側近「ほ、報告! 敵軍の魔法攻撃です!! 前衛を飛び越え、背後に着弾!!」


ハイドン「うるさい! 見れば分かる!!」


ハイドンは自分の髪をかきむしった。背後は文字通りの「火の海」。


ゾイドへの合流も、ドルネイへの撤退も、あの炎の壁が消えるまでは不可能。完全に退路を断たれたのだ。


ハイドン(この規模の戦略魔法……。王国騎士団の師団長クラスでも一人しかいない。……やはり、あの『壊滅の魔道士』が本当に来ているのか!?)


ハイドン「全軍、陣を立て直せ! 四つの陣がバラバラだ! 固まれ、固まって反撃するのだ!!」


しかし、帝国軍の伝令兵たちは、ハイドンの命令とは真逆の情報を叫びながら走り回っていた。


伝令「伝達! 敵には『壊滅の魔道士』がいる! 固まれば一瞬で焼き尽くされるぞ! 分散しろ、できるだけ距離を置くんだ!!」


「固まれ」という将軍の指示と、「固まると死ぬ」という恐怖に裏打ちされたデマ。ハイドン軍は蜘蛛の子を散らすように混乱し、統制を失っていく。


---


カレンの本陣で、帝国の紋章が入ったマントを脱ぎ捨てたジェームズが、青ざめた顔でカレンを見上げた。


ジェームズ「カレンさん……言われた通り、偽の伝令デマを各所に流してきましたよ。……約束、守ってくれるんでしょうね?」


カレン「ええ。貴方の部下たちの安全と、再就職先は保証するわ。……ふふ、いい仕事だったわよ、ジェームズさん」


ジェームズは、炎に照らされるカレンの冷徹な笑みを見て、確信した。


ジェームズ(この軍師……ハイドン将軍を『倒す』つもりじゃない。『弄んで壊す』つもりだ……!)


---


ガリクソン「ジェームズ、お前……味方を裏切って偽の伝令を流したのか……」


ガリクソンは絶望したような顔で、同じ諜報員である部下を見つめた。しかし、カレンはその視線を遮るように冷ややかに、かつ優雅に告げる。


カレン「ガリクソンさん、勘違いしないで。ジェームズさんは、貴方や部下たちの命を救うために、あえて汚名を被る役目を引き受けてくれたのよ。責めるなら、部下をそんな立場に追い込んだご自分の無力さを責めることね」


そこに、ふらりとマキを抱いたリノが現れた。


リノ「カレン様、言われた通りの座標に打ち込みましたよ。少し加減を間違えて、大地を少し溶かしちゃいましたけどね」


ガリクソン「……か、壊滅の魔道士、リノ……。これほどの規模を、赤子を抱いたまま、事も無げに……。帝国で聞いた噂より遥かに幼い……いや、それより本当に子持ちなのか……?」


カレン「ありがとう、リノ。これでもう帝国軍の組織的な抵抗は不可能だわ。あとはラクに掃討戦に入れるわね」


リノ「カレン様、マキ様のおむつ替えの時間なので、一度部屋に戻ってもいいですか? 少し……疲れました」


カレン「……ええ、いいわよ。あとの後始末はセシリアたちに任せるから、ゆっくり休んで」


マキ(待てカレン! そこは休ませるな! 公務を優先させろ! 戻ったら私の尊厳が、物理的にも精神的にも消滅させられてしまうーーー!!)


---


### リノの宿舎・個室


マキの必死の抵抗(という名の泣き声)も虚しく、二人は静かな部屋へと戻った。ドアを閉めるリノ。


マキをベッドに寝かせると、いつもの変態的なスキンシップが始まるかと思いきや……リノは膝から崩れ落ちるように、フラフラとマキの隣に横たわった。


その顔はいつもの余裕のある笑顔ではなく、青白く、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。


マキ(……リノ、お前。あの距離から正確に座標を狙い、かつ味方の被害をゼロに抑えるために、魔力を極限まで緻密にコントロールしたのだな。かなりの無茶をしたのだろう……)


マキは、小さな手でリノの服の袖をそっと握った。


「壊滅の魔道士」と恐れられる彼女も、一人で軍隊を無力化する魔法を放てば、その反動は小さくない。リノはマキの温もりを感じ、安心したように目を閉じる。


リノ「……うふふ、マキ様。……優しいんですね。……でも、まだおむつ、替えて……あげ……」


そのまま寝息を立て始めたリノ。マキは安堵と同時に、少しだけ複雑な気分になった。


---


### 帝国軍・ハイドン陣営


一方、ハイドン将軍は地獄の淵にいた。


ハイドン「くそっ! 陣容がバラバラだ! 伝令はどうした! もっと数を出せ!!」


兵士たちは火の壁に怯え、デマに踊らされ、将軍の命令が届く前に敵対する三つの師団長――セシリア、フルーレ、ハナの接近を感知し、恐怖に震えている。


ハイドン(……あれほどの緻密で強大な戦略魔法。リノ一人の仕業か? いや、待てよ。三年前のあの絶望的な包囲網を突破したあの『悪魔の采配』……。まさか、あのマキもここに帯同しているのか!?)


ハイドンは、崩れゆく軍勢の向こう側に、かつて自分を完膚なきまでに叩きのめした「あの騎士団長」の影を見ていた。


ハイドン「……勝てん。……いや、勝たねばならんのだ!!」


しかし、彼の決意を嘲笑うかのように、右翼からフルーレ、左翼からハナ、そして中央から「鬼神」セシリアが、獲物を定めた猛獣の如く突撃を開始する。


今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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