表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/59

第24話:死んだら殺す

第24話「死んだら殺す」


温泉街で新人騎士たちと「温泉饅頭の皮がどうの、餡がどうの」と平和に食べ比べをしていたセシリアに、ハナの密偵が音もなく近づき、一枚の紙を手渡した。


(2時間後か……。こやつらと話していた方が気楽で楽しいのだが、流石に晩餐会をサボるとカレンの説教が数時間は続くからな。仕方ない)


セシリア「お前たち、今日もありがとう! 楽しかったぞ。私は今から温泉に入り、そのあと少々用事がある。また今度、一緒に遊ぼうな!」


新人騎士「そうか、残念だな。じゃあなエレン、また明日!」


爽やかに手を振る若者たちを見送りながら、セシリアは「ふふ、可愛い奴らめ」と、本物の副団長なら絶対に見せないような慈愛の微笑みを浮かべていた。


---


一方、その数刻前。

ハイドン将軍率いる帝国軍の敗走部隊は、命からがら近隣の城塞都市「ゾイド」へと辿り着いていた。


ハイドン「……ハァ、ハァ……。ようやく着いたか。不本意だが、まずはここで食糧と武具を揃え、態勢を立て直すとしよう……」


だが、安堵したのも束の間。開城の交渉に向かわせていた先遣隊が、顔を真っ青にして馬を飛ばし戻ってきた。


側近「ハ、ハイドン将軍! 大変です! ゾイドへの入城を拒否されました!!」


ハイドン「何だと!? 貴様ら、帝国将軍の紋章を見せなかったのか!?」


側近「見せました! ですが、ゾイドの城郭のすべてに、すでにアレクサンド王国騎士団の旗が翻っております! あれは恐らく……セシリア直轄部隊の旗です!」


ハイドン「な、何だと……!? いつの間に!? ええい、ここを守備させていた我が軍の五千の兵はどうなっておる!?」


側近「詳細は不明ですが、恐らく打ち破られたものかと! 攻城戦にはその倍以上の兵力が必要なはず。だとすれば、現在ゾイドを占拠している騎士団の軍勢は……万単位と思われます!」


ハイドン「おのれ!! 軍師カレンめ!! 狙いは最初から、退路の拠点であるここだったというのか!? 先回りなどできるはずがないのに……!!」


ハイドンは悔しさのあまり、地面を拳で殴りつけた。三年前から「無能」と蔑まれ、屈辱に耐えてようやく掴んだ雪辱の機会。それが、戦う前から盤面をすべてひっくり返されている。


側近「将軍、ここに留まるのは危険です! 兵糧なしでの攻城戦は不可能ですし、背後からは騎士団の本隊が迫っています! 挟み撃ちにされますぞ!!」


ハイドン「くっ……!! 全軍撤退だ! 最初に攻め落とした帝国国境の城塞都市『ドルネイ』まで下がるぞ!!」


ハイドン将軍のプライドは、もはやズタズタであった。


---


その頃、タリム王宮の豪華な控え室。


リノの膝の上で、高級な果実水をストロー(魔法で自作)でチュパチュパと飲まされているマキは、ふと考え込んでいた。


マキ(おかしい……。いくらなんでも早すぎる。カレンがゾイドを奪還したという報告は受けていたが、我々の本隊はここにいるのだ。万単位の兵がどうやって、本隊より先にゾイドを攻め落としたというのだ? 転移魔法などこの世には存在しないはずだが……)


リノの思念『うふふ、マキ様。不思議そうなお顔をして、とってもお可愛いでちゅね。カレン様の「悪魔の知略」があれば万単位の兵なんて動かさなくてもお城なんて落ちるんですよ?』


マキ(……また何かしたのか。今度は何をした。答えろ変態魔道士!)


リノは答えず、ただ優しくマキの頬を撫でるだけだった。


---


ゾイド城の城門に、王国騎士団の「三剣」をあしらった青き旗が悠然と翻る。


「リチャード様、ドーガン様! ハイドン本隊が完全に戦意を喪失し、撤退を開始しました!」


側近の報告に、セシリアの古参参謀リチャード(52歳)と、近衛隊長ドーガン(52歳)は、城壁の上で深すぎる溜息をついた。


ドーガン「……助かったのか。我々、本当に生き延びたのだな」


リチャード「……いやはや。セシリア様は、相変わらず無茶をさせてくれるわい」


二人は、つい昨日のことのように、あの「無茶苦茶な命令」を思い出していた。


---


### 数日前・偽セシリア名演説の直後


感動に震え「もう死んでも悔いはありません!」と感涙していた二人に対し、本物のセシリアが不敵な笑みを浮かべて近づいてきた時のことだ。


セシリア「リチャード、ドーガン。お前たち、さっき『先はもう長くない』とか『死んでも悔いはない』とか言っておったな?」


リチャード「は? はあ、まあ、あの演説に打たれまして、そのように申し上げましたが……それが何か?」


セシリア「ならば今から私の直轄部隊五百を授ける。ゾイド城を攻略してこい! めちゃめちゃ急ぐのだぞ?」


フルーレ「……は? セシリア様、ゾイドの守備隊は五千ですよ? 五百じゃ死にに行くようなもんじゃないっすか。いくらなんでも無茶苦茶っすよ」


フルーレが呆れて口を挟むが、セシリアはニヤリと笑う。


セシリア「どうせゾイドには、ハナの部隊が五百は入り込んで攪乱しておるのだろ? 合わせれば千騎。十分だ!」


カレン「……相変わらず脳筋な作戦ね。私も脳筋に生まれてきたかったわ、悩みがなくていいもの(猛烈な皮肉)」


セシリア「な、貴様はまた私をバカにしおって!!」


カレン「でも……面白いわね。不可能ではないわ」


カレンも実は、ゾイド強襲を検討していた。ハナの部隊が内部にいる今が好機だが、各師団のバランスを崩さずに指揮を執れるベテランが不在だったからだ。


カレン「リノ、魔道士師団から五百。シルフィ、特殊支援師団から五百。それにセシリアの五百を足して千五百。指揮は……人生の終着駅が見えたと言っているドーガンさんとリチャードさんに任せるわ」


リチャード&ドーガン「と、とんでもないことになってしまった……(絶望)」


セシリア「ワッハハッハ! 明日には本隊もゾイドに行くから心配するな! いいか、勝ち戦で死んでどうする? 死んだら私が許さん! 死んだら私が殺す!!命令だからな!!」


セシリアは頬を膨らませ、伝説の「ぷんぷんポーズ」で二人を威嚇(激励)した。


---


結果、ゾイドの守備隊五千は、内部からハナの部隊に食糧庫を制圧され、外部からは死を覚悟したベテラン二人が率いる、殺気立った(必死すぎる)混成部隊に包囲された。


「背後には赤ん坊を背負ったあの壊滅の魔道士がいるぞ!」というハナの流したデマもあり、五千の兵は一戦も交えず降伏。現在は全員が大人しく捕虜となっている。


リチャード「死んだら殺す、か。……あのポーズさえなければ、もっと格好いいんですけどねぇ、セシリア様」


ドーガン「まあ、あれがセシリア様だ。さて、本隊を迎える準備をするとしようか」


タリム王都では晩餐会が始まろうとしているが、その勝利の礎は、二人の老騎士の「寿命を削った大博打」によって築かれていた。


---


タリム王宮の晩餐会場。豪華なシャンデリアの下、タリム王国の重鎮たちは、カレンが淡々と読み上げる「戦果報告書」の内容に、椅子から転げ落ちんばかりの衝撃を受けていた。


「現時点での、我が軍・帝国軍双方の死者、ゼロ……だと!?」


「ば、馬鹿な!? 帝国軍側も死者ゼロだと!? 戦争だぞ、これは!」


「昨晩、地平線の彼方が消失するほど悪魔的な大規模魔法が放たれたと報告があるが、それでも死者は出なかったのか!?」


「足止め部隊五百も、ゾイド城の五千も、全員生存!? 信じられん……」


タリムの、どこか「中小企業の課長」を思わせる大臣たちは、顔を見合わせて騒ぎ立てていた。


タリム国王「……それでは、現在は帝国兵六千人を捕虜として収容しているわけですな?」


カレン「ええ。最初にリノが放った威嚇魔法の余波で、腰を抜かして逃げ遅れた五百人もきっちり回収しましたから。


ハナの諜報部隊が道案内をして、現在は全員大人しく我が軍の管理下にあります」


タリム国王「……セシリア殿、カレン殿。タリムの民を、そして不名誉な死を遂げるはずだった兵たちをも救ってくださったこと、心より感謝いたす」


深々と頭を下げる国王。だが、その感動的な空気をぶち壊す声が響く。


セシリア「(ヒソヒソ)……おいカレン。やはりこの国王、自宅のローンが定年後まで続いてそうな、冴えない、情けない、うだつの上がらない三拍子揃った中間管理職そのものではないか? 覇気がなさすぎて、むしろ私が小遣いをやりたくなってくるぞ」


カレン「……だまれ(小声)」


カレンが笑顔のまま、テーブルの下でセシリアのすねを全力で蹴り飛ばした。


マキ(……さすがセシリアだ。ハナやフルーレの失礼さなど足元にも及ばぬ高みにいる。まさに『失礼オブ失礼』の名を欲しいままにした女よ。まあ……隣の『変態オブ変態』に比べれば、まだ可愛げがあるがな)


リノの思念『――うふふ。マキ様ったら、そんなに私のご奉仕を催促しちゃって。そんなに夜まで待てないのですかー?』


マキ(!!! だから勝手に人の思念に入ってくるなと言っとるだろうが! このプライバシー皆無魔道士め!!)


リノは、マキの抗議を「嬉しい悲鳴」として処理しながら、タリム特産の高級果実ペーストをスプーンで掬い、マキの口元へ運ぶ。


リノ「ほーら、マキ様。あーんちてくだちゃいねー? 美味しいでちゅよー、うふふ……」


タリム国王「……おお、なんと神々しい。その赤子こそ『幸運を呼ぶ御子』ですな。実に慈愛に満ちた光景だ……」


マキ(慈愛!? どこがだ! 私が今、どれほどの精神的蹂躙を受けているか分かっておるのか、この中間管理職国王ーーー!!)


王都の夜は更けていく。しかし、六千人の捕虜と、帝国国境の城塞都市ドルネイに残ったハイドン将軍の存在が、不穏な影を落としていた。


---


「中小企業の接待」のような、どこか胃がキリキリするような社交辞令に満ちた晩餐会も、ようやくお開きを迎えようとしていた。


セシリア「我がマキは血みどろの殺し合いなど望んでいないし、見せたくもないのだ。一日も早くドルネイを解放し、帝国軍をタリムから追放することを約束しよう!」


中間管理職国王「おお……セシリア殿! 我が軍も微力ながら、精一杯頑張らせていただきますぞ! ローンの残った自宅を守るがごとく、必死に!」


セシリア「(小声)……カレン、やはりタリム軍は地味で質素すぎて、戦場では邪魔にしかならない気がするのだが……。というか、あの国王、さっきから例え話が切実すぎて怖いぞ」


カレン「(小声)だまれ……」

ゴン! という鈍い音と共に、カレンのヒールが再びセシリアの脛を正確に捉えた。


---



晩餐会が終わり、束の間の自由行動。


フルーレ、ハナ、シルフィの同期三人組は、「いいからいいから!」と影武者疲れで真っ白になっているエレン(偽セシリア)を無理やり連行し、タリム自慢の温泉へと消えていった。


カレンとリノは「マキ様とじっくり(お仕置きを兼ねて)遊びまちゅから」と、不敵な笑みを浮かべて自室へ。


さて、一人残された本物のセシリア。


彼女は再び伊達メガネをかけ、しっくりくる新人騎士の隊服に着替え、夜の回廊を歩いていた。


セシリア「うむ。温泉に行くか、マキ様の顔を見に行くか……。悩むなら両方楽しめばよいではないか! やはり私は賢いな、ワッハハ!」


独り言を言いながら豪快に笑ったその時、背後から遠慮がちな声がした。


ジェームズ「セシリア……さん。やっと、二人で話ができる」


振り返ると、そこには複雑な表情を浮かべたジェームズが立っていた。


ジェームズ「夕方は若手の隊員たちに囲まれて大人気だったからな。とてもじゃないが、入り込める隙がなかったよ」


セシリア「おお、ジェームズ! 暇しておったのか? 夕方でも遠慮なく声をかければよいものを。……さては、お前。私が若造どもと仲良くしておったのが、ねたましいのか?」


セシリアは頬を少し朱く染め、上目遣いにイタズラっぽい笑みを浮かべてジェームズを覗き込んだ。


ジェームズ「な、何を言う……んですか!? それに、そのポーズはやめろ! ……いえ、やめてください、心臓に悪い!!」


ジェームズは激しく動揺した。昼間に遠眼鏡越しに見た、たった一振りで百五十人を無力化した「鬼神セシリア」……。


その同じ人物が、いま目の前で新人の格好をして、少女のような無垢な(破壊的な)可愛らしさで自分をからかっている。


ジェームズ(この人の『ギャップ』は、もはや戦略兵器レベルだ……。帝国軍が勝てないわけだよ……)


---


その頃、豪華な客室。

マキはリノに「温泉成分を配合した最高級のベビーパウダー」を全身にまぶされ、すっかり「いい香り」に仕上げられていた。


マキ(ジェームズよ……。セシリアのその天然小悪魔ポーズに耐えきれず、過去に何人の男が廃人になったと思っている。早く逃げるのだ……。というか、カレン! リノが私の脇の下を執拗にこちょこちょしてくるのを止めろ!!)


リノの思念『うふふ。マキ様、脇の下が弱点なのでちゅね? 記録しておきまちゅ。……あら、ジェームズさんとセシリア様、いい雰囲気じゃないでちゅか。』


タリムの夜は、戦時中とは思えないほど騒がしく、そして危険な恋(?)の予感と共に更けていく。


今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ