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第22話:エレンさまといっしょ

第22話「エレンさまといっしょ」


セシリア「まずは開幕戦の奇襲成功を祝って乾杯だ!」


セシリアの号令により、敵陣の燃え盛る火光を遠くに眺めながら、フルーレの幕舎はまたしても宴会場へと姿を変えた。


カレン「そうね。本格的な進軍は夜が明けてから。ハイドン将軍も今頃パニックでしょうし、今のうちに一杯いただこうかしら」


ハナ「ボクもたっぷり飲ませてもらうよ! この幕舎、帝国軍から没収した高級ワインやシャンパンが山積みだしね。……はい、ジェームズさんも何飲む?」


ジェームズ(副隊長)は、長椅子の真ん中に座らされ、左右からハナとフルーレにお酒を注がれるという、帝国軍人としては想像もつかない事態に陥っていた。


正面には足を組んだ軍師カレンと、笑顔のセシリア、そして甲斐甲斐しく立ち働く聖女シルフィ。


その光景は、戦場の幕舎というよりは、指名料が恐ろしいことになりそうな王都の超高級クラブのようであった。


リノ「うふふ、ジェームズさん。皆さんからこんなに気に入られるなんて珍しいんですよ? 幸せ者ですね」


ジェームズ「……命がいくつあっても足りない気がするんだが」


リノ「そこはしっかり喜んでおくべきですよ。……ところで、帝国では私たちのこと、どんな風に噂しているんですか?会うたびに変なリアクションしてましたもん」


ジェームズ「……聞かない方がいい。セシリアは『鬼神』、カレンは『冷酷な氷の軍師』、フルーレは『疾風の細切れフルーレ』だ。あんたに至っては『壊滅の魔道士』……一国を一夜で灰にする怪物だと教わってきた。それが、実際に会ってみれば……」


フルーレ「細切れは酷いっすね。ジェームズさん、私だって傷つくっすよ?」


ハナ「ねえねえ、ボクは? ボクはどんな二つ名なの?」


ジェームズ「……『闇の女王』『闇を統べる者』その姿を見たものは必ず消される、一度目をつけられたら、魂まで抜き取られるってな」


ハナ「それも酷いね……ボク、こんなに可愛いのに‥‥」


マキ(……確かに『壊滅』といえば性格が壊滅しておるがな。まあ壊滅というよりは『変態の魔道士』というのが正しいのだが)


リノの思念『――はい。マキ様、お仕置き確定でちゅ。戦場での暴言は罪が重いですよ?』


マキ(ひいいっ! 何回も言っておるが、人の思念に勝手に割り込むなと言っとるだろうが!)


リノ「ジェームズさん、この戦争が終わったら、慣れるまでは私の魔道研究所に住むといいですよ。そこは隔離されていて安全ですから」


ジェームズ「……あ、ありがとう。……え、なんでそんなに親切なんだ?」


リノ「いえ。セシリア様の『彼氏候補』は過去に何人もいましたが、その全員が全員、揃いも揃って行方不明になったり、謎の失踪を遂げたりして、その後消息すら完全に不明になっているので。私の研究所なら、物理的な意味で保護できますから、てへっ☆」


リノがにこやかに放った爆弾発言に、ジェームズはシャンパンを吹き出しそうになりながらガタガタと震え出した。


マキ(……そう言えば、セシリアのあの無自覚な美少女ポーズに騙されて交際を申し込んだ男は山ほどいたが、あいつら、どこへ消えたのかと思っていたが……そういうことだったのか!?)


カレン「ふふっ。とにかく、この遠征中は私の隣にいてもらうわよ。よろしくね、ジェームズさん。貴方とは『脳の髄まで』じっくりお話ししたいことが山ほどあるの」


ジェームズ「ひいいっ!」


マキ(可哀想に。この軍師に目をつけられたら、隠し事どころか前世の記憶まで暴かれかねん。……しかし、本当に恐ろしいのは、その冷酷軍師すら手玉に取るこの変態魔道士リノなのだが……)


リノの思念『あら? マキ様。そんなにお仕置きを催促して……。そんなに私に構ってほしいなんて、可愛らしいですね。うふふ』


マキ(うわあぁぁ! だから勝手に人の思念に……!! 私のプライバシーはどこへ行ったのだ!!)


夜明け前の静寂の中、ジェームズの絶望とマキの悲鳴を乗せて、王国騎士団の夜は更けていく。


だが、リノの腕の中の温もりだけは、皮肉にもマキに「赤ん坊としての安眠」を強制的に与えるのだった。


---


帝国軍のハイドン将軍(27歳)は、あと一歩で栄光を掴みかけていた。


タリム王国の王都タリムシティは完全に包囲され、ハイドンの頭の中では既に、陥落後の祝杯の味が広がっていたのだ。


ハイドン「フハハ! 策士策に溺れるとはこのことよ! 軍師カレン、お前の進軍速度ではもう間に合わん。王都を落とした後、ゆっくりと絶望を味合わせてやるわ!」


三年前、マキ・クロフォード率いるわずか五千の兵に、二万の軍勢をボロ雑巾のように叩きのめされたあの日から、


彼は「無能」のレッテルを背負わされた、そして帝国で雑用に近い任務をこなしながらずっとこの日を待っていた。


ハイドン「今回マキはいない。私の勝ちだ!」


そう豪語した直後、夜の闇を裂いて「ドオオォォォン!!!」という、この世の終わりを告げるような爆音と地響きがハイドンの幕舎を揺らした。


ハイドン「な、何事だ!? 奇襲か!?」


側近「ほ、報告! 王国騎士団側からの遠距離魔法攻撃です!!」


ハイドン「馬鹿な! ヤツらは一山向こうで野営中のはず! そこから魔法を届かせるなど、地形を無視した化物でもいない限り不可能だぞ!!」


ハイドンの脳裏を、王国が誇る「壊滅の魔道士」の噂がよぎる。だが、彼女は極秘任務で不在のはず。


密偵「しょ、将軍! 幸いにして兵士たちへの直撃は逸れ、人身被害は軽微です!」


ハイドン「……フ、フン! 所詮は威嚇か。ならば態勢を立て直して反撃に――」


側近「待ってください将軍! 他に撃ち込まれた三発……あれが正確に、我が軍の武器庫、弾薬庫、そして兵糧庫を直撃し、全て蒸発しました!!」


ハイドン「……あ?」


側近「攻城戦どころか、明日からの飯も、戦う矢の一本もありません! 撤退しかありません将軍!!」


ハイドンの三年にわたる再起の夢は、壊滅の魔道士リノが「子守り」をしながら鳴らした指先ひとつで、文字通り壊滅した。


---


一方、勝利を確信している王国騎士団本陣。


セシリア「ワッハハ! 敵の兵糧庫が消し飛ぶのがここまで見えたぞ! 追撃戦は明朝だ、今日は朝まで祝い酒だーー!!」


ハナ「イエーイ! 略奪した帝国ワイン、どんどん開けちゃえー!」


ジェームズ「……おい、お前ら。明日は人生かかった決戦なんだろ? 本当に寝なくて大丈夫なのか……?」


カレン「ふふっ。ジェームズさん、王国幹部の肝臓のスペックを甘く見ないでほしいわね。さあ、あなたも飲みなさい?」


銀髪の軍師に冷たくも妖艶に微笑まれ、ジェームズは震えながら杯を干すしかなかった。


そして、運命の翌朝。

朝霧が立ち込める中、整列した二万の兵士たちの前に現れたのは、昨日と同じ――いや、昨日以上に酷い有様の首脳部だった。


セシリア「……ヤバい……。まじで……寝坊した…………。頭が……割れる…………」


鎧の右肩パーツを左膝に装着したまま、フラフラと現れるセシリア。


カレンはサングラスで虚ろな瞳を隠し、シルフィは自分に解毒魔法をかけすぎて全身から神々しいまでの光(という名の吐き気止めの魔力)を放っている。


そんな中、リノだけは朝風呂上がりのように清々しい顔で、おんぶ紐でぐったりしたマキを背負って現れた。


リノ「皆さん、おはようございます。マキ様も、ぐっすり寝て元気いっぱいでちゅねー?」


マキ(元気なわけあるか!! 貴様のせいで深夜に三回も……三回も絶頂させられた挙句、寝不足で意識が遠のいているのだぞ!! ていうか、セシリア! その装備で戦場に出るつもりか!!)


王国騎士団、史上最低のコンディションで、いよいよ敗走する帝国軍への追撃を開始する。


---


二日酔いで視界がぐわんぐわんと揺れる中、カレンは捕虜のジェームズに肩を貸してもらい、セシリアは自分の足がどこにあるかも怪しい足取りで本陣へと辿り着いた。


ジェームズ「……情けない。あんたたち、本当にアレクサンド王国最強の幹部なのか? ほら、あと少しなんだからしっかり歩いてくださいよ」


捕虜に介護される軍師と副長。しかし、本陣の様子は異様な熱気に包まれていた。


待機していたはずの兵たちが、一様に涙を流し、何かに深く感動しているのだ。


セシリアの古参の近衛兵が、鼻をすすりながら駆け寄ってきた。


ドーガン「ううう……セシリア様! あのセシリア様が、これほどまでにご立派な人格者になられるとは……! 私、もう死んでも悔いはありませんぞ!」


古参の参謀までもが、眼鏡を拭きながら咽び泣いている。


リチャード「あのセシリア様が、この私めに『いつも迷惑をかけてすまない、体を大切にせよ』と労いの言葉をくださるなんて……天変地異の前触れかと震えましたが、魂の成長に震えましたぞ!」


セシリア「……は? 何の話だ? 私はいま、頭の中で鐘が鳴り響いておってそれどころではないのだが‥‥」


困惑する二人の視線の先、演台の上には、燦然と輝く甲冑を纏った「セシリア」が立っていた。


偽セシリア「皆さん! はやる気持ちは分かります! しかし、我々は無益な殺生のために来たのではありません。最大の目的はタリム王国の救出です! 敗走する敵に無理な追い打ちをかけ、我らが若き騎士たちの命を散らすなど、私は望みません! 帝国兵にも、待っている家族がいるのです!」


「「「「セシリア様ぁぁぁーーー!!!」」」」


大地を揺らすような兵たちの咆哮。


本物のセシリアは、口をあんぐりと開けて固まった。


セシリア「……誰だ、あいつ。私よりよっぽど『副長』を

しておるではないか」


偽セシリア「あ! やっと来られた!! ちょ、ちょっとこっちへ来てください!!」


幕舎の裏へ引きずり込まれた本物たち。そこには、ヘトヘトになった若手騎士がいた。


偽セシリア「セシリア様、酷いですー! 朝まで飲み明かすなんて聞いてませんよ!? 私、一晩中みんなの相談に乗ったり、怪我人の手当てを手伝ったり、どんだけ苦労したと思ってるんですかー!?」


セシリア「おお……そういえば、替え玉を頼んでおったな。しかし見れば見るほどそっくりだな。声色まで完璧ではないか」


カレン「……決めたわ。この子、本物よりよっぽどまともで統率力があるわね。貴女、今日からそのままセシリアになりすましなさい。本物は……そうね、馬車でマキ様のおむつ替え専属担当に降格よ」


セシリア「待てカレン! さらっとひどい人事を下すな!!」


ジェームズ「……俺が昨日から命懸けで偵察して、遠眼鏡で震えながら見ていた『威厳ある総大将』は、そもそも偽物だったのかよ……。俺の決死の覚悟を返せ……」


マキ(……皮肉なものだな。本物が二日酔いで潰れている間に、偽物が騎士団の支持率を爆上げさせるとは。おい、リノ。この偽物をそのまま副長に据える魔法はないのか?)


リノの思念『うふふ、マキ様。それより、追い討ちをかける準備を整えましょうよー?』


マキ(結局、一番えげつないのはお前かーーー!!!)


偽セシリア(新人騎士・エレン)の「あまりに立派すぎる代行」により、王国騎士団の歴史が塗り替えられようとしていた。


カレン「この子は使えるわ。というか、替えが効かないわね」


カレンは冷徹な軍師の目でエレンを見つめる。それは影武者としての登用という名の、逃れられない「終身雇用宣告」であった。


ハナ「ボクも大賛成! 偽セシリア様、めちゃめちゃ良い人じゃん。博識だし判断も早いし、何よりボクの嘘を見抜かない(重要)! これからもよろしくね!」


シルフィ「本物より遥かに副長らしい威厳があります。偽セシリア様になら、私も心から慈愛の加護を授けられますね」


フルーレ「私も。偽セシリア様の方が優しくてリーダーシップあるから、このまま本職になってほしいっすよ。……さて、そうなると本物の今後の取り扱いに困るっすね」


リノ「皆さん、本物のセシリア様を誤解しすぎですよ。あの方、お花を植えたり手入れしたり、優しい一面もあるんですから」


カレン「……それじゃ決まりね。偽セシリアに副長の実務を丸投げして、本物のセシリアは今後、執務室の窓際で『印鑑つき係』兼『園芸部長』に配置換えを今すぐ手配するわ」


セシリア「貴様ら! 滅茶苦茶言いおってからに!! いい加減にせぬと、いくら温厚な私でも本気でキレるぞ!!!」


セシリアは腕を組み、真っ赤になった頬をこれでもかと膨らませ、上目遣いで「ぷんぷんポーズ」を繰り出しながらマジギレした。


ジェームズ「(……これが帝国で恐れられた『鬼神』のキレ顔か? 恐怖の種類が違いすぎて、脳の処理が追いつかないんだが……)」


結局、カレンの笑顔の恐喝により、エレンは影武者登用を無理やり承諾させられた。


彼女がセシリアの鎧を脱ぎ、普段の新人隊服とメガネ姿に戻って自陣へ帰ると、さらなる異変が待っていた。


「おい、エレン! お前、ツンツンして愛想のないやつだと思ってたけど、実はめちゃくちゃ可愛いところあるんだな!」


「今度、一緒にお茶に行かないか?」


「なあ、昨日やってた『お仕置きしちゃうぞポーズ』、もう一回やってくれよ!」


エレン「……はい? いったい何が起こってるの? セシリア様、私の姿で(というか自分の姿で)いったい何をしたの!?」


本物が偽物のフリをしている間に「可愛さ」を振りまき、偽物が本物のフリをしている間に「カリスマ」を爆上げした結果、騎士団の人間関係は修復不可能なレベルで混沌としていた。


マキ(なんという恐ろしい光景よ……。私は一日も早い騎士団への復帰を願っていたが、どうやら復帰先は慎重に選ばねばならん。このままでは、私も「可愛いから」という理由だけでおむつモデルに配置換えされかねん……)


マキが自分の将来を本気で危惧する中、リノはおんぶ紐を締め直し、不敵に笑う。


リノの思念『うふふ、マキ様。人事異動の心配より、まずは今晩の百烈キスの心配をしましょうね〜?たっぷり可愛がってあげまちゅからねー?』

今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださると嬉しいです。

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