第21話:子連れ魔道士
第21話「子連れ魔道士」
副隊長は、自分の置かれた状況が理解できず、ただただ困惑していた。
副隊長(おいおい、このお嬢ちゃん……。下っ端の新人のはずなのに、なんでこんな馬鹿力なんだ!? 引きずられて抵抗すらできない……。セシリア直轄の末端は、全員化け物なのか!?)
セシリア「貴様はこれからは毎日、私が直々に鍛えてやるからな!! まずは居場所を確保せねばならんから私の『友達』に預かってもらうことにする!!!」
連行された先は、剣士師団の最奥――。
そこは、帝国軍の間でも「近づけば細切れにされる」と恐れられている、八刀流の剣士師団長フルーレの幕舎だった。
副隊長(こ、この新人、何をする気なんだ!?フルーレでも出てきたらどうするつもりなんだ!?)
「なんすか? もう夜も遅いですよ。……っていうか、なんすかそのメガネ。似合ってないっすよ?」
グレーの髪を揺らし、最高に面倒くさそうな顔で現れたのはフルーレ本人だった。
しかし本人とは気付かず、副隊長は「この子、フルーレ様の付き人と友達なのか?」と勘違いしたまま、ガタガタと震える。
セシリア「ワッハハッハ!!! 賢そうに見えるだろう?」
フルーレ「……ぜんぜん見えないっす」
事の経緯を聞いたフルーレは、呆れたようにため息をついた。
フルーレ「まあ、話は分かったっす、そういう話ならわたしが預かってもいいすけど‥‥。あ、副隊長さん? 何か飲むっすか? それにしても、あんたって本当に笑えるくらい運がないっすね?」
副隊長「何を言うか……。大失態はしたが、最後にこんな可愛らしくて面白い新人と出会えた。グレー髪のお嬢ちゃんも、無愛想だが良い子だ。俺も、最初からこの騎士団に入っていたら、人生変わってたんだろうな」
ハナ「あ、やっと見つけた! 副隊長さんが一人で本陣に向かったって聞いたけど、やっぱりここに来てたんだ? まあ、それしか助かる術はないんだけどね。ボクのせいで本当にごめん!」
幕舎の隙間から、ひょっこりと赤髪の少女――ハナが顔を出した。
副隊長「あ!? お前はあの時の赤髪!!! お前のせいで俺は……!!」
そう言って副隊長はハナに詰め寄ろうとしたが、途中で諦めたように止めてしまった。
副隊長「 ……って、もう今となってはどうでもいい事だがな。お前と一緒に飲んでた時は、本当に楽しかったよ、それこそ時間が経つのを忘れるぐらい楽しかったんだ」
ハナ「じゃあボクも一緒に入るからさ、また楽しく一緒に飲もうよ?ね?ね?いいでしょ?」
ハナに即され副隊長は四人で酒を酌み交わしながらいろいろ語り合った、戦闘漬けの毎日を過ごしていた副隊長にとってはそれはもう至極の時間だった。
そして和気あいあいとした飲み会が二時間ほど過ぎた頃。あらためて副隊長が語り始める。
副隊長「お嬢ちゃんたち、俺の最後の晩餐に付き合ってくれてありがとうな。最期に可愛い子たちに囲まれて、俺は幸せ者だ」
セシリア「だから最後ではないと言っておろう!」
副隊長「メガネの新人。心から礼を言うぞ。本当にお前は本当に心が優しいやつだな、それにとても可愛らしくて笑えるぐらい面白いやつだ。……もし、もしも俺に来世があるなら、俺の彼女になってくれないか?前向きに検討しといてくれよ!」
副隊長のその言葉に、フルーレとハナの顔から一瞬で血の気が引いた。
((こ、この人……死にたいのか!? 王国最強の『剛剣』、さらには『傍若無人』というか『支離滅裂』な『ジャイアン』みたいな『気は荒くて力持ち』な人を彼女にしたいって……!!))
その時、幕舎の入り口が静かに開いた。
カレン「セシリア。この人が、洗いざらい全て話してくれるっていう協力者?」
冷徹な軍師の問いかけに、副隊長は耳を疑った。
副隊長「は??? ……いま、このメガネの下っ端新人のことを……なんて呼んだ?」
セシリアはニヤリと笑い、伊達メガネを指でクイッと押し上げた。
セシリア「ああ。申し遅れて済まなかったな、私が、王国騎士団副長、セシリア・ローランドだ。来世と言わず、今世で私の『しごき』に耐えてみせろ。帝国には、貴様は名誉の戦死をしたと報告してやるからな!!」
副隊長「はあああああ!?!?!?」
副隊長の叫びが夜の野営地に響き渡る。
一方、遠く離れた豪華馬車の中、マキはリノに耳を甘噛みされながら思っていた。
マキ(……すまんな、副隊長。我が騎士団の幹部達に気に入られるということは、死ぬより過酷な『日常』が始まるということなのだ……)
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恐怖の幕舎の中で、帝国軍副隊長は石のように正座して固まっていた。
目の前の「金髪メガネの新人」が副団長セシリアで、「無愛想なグレー髪」が八刀流のフルーレ、そして「ハーブチキンの赤髪」が諜報師団長ハナ……。トドメに「氷の軍師」カレンまでが勢揃いしたのだ。
副隊長はもはや生きた心地がしなかった、そしてカレンの尋問が始まる。カレンによる尋問は、副隊長にとって奇妙な体験だった。
彼は一切、軍機を話した覚えはない。しかし、カレンが淡々と質問を投げかけ、彼が沈黙を守るたびに、机上の地図には正確な敵陣容が書き込まれていった。
カレンは、質問に対する微かな瞳孔の動き、呼吸の乱れ、心拍数から、瞬時に「正解」を導き出していたのだ。
カレン「副隊長さん、協力ありがとう。意外とすぐ近くに駐屯している部隊もあったのね。今、特殊支援師団と魔道士師団に指示を出したわ。……今から派手な花火大会が見れるわよ?」
副隊長「はあ……(協力なんてしてないのに、全て言い当てられた‥‥もう終わりだ……)」
そこへ、真紅のベビー服を着たマキを抱っこしたリノが、ふわりと現れた。
リノ「カレン様、魔道士部隊は左側に配置完了です。いつでもオッケーですよ? ……あ、貴方が副隊長さんですか? リノです、よろしくお願いしますねっ!」
副隊長「(こ、この少女が帝国で恐れられてる、あの有名な『壊滅の魔道士』リノ……!?!?まさか、こんな可愛らしいお嬢ちゃんで、しかも赤ちゃん連れの『子持ち』だったなんて‥‥もう意味わかんねーよ……)」
シルフィ「カレン様、全部隊への防御結界、展開完了です。これで相手の魔法は届いたとしても無効化されます。……あ、副隊長さんはじめまして。わたくしシルフィと申します、ハーブチキン、ご馳走様でした。美味しかったです」
副隊長「(この白い髪の可愛らしい子が帝国でも有名な回復魔道士『聖女シルフィ』‥‥全員が全員聞いてた容姿と全然違うぞ!?もう何が何だかさっぱり分かんね‥‥)」
リノ「カレン様、ハナ様の部隊と他師団は、絶対に私の『直線上』に入らないように徹底してくださいね?」
不敵に微笑むリノの瞳が、夜の闇を突き抜けて敵陣を見据える。
リノの思念『マキ様、オープニングは私の魔法からです! マキ様のはじめてのいくさ、開幕ですよ!』
マキ(ちょ、ちょっと待て!? まさか、この前のあの……魔道士訓練所で見せた、地形を変えるレベルのあれをやるつもりか!?)
リノはカレンたちの見守る中、腕の中のマキを落とさないようしっかり抱き直し、自由になった方の指を「パチン」と鳴らした。
ヘイマーから見て憶え、自身の魔力と融合させた「魔力誘導・極」が発動する。
リノ「いっけぇーー!!」
**ドオオォォォン!!!**
巨大な円柱状の漆黒の爆炎が直線状に放たれ、夜空を真っ赤に染め上げた。敵の第一陣地が、反撃の暇もなく一瞬で蒸発する轟音が響き渡る。
マキ(だから……私を抱っこしながら、戦略級魔法を撃つ意味は何なのだーーー!? 鼓膜が、私の赤ん坊の鼓膜が死んでしまうーー!!)
この一撃を合図に、待機していた魔道士師団の遠距離魔法が、宝石を散りばめたような光の礫となって夜空を埋め尽くした。
カレン「副隊長さん、ここまで『協力』して派手に撃っちゃったんだから、もう帝国軍には戻れないわよ? うふふ」
セシリア「戻る必要はない! お前は私が一人前に鍛え上げるんだからな!! ……ねっ?」
キャピキャピとした「お願いポーズ」で叫ぶセシリア。だが、その後ろではリノの放った爆炎が、今も帝国軍を焼き尽くしている。
副隊長「あわわわわ……(俺、とんでもない魔界に足を踏み入れちまった……魔界、いや魔王の居城の方がまだ生きた心地がありそうに思える‥‥)」
王国騎士団の「圧倒的な蹂躙」が、ついに幕を開けた。
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カレン「開幕戦は上々ね。副隊長さんのおかげよ、本当に助かったわ、こんなに正確に情報を把握してたなんて、あなたかなり優秀なのね?」
ハナ「副隊長さんありがとう! さすがボクが見込んだ人だよ。君のおかげで、ボクたちの被害はゼロだよ!」
フルーレ「副隊長さんの協力なしでは出来なかったっす。あんた、意外と良いやつなんすね、ありがとう」
シルフィ「副隊長さん、さすがセシリア様の『未来の彼氏候補』ですね! 応援してますよ?」
セシリア「まだ彼氏ではないが、鍛え甲斐はありそうだ! ワッハハ、明日から死ぬ気でついてこいよ!!」
次々と浴びせられる感謝と激励の言葉(という名の外堀埋め)に、副隊長の顔は土気色を通り越して真っ白になっていた。
そして、夜の静寂を切り裂き、空を覆い尽くすような巨大な爆炎が、さらに三発連続で放たれた。
**「ゴオッ!! ――ドオオォォォン!!!」**
大地を揺らす轟音。リノの腕の中で、マキは衝撃に備えて耳を塞ぎ(リノの手によって強制的に)、白目を剥きそうになっていた。
リノ「副隊長さんのおかげで、ここまで正確な座標が分かったんです。せっかくなんで、敵の食糧庫と予備兵舎にもあと三発、打ち込んどきましたっ! えへっ」
リノがマキを抱き直しながら、天使のような笑顔で「えへっ」と小首を傾げる。だが、その指先の先にあるのは、帝国軍の断末魔が響く地獄絵図であった。
副隊長「……ああ、俺はもう二度と、ゼッターランド帝国には戻れない。あっちの連中から見れば、俺は寝返って全情報を売り払った大逆賊だ……」
セシリア「何を悲観している! 私の部隊に入るのだから、戻る必要などないだろう!? アレクサンド騎士団は福利厚生もバッチリだぞ!?」
ハナ「ちょっとセシリア様、副隊長さんは優秀な諜報部員だよ? ボクの部下として、ボクを支えるべきだよ。ねえ?」
フルーレ「私はどっちでもいいすけど……とりあえず、あのハーブチキンの作り方を一緒に習いたいっすね。美味しいから」
幹部たちが和気あいあいと「戦後の副隊長の取り扱い」について談笑する中、ベッドの上でぐったりとしているマキは、静かに涙を流していた。
マキ(……すまんな、副隊長。私は自分の運命を呪っていた、しかしお前の境遇に比べれば、まだマシだったのかもしれん。この「無自覚な怪物」たちに気に入られることが、これほどまでに残酷な未来を招くとは……。せめて私が、元の姿に戻ったら、お前の身の安全だけは保証してやるからな……)
赤ん坊のマキにすら同情されるという、かつてない絶望を味わう帝国軍諜報部隊副隊長。
一方、爆炎の彼方では、ハイドン将軍が「何が起きた!?」と泡を吹いて倒れていた。
今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。
今後とも何卒長くお付き合いくださると嬉しいです。




