第14話:はじめてのお出かけ
第14話「はじめてのお出かけ」
セシリア「マキ様! このセシリア、不遜ながらお着替えをさせていただきます!!」
昨日リノから叩き込まれた「着付け」の技術を披露せんと、セシリアが鼻息荒くマキに迫る。
手際よく、だが執拗なほど丁寧にマキの服を脱がせ、そして最後に残ったおむつのテープを外した。
シルフィとフルーレは、もはや「伝統芸能」でも見るかのように、露わになったマキの「ちんまりとした可愛らしい場所」を微笑ましく眺めている。
一方、赤ん坊になったマキの全裸を初めて拝むカレンは、その場に凍りついた。
カレン「マキ様……おいたわしい……。このような……このようなお姿に……」
マキ(……みなまで言うな、カレン。同情されればされるほど、己の惨めさが身に染みるわ……)
マキが自嘲気味に目を伏せた瞬間、カレンが叫んだ。
カレン「このような……なんて……**なんて可愛らしいお姿に!!**」
マキ(ぎゃあぁぁぁ!? 貴様もそっち側かぁぁぁ!?)
カレンの脳裏には、昨日リノが吹き込んだ「敵魔道士による辱め」の捏造エピソードが鮮明に再生されていた。
二十三歳の成熟した肉体が、みるみる幼くなり、未発達な赤ん坊へと退行していく過程……。
それを想像し、目の前の「実物」と照らし合わせたカレンは、顔を真っ赤に上気させ、学術的な観察という名の「凝視」をマキに浴びせ続ける。
マキ(た、助けてくれ!! 変態魔道士に続いて、変態軍師まで現れてしまったではないか!! リノが『動』の変態ならば、カレンは赤ちゃん言葉で羞恥心を抉る『静』の変態……! 私の安住の地はもう、この世のどこにも無いのか!?)
リノの思念『変態とか失礼でちゅねー? あとでたっぷり、声が出なくなるまでお仕置きちまちゅからねー?』
リノの容赦ない思念が、全裸のマキを震わせる。
その後、セシリアによる入念な(という名の愛撫に近い)おむつ替えと着付けを、不屈の精神で耐え抜いたマキ。
真紅のフリルに包まれ、ベッドの上に「鎮座」させられた姿は、まさに生贄の仔羊であった。
セシリア「それではマキ様、今より我々は出仕いたします! また明日、ご挨拶に参ります!」
セシリアたちが活気よく去っていく中、カレンだけが名残惜しそうにマキの手を握った。
カレン「マキ様、私も出仕いたします。……明日から、私も朝のご奉仕にご一緒させていただくことをお許し願えないでしょうか……?」
リノの思念『マキ様はカレン様をすごく気に入られてますから、私からもお願いしますよ。あんなに楽しそうにお食事するマキ様、初めて見ましたもの。ほら、マキ様も「うんうん」って言ってますよ?』
マキ(リノ貴様ぁ!!! 何を勝手なことを!? 私はそんなこと一ミリも望んでないわーー!!!)
カレン「マキ様が顔を真っ赤にして喜んでおられる……!! それも、とびっきり可愛らしいお顔で!! 明日もごはん、もぐもぐさせてあげまちゅからね〜?」
マキ(うぎゃあぁぁ〜! やめろぉぉ!! 言葉責めをやめろぉぉ!!)
嵐のような部下たちが去り、ようやく訪れた二人きりの静寂。だが、それはマキにとって「真の地獄」の始まりだった。
リノがゆっくりと、獲物を追い詰める蛇のような足取りでベッドへ近づいてくる。
リノ『――マキ様、安心してください。今日もいっぱい頑張ったマキ様に、私からのご褒美として……皮膚がふやけるまでキスしてあげますからね』
マキ「……ひっ、や、やめろリノ、来るな、ああぁぁぁーーっ!!」
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リノ「マキ様、左ばかりじゃなくそろそろ右も吸ってください。バランスは大事ですよ……んんっ!」
チュパチュパ……チュパチュパ……。
マキ(……なあリノよ。これは本当に休憩と言えるのか? 呼吸が苦しいし、顎が疲れてきたのだが……本当の意味で私を労っておるのか……?)
リノ「もちろんでちゅよマキ様。乳離れ絶対拒否訓練は、マキ様と私が同時に癒やされる究極の癒やしプランですから。あんっ、そんなに強く吸われたら……」
マキ(そんなわけあるかぁぁぁー!! この変態魔道士め!!! 癒やされておるのは貴様だけではないか!!!! むしろ私の精神は削られておるわ!!!!)
リノ「はぁ……。仕方ないですね。休憩中なのにマキ様がそこまで激しく私の奉仕を求めてるのなら、休憩を切り上げて、また百烈キスを再開しますよ……?」
マキ(!!!!!)
チュパチュパチュパチュパ! チュパチュパチュパチュパ!!
マキ(……やる! 吸えばいいのだろう!! 百烈キスよりはマシだ!!)
リノ「うふふ、マキ様ったら。そんなに一生懸命になっちゃって。やっぱりマキ様は、一生リノのおっぱいから離れられない体になっちゃったんですねー? おりこうさんでちゅねー」
正午を回った頃、リノはいつもの部屋着を脱ぎ、十四歳の少女らしい、パステルカラーの流行りの服に着替えた。ベレー帽を被り、少し知的に見える伊達メガネをかける。
騎士団の制服や、部屋での淫らな格好しか見ていなかったマキにとって、その姿は驚くほど「普通の少女」に見えて新鮮だった。
マキ(……急に着替えてどうしたのだ?)
リノ「マキ様、このお部屋に来てからずっとお部屋の中ばかりでしたからね。気分転換にお外の空気でも吸いに行きませんか?」
マキ(!! そうだな! ずっとこの不潔な密室にいたからな、外の空気が恋しいぞ!)
リノ「それではマキ様も、私とペアルックの……フリルたっぷりの『お出かけ用ベビー服』にお着替えさせていただきますね!」
マキ(……。……もう、好きにしろ……)
リノに抱っこされ、賑やかな商店街へと繰り出した二人。
誰が想像できようか。
十四歳の少女に抱かれて「あー、あー」と声を上げている赤ん坊が、十万の精鋭を束ねる王国騎士団長マキ・クロフォードであり、抱いている少女が王国最強の魔道師団トップであるリノだということを。
マキ(……リノ、いったいどこへ行こうというのだ? 衆人環視の中で私を辱めるつもりか?)
リノの思念「着きましたよ、マキ様」
リノが足を止めたのは、商店街の一角にある、甘い香りが漂う小洒落た喫茶店だった。
マスター「おっ、いつもの可愛いお嬢ちゃん。久しぶりだね! なんだい今日は、可愛い赤ちゃんも一緒か?」
店のマスターが、リノを常連として気さくに迎える。
リノ「マスター、いつもの『レーズンバター&クリームチーズ』をお願いします。それと、取り皿とスプーンも」
マスター「はいよ! 相変わらずそれだね」
マキ(……ここが、お前の言っていたクレープの店なのか?)
リノの思念『――はい。いつもこの席で、いつかマキ様とここで一緒にクレープを食べられたらいいなぁって……ずっと夢見ていたんです。……まあ、当時は絶対に叶わぬ夢だったんですけどね』
マキ(……。……そうか。ならば、夢が叶ってよかったな、リノ)
久しぶりに「百烈キス」も「しつけ」もない、穏やかな時間。
リノは丁寧にクレープを小さく切り分け、マキの口へ運ぶ。
口の中に広がる濃厚なクリームと、レーズンの芳醇な香り。
カレンが惹かれ、リノが愛したこの味を共有しながら、二人はこれまでの殺伐とした空気を忘れ、一時の平和を噛み締めていた。
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リノに抱っこされ、ゆったりとした午後の陽光を浴びながらの帰り道。しかし、その穏やかな空気は、野外魔道士訓練場から響く轟音と激しい怒声によって切り裂かれた。
そこは王国騎士団が誇る魔道士師団の牙城。一万五千もの魔道士を束ねる訓練施設では、今まさに二人の副師団長が火花を散らしていた。
レイラ「何度言ったら分かるのだ! そのような不安定な魔法制御では、敵どころか味方にまで当たるぞ!!」
サマンサ「はあ? 爆炎系魔法の制御は貴女の指導範疇でしょ? 指導の仕方自体に問題があるのでは、レイラ?」
レイラ「何を言うサマンサ! 私は伝統に基づき、理論的に指導している!!」
炎のレイラと氷のサマンサ。二十五歳の二人は性格も魔法属性も正反対で、顔を合わせれば議論が絶えません。そこに、赤ん坊を抱いた私服姿の少女がふらりと現れる。
リノ「二人とも、喧嘩はよくないですよ」
レイラ&サマンサ「リ、リノ様!? け、喧嘩などしておりませんよっ!!」
リノより十歳以上年上の二人が、その瞬間に直立不動となる。圧倒的な魔力と、時折見せる底知れない「恐ろしさ」を刻み込まれた彼女たちにとって、リノは絶対的な存在。
マキ(……やはりこの二人も、既に変態魔道士の本性を身に沁みて刻み込まれておるようだな。不憫に……)
リノの思念『マキ様、聞こえてますよ? 帰ったらまた「特別なしつけ」が必要みたいですね?』
マキ(ひいいっ! 思考を読むのをやめろ!!)
リノは副師団長たちに深々と頭を下げる。
リノ「二人とも、留守を任せっぱなしで本当にすみません。かなり負担をかけてしまっていますね」
レイラ「いえ、リノ様は国家機密の特別任務に就かれているのですから、当然のことです!」
サマンサ「休暇に赤ちゃんのお世話までされているとは……その子は?」
リノ「私の姪っ子なんです。今日は久しぶりに、子守りをしながら散歩を」
「まあ可愛らしい」と副師団長たちが顔を近づけた瞬間、マキは羞恥と恐怖のあまり、人見知りした幼児のようにリノの胸元に顔をぐいぐいと埋めて隠れる。
リノの思念『あらマキ様、そんなに私の胸が恋しいのですか? 離乳食後のデザートを、衆人環視の中でねだるなんて……大胆ですねぇ』
マキ(ち、違う! 早く帰りたいだけだ!! 早くあの不潔な密室(部屋)に戻らせてくれ!)
リノはふと表情を引き締め、口論をしていた二人に歩み寄る。
リノ「レイラさん、サマンサさん。せっかくですから、二人の魔法の効率を上げるヒントを置いていきます。爆炎を氷で閉じ込めるのではなく、温度差による気圧変化を利用して――」
リノが指先で空中に数式を浮かべると、二人の副師団長は目を剥いてその「異次元の理論」に吸い寄せられていく。
マキはその様子を見ながら、改めてリノが「魔道の神に愛された怪物」であることを再確認していた。
しかし、リノの教えに夢中になる二人の背後で、マキは気づく。
訓練場の片隅に、カレンとはまた違う、鋭い眼光を放つ**「第三の影」**がこちらを監視していることに。
リノの魔法理論は、かつて剣と魔法の双極を目指したマキにとっても、目から鱗が落ちるほど完璧に整理されたものだった。
リノ「……という訳です。揉めるのは良くないですよ。指導とはまず見本を見せて行えば、ほぼ何とかなるものです。例えば、あの的を正確に射抜くところを見せるとか」
リノが指差したのは、遥か五百メートル先にある訓練用の標的だ。
レイラ「えぇっ!? ここから五百メートルですよ!? 私でも届きはしますが、正確にとなると……」
レイラが絶句する中、リノは内心でウキウキしていた。ここ数日、禁忌の魔導書を読み耽り、鬱屈とした部屋でマキを蹂躙(お世話)し続けていた反動か、外で魔法を放ちたくて仕方がなかったのだ。
リノ「私たちが騎士の方々を後ろから援護する以上、射程と精度は命です。あ、まずは私が見本を見せないとダメですね」
リノはマキを左腕でひょいと抱いたまま、魔力を練り上げる。
その構え、そして指をパチンと鳴らそうとする動作……マキは戦慄した。あの日、自分を赤ん坊に変えたヘイマーの動作と酷似していたからだ。
リノ「まずは炎です」
**ドォォォォォン!!**
空気が爆ぜ、視界が真っ赤に染まった。放たれたのは「火球」などという生易しいものではない。直線上にある全てを原子レベルで消し飛ばさんとする、極太の爆炎の円柱だ。
リノ「……出力の調整が難しいですね」
マキ(そんなレベルではないわっ! 標的どころか辺り一帯を焼き尽くす気か!?)
リノの思念『大丈夫です。この訓練場にはシルフィ様が幾重にも張り巡らせた結界がありますから』
リノ「消火も兼ねて、次は氷です。……えい」
再び轟音が響き、今度は視界が白銀に凍りつく。
巨大な氷柱が標的を粉砕し、そのまま突き進んで「絶対に破れない」と言われたシルフィの結界に目に見えるほどの亀裂を刻んだ。
リノ「やはり出力の調整が……。サマンサさん、あとはお願いしますね」
マキ(だから私を抱いたままそんな超高火力の実験をするなー!! 死ぬかと思ったではないか!!)
「あわわわわ……」と腰を抜かす副師団長二人を尻目に、リノは「お邪魔しましたー!」と足早にその場を立ち去った。
数キロ先、特殊支援師団訓練場。
シルフィ「あらあら。また結界を張り直さないといけませんね」
結界の異常を察知したシルフィが、困ったように、しかしどこか楽しげに微笑む。
シルフィ「あの結界に傷をつけられるのは、マキ様以外ではセシリア様くらいだったのに。リノって本当にすごいわね……。私も負けていられないわ」
その頃、リノの腕の中でマキは深い衝撃に浸っていた。
マキ(リノのやつ……。わずか数日の研究で、ヘイマーの魔力運用を自分のものにしつつある。こやつは単なる変態魔道士ではなく、歴史に名を刻む大魔道士になる素質を持っている……!)
リノの思念『――はい。マキ様、お仕置き確定ですね!』
マキ(ひいいっ! だから人の思念に勝手に割り込むなと何度も言っておるだろーが!)
リノの思念『私を「変態」呼ばわりしながら、心の中で「大魔道士」だなんて……そんなデレたマキ様には、お部屋に戻ったらたっぷりとお礼(蹂躙)をしてあげないとですね』
リノの口角が吊り上がり、怪しく微笑む。
マキの予感は当たっていた。リノの魔力は今、禁忌の知識とマキへの歪んだ愛によって、未知の領域へと到達しようとしていたのだ。
今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。
今後とも何卒お付き合いくださると嬉しいです。




