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第9話:騎士団長さまのベビーシッター

第9話「騎士団長さまのベビーシッター」


「おはようございます、セシリア様、フルーレ様、シルフィ様!」


リノは、徹夜明けとは思えないほど爽やかな笑顔で三人を出迎えた。彼女の計画は完璧だった。


掃除と食事の準備を二人に任せることで、自分は夜通しマキを「教育」する時間を確保し、さらに朝の面倒な雑務からも解放されたのだ。


リノは、膝の上でぐったりとしているマキをセシリアに差し出した。


リノ「セシリア様、お着替えとおむつ替えは朝食の後にしましょう。それまでは、マキ様に果実水を飲ませながら、ゆっくりスキンシップをとって慣れてもらってください」


マキ(リノ貴様ぁ!! 私をこれ以上、羞恥の檻に閉じ込める気か……っ!!)


マキの怒声が脳内に響くが、リノは涼しい顔で受け流す。


セシリア「ああ、そうなんだな? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう。マキ様、おはようございます! 本日のご機嫌はいかがですか?朝晩はまだ冷え込みますので風邪など召されないよう‥‥」


セシリアが、一歳半の赤ん坊に向かって大真面目に敬語で語りかける。


マキ(赤ん坊に敬語であやす馬鹿がどこにいるのだ!? もっと普通に接しろ!)


リノの思念『マキ様、では赤ちゃん言葉で「団長かわいいでちゅね〜? おりこうさんでちゅね〜?」とかをしてもらうように頼みますか?』


マキ(……いや、やめておこう。死にたくなる)


マキは絶望しつつも、セシリアの腕の中で大人しくすることを選んだ。しかし、セシリアの「教育方針」はさらに斜め上をいっていた。


セシリア「‥‥‥という訳で、マキ様の素質なら、私の特訓メニュー通りにいけば、まあ三歳ぐらいには剣で岩を斬れるようになりますよ! 私がそのようにじっくり鍛え上げますから!ハッハッハ」


マキ(んなことできるかぁ〜!! あと一年半後に岩なんか斬れるわけなかろう! なんだこいつの頭の中は!? 自分の子ができた時にスパルタすぎて危険だぞ!?)


マキの脳内ツッコミが止まらない。そんな様子を見て、リノがクスクスと思念を送る。


リノの思念『ふふ、こんなに楽しそうなマキ様、久しぶりに見ました』


マキ(楽しくないわ! 必死だ!)


やがてフルーレの掃除が終わり、シルフィが作った温かい朝食を囲んで、五人の賑やかな時間が始まった。騎士団の重責、ヘイマーの脅威、そして自身の退行。重苦しい現実を忘れさせるような、穏やかな笑い声。


マキ(……そういえば、こんなに賑やかな食事は経験がないな。いつも一人で毒見を兼ねた冷たい食事か、宴席での緊張感の中での食事ばかりだった……)


リノの思念『はい、マキ様。私も、こんなに温かくて騒がしい朝は初めてですよ』


リノの思念には、先ほどまでの意地悪な響きはなく、心からの幸福感が混じっていた。


マキも少しだけ、この「新しい日常」を悪くないかもしれない……と、ほっこりした気分に浸っていた。


――が、その瞬間、マキの脳裏に雷が落ちた。


マキ(待て……。朝食が終わるということは……次は、**セシリアによる公開おむつ替え**ではないか……ッ!!)


ほっこりした空気は一瞬で氷結し、マキの小さな背筋に冷や汗が流れる。

食器を下げるシルフィ。

「さて……」と腕まくりを始めるセシリア。

そして、その光景を特等席で眺める準備万端のリノ。


マキ・クロフォード。王国騎士団長。二十三歳。

今、人生最大の「公開処刑」まで、残り三分――。


---


ついに、研究所の一室は静謐な儀式の間から、阿鼻叫喚の(マキにとっての)公開処刑場へと変貌した。


セシリア「さあ、マキ様。準備はよろしいですか?」


シルフィとフルーレは、まるで見世物小屋の特等席を確保した観客のように椅子を並べ、固唾を呑んで見守っている。そしてリノに至っては、特等席で足を組み、勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべてマキを凝視していた。


リノ「それではセシリア様。マキ様のパジャマを脱がせて、それから一気におむつも外してください」


リノの非情な合図が飛ぶ。


セシリア「う、うむ……! それではマキ様、このセシリア、不遜ながら団長の服を脱がさせていただきますっ!! いざ参るっ!!」


セシリアは、これから戦場にでも赴くかのような鬼の形相で、ガシッとマキの小さな肩を掴んだ。


マキ(ひいっ! 鬼の形相で赤ん坊の着替えをするやつがどこにおるか!? 恐ろしいわ!!)


リノ「セシリア様、笑顔を忘れてますよ? リラックスしてください。赤ちゃんは敏感にこちらの緊張を察知しますから……特に、今のマキ様は“敏感”ですからね……」


セシリア「あ、そ、そうだったな! す、すみませんでしたマキ様っ!!!!」


セシリアは慌てて笑顔を作ろうとしたが、目は血走り、顔を極限までマキに近づける。


マキ(ひいいっ!? どアップでその顔やめろぉっ! 呪われるわ!!)


リノの思念『マキ様もリラックスしてください』


マキ(できるかぁ!!!)


そして、ついに。

パジャマのボタンが外され、オムツのテープが剥がされる。一瞬の静寂の後、マキ・クロフォードの全てが、部下たちの視線に晒された。


フルーレ「……っ。昨日も見たが、やはり慣れんっすね。この可愛らしい赤ちゃんが、あのマキ様だなんて」


フルーレが感嘆の声を漏らす。


シルフィ「本当に、全てが赤ちゃんなんですね。肌も、手足も……こんなに柔らかそうで、可愛らしい……」


シルフィも、慈しみと好奇心の混じった視線をマキの肢体に這わせる。


セシリア「さすがマキ様!! 赤ちゃんになられても、なんて威厳ある、神々しいはだか! この白磁のような肌、整った手足、まさに理想の生命体だ!!」


マキ(そんなわけあるかー!!! 威厳も何もあるか!! ていうか、じろじろ見るなぁぁぁ!!!!)


リノの思念『――さすがマキ様。赤ちゃんになられて、なんて可愛らしくて“ちんまり”した姿に……。部下たちの視線を浴びて、お顔真っ赤になってますよ?』


マキ(リノ貴様ぁぁぁ!!! “ちんまり”とか言うなぁぁぁ!! 殺す、元に戻ったら絶対にお前を……っ!!)


二十三歳の騎士団長の精神は、かつての部下三人の「純粋な視線」と、リノの「下劣な思念」に挟まれ、逃げ場のない羞恥のどん底に叩き落とされた。


だが、地獄はまだ始まったばかりだ。セシリアの指が、新しいオムツを当てる前に「清潔にするため」という名目で、マキの最も過敏な場所に伸びようとしていた。


マキ・クロフォードの二十三年にわたる武人としての人生において、今この瞬間こそが最大の敗北――否、人類未踏の「羞恥の極北」であった。


仰向けに寝かされ、天井を仰ぐ視界の端には、かつて命を預け合った信頼すべき部下たちの顔、顔、顔。


それらすべてが、一糸まとわぬ自分、正確には自分だったはずの「一歳半の全裸の乳幼児」を、穴が開くほど凝視しているのだ。


リノ「セシリア様、手を綺麗に洗った後は、このお湯に浸したガーゼをよく絞って、マキ様のお尻と大事な部分を優しく丁寧に拭いてあげてください」


リノが、毒を含んだ蜜のような声で死刑宣告を下す。


マキ(こいつ、何とんでもないことをサラリと言ってんだ!!! 鬼か! 悪魔か!!)


セシリア「う、うむ……マキ団長の大事な部分だ。か、かなり緊張するな。王国一の至宝に触れるようなものだからな……」


生真面目なセシリアが、武者震いをしながらガーゼを手に取る。


リノ「セシリア様、そんなに緊張しないでください。あ、私が『大事な部分』なんて言ったからですね。言い直します。マキ様の、**可愛らしくなったアソコちゃん**って言いますね」


マキ(うわああぁぁぁ! 言い直すな! 余計に酷くなってるだろうが!! それに『可愛らしくなった』とか言うなぁぁ!!)


セシリア「……なるほど。マキ団長の、可愛らしくなったアソコちゃん、か……」


セシリアが、教典の一節でも唱えるような敬虔な顔で、その言葉を復唱する。


マキ(お前も言うなぁぁ!! 復唱するな! 記憶に刻むな!!)


シルフィ「確かにマキ様のここの部分は、完全に乳幼児の状態に逆戻りしてる訳ですから、『可愛らしくなったアソコちゃん』は、医学的にも正しい表現かもしれませんね」


シルフィが慈愛に満ちた(しかしマキには残酷な)頷きを返す。


フルーレ「本当に可愛らしくなったっすね。あの凛々しかったマキ団長が、こんな姿になるなんて」


フルーレまでもが、至近距離で指を差しながら感嘆の声を漏らす。


マキ(ひいいっ! まじまじと指を差して見ながら言うな!! 私は見世物ではない!!)


リノの思念『――だってマキ様。本当に、あなたのそこは、誰が見ても“可愛らしい”んですもの。あんなに獰猛だった頃の面影、どこにもありませんよ?』


マキ(リノ貴様許さん!! 絶対に許さん!! って……? ひいっっ!?)


セシリアの持つ、温かなガーゼが、マキの最も秘められた。


セシリア「あ、あ! 優しく丁寧に拭いたつもりだったが、強すぎただろうか!? マキ様がビックリされたぞ!」


慌てるセシリアに、リノが涼しい顔で追撃する。


リノ「ふふ、ちょっとびっくりしたのかもしれませんね。次は、もう少しだけ奥の方まで、丁寧に拭いて差し上げてください」


マキ

(はあ……はあ……。わ、私は、王国騎士団長……。部下の……部下の前で……っ。こんな……羞恥に……屈して、なるものか……!)


リノの思念『マキ様、頑張ってください。そこ、私の時より赤くなってますよ?』


マキ(だまれっ!!)


再び、ガーゼを湿らせたセシリアの魔の手が、マキの「ちいちゃなアソコちゃん」に向かってゆっくりと下降してくる。


マキの理性が、音を立てて崩壊し始めていた。

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