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第8話:リノの本心

第8話「リノの本心」


セシリアたちが満足げに去り、再び静寂が戻った育児室。

リノは深いため息をつきながら、マキをベッドの柔らかなシーツの上に降ろした。


リノ『はぁ……。さすがに疲れましたー。あんなに必死に訴えるなんて、魔道の修行より体力を使いますね』


マキ『……疲れたのはこっちだ。貴様のあの茶番のせいで、私の尊厳は今や風前の灯火だぞ』


マキは不機嫌そうに思念を返したが、その瞳はどこか複雑な色を帯びていた。


マキ(……気付いているぞ、リノ。あの大粒の涙、あれはすべてが演技ではなかったはずだ。私を独占したいという歪んだ欲望はさておき、あの日私を守れなかった後悔と、今の私を離したくないという想いだけは、本物だった……)


どうしようもない変態で、隙あらば自分の肉体を玩具にする困った娘だ。だが、その根底にあるのは誰よりも真っ直ぐで、献身的な、危ういほどの愛なのだと。


そんなマキの感傷を、リノの次の言葉が容赦なく打ち砕いた。


リノ『――ところでマキ様。さっきみたいに、また私にキスしてくださいよー。あんなに必死にしがみついて、お口をぎゅーって押し当ててくるなんて……マキ様、実はもう、私なしじゃいられない身体になってるんじゃありません?』


マキ『うわー!? だ、だまれっ! 忘れろ! 今すぐ忘れろ!!』


二十三歳の騎士団長の意識が、羞恥で真っ赤に燃え上がる。一歳半の幼い顔も連動して林檎のように染まり、手足をジタバタとさせてリノを拒絶する。


リノ『えー、あんなに情熱的だったのに。……いいですよ、してくれないなら、私からします。さっきの「お礼」も兼ねて夜が明けるまでじーっくり可愛がってあげますからね!』


マキ『待て、リノ! 話を聞け! 私はまだお前の献身について……ぁ、ああぁぁぁーーっ!!』


結局、マキのささやかな「部下への再評価」は、過敏な肉体が奏でる羞恥の悲鳴にかき消されてしまった。





そして時間は流れ静まり返った深夜の育児室。

リノはマキの隣で、規則正しい寝息を立てていた。


マキはその寝顔を、一歳半の瞳でじっと見つめる。

(そういえば……リノはまだ十五歳だったな……)


思い返せば、戦火の荒野で泥にまみれて泣いていた幼いリノを拾い上げたのは、まだ騎士見習いだった自分だ。


「マキ様、マキ様!」と、道場の隅から憧れの眼差しで自分を追いかけ回していた少女。その類まれなる魔道の才能を見抜き、周囲の反対を押し切って推薦状を書いた日のことを、マキは今でも鮮明に覚えている。


それから数年。彼女は異例の速さで成長し、十三歳にして王国騎士団長である自分の背中を預かる「幹部」となった。


マキ(しっかりしているから忘れていたが、まだ子供なのだな。セシリアの言葉に心を打たれ、私を離したくないと泣きじゃくった姿……。あれが、この子の偽らざる本心なのだ。……本当に、すまないことをした。変態などと罵って……)


リノの献身は、歪んではいても、根底にあるのは純粋無垢な愛と忠誠心だ。

マキは自責の念と、愛おしさに胸が熱くなった。


マキ(……リノ、いつも本当にありがとう。私のために、無理をさせて。お前こそ、立派な魔道士になったな……)


マキはよちよちと這い寄り、無防備に眠るリノの顔を覗き込んだ。そして、感謝と謝罪、そして慈愛を込めて、リノの唇にそっと、羽が触れるような柔らかなキスを落とした。


マキ『おやすみ、リノ。……ゆっくり眠るのだぞ』


そう思念を送り、身を引こうとした、その刹那。


リノ「――フッフッフ。やっと、自分からキスしてくれましたね? マキ様」


マキ「っ!?」


リノがパチッと目を開けた。そこには、眠気など微塵も感じさせない、不敵で狡猾な「狩人」の笑みが浮かんでいた。


マキ『ま、待て! これは……違う! 違うのだリノ! というか貴様、図ったな!? 起きていたのか!?』


リノ「起きてましたよ、ずっと! マキ様がいつデレてくれるか、魔力探知でドキドキしながら待ってたんですから! ああぁ……もう最高です! 今のキス、一生忘れません!」


リノはガバッと起き上がると、逃げようとするマキの小さな身体を抱き寄せ、歓喜のあまりギュウギュウと揉みしだいた。


リノ「さあマキ様! 感謝のキスのお返しです! 朝までたっぷり、私の『献身的な愛撫』を、全身で受け止めてもらいますからねっ!」


マキ『やめろー! 私の感動を返せ! この、筋金入りの……っ、ああぁぁぁっ!!』


マキの純粋な親愛の情は、わずか数秒でリノの欲望のガソリンへと変換された。


静かなはずの夜の育児室に、マキの屈辱に満ちた甘い悲鳴が再び響き渡る。


そして無情にも、時計の針は「セシリアたちがやってくる運命の朝」へと刻一刻と近づいていくのだった。



---

深夜の静寂の中、リノはベッドに横たわるマキを、壊れ物を扱うような手つきで優しく撫でていた。


リノの脳裏には、あの悪夢のような日の光景が焼き付いている。大魔導師ヘイマーが放った、世界さえも凍りつかせる「時間停止」。


その絶望的な静止の中で、唯一、マキだけが己の強靭な精神と魔力で抗い、動けない自分たちを守ろうとしていた。


リノの思念(マキ様、ごめんなさい……。時間停止を破る術を、魔道士である私の目の前で見せてくださっていたのに。それなのに私は、混乱して取り乱して、足がすくんで……。マキ様、本当に、ごめんなさい……)


マキは寝たふりをして目を閉じたまま、その思念を聴いていた。


マキ(……リノ。いつもは恐ろしいほど制御されている貴様の思念が、今日は珍しくダダ漏れだぞ。そんなに悔やんでいたのか……。お前は本当に優しい子だ。私は気にしていないというのに……)


マキが胸の奥で温かな情愛を感じ、リノを許そうと決めた、その時だった。


リノの思念(マキ様の大きなお胸やお尻がみるみる縮んでいく様子を眺めていたらもう興奮して動くことすら忘れてました‥‥)


マキ(……へ?……おい、リノ?)


リノの思念(そこからはもう、一歳刻みで変化する胸とお尻、どんどん大人じゃなくなる身体から、目が離せませんでした……)


マキ(……はあぁぁ!?)


リノの思念(膨らみ始めの状態から、つるんとぺったんこになるIカップ……巨大だったお尻がみるみる小さく縮んでいく曲線美。そして、どんどん、どんどんちいちゃく退行していく様は……まさに芸術でした……)


マキ(う、うわあぁぁぁ!! やめろ! やめろ! 心の中で実況するな!! 貴様……私が起きてて、思念を聴いてるのに気付いて言っているのかー!?)


マキがたまらず飛び起き、思念で怒鳴り散らすと、リノは暗闇の中でニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


リノ「うふふ。……途中からですがね。マキ様、いけない子ですね? 眠ったふりをして乙女の独り言を盗み聞きするなんて。そのちいちゃな身体に、たっぷりお仕置きしなきゃですよ?」


マキ『ま、待て! 今は……ひぎぃっ!?』


リノ「さあ、イッちゃってください! 朝までまだ時間はありますからねっ!」


マキ「あ、あ、ああぁぁぁーーっ!!」


マキの感動は再び快楽の濁流に飲み込まれ、彼女は明け方まで「変態魔道士」の徹底的なお仕置きを受けることになった。


そして数時間後。

寝不足で目の下に隈を作り、腰をガクガクと震わせるマキのもとへ、ついにセシリアたちの足音が近づいてくる。


「マキ様、おはようございます! 朝のお世話に参りました!」


絶望の朝が、幕を開ける。

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