第102話:忘れがたき故郷
第102話「忘れがたき故郷」
物語は、激動の帝都クレイドから遠く離れた、アレクサンド王国ののどかな田舎都市・コパルへと舞台を移す。そこは「特攻師団長」エレン・アルコットが生まれ育った故郷であった。
---
激安スーパー・マルエーの朝
エレンの母は、今日もいつも通り家計を支えるためのパート勤めに出勤していた。この時点では、娘が「国家予算を動かすブロマイドの主役」や「敵陣突撃のプロ」になっていることなど、微塵も知る由がなかった。
母「おはようございまーす」
女性店員「あ! アルコットさん来た! 新聞見ましたよ、おめでとうございます!! 凄いですね、本当に!」
母「え? え? 何があったんですか? うちは経費節減で新聞をとっていないんで分からないんですが……」
母の頭の中は「エレン、また何かやらかしてお金に困ってないかしら」という、いつもの心配で占められていた。
---
女性店員「娘さんのエレンちゃんの事ですよ! 騎士団の『師団長』になったんですってね!」
母「エレンが? アハハ、冗談言わないでくださいよー。あの子はアカデミーでも『騎士には向かない』って言われて、公務員試験にも落ちて……なんとか拾ってもらった事務員なんですから」
娘の才能を誰よりも把握している母は、同僚の言葉を「同姓同名の別人」か「新手の冗談」だと笑い飛ばしていた。しかし、そこへ店長が鼻息を荒くして走ってくる。
店長「アルコットさん! これ見て! エレンちゃん凄いよ! 王国の英雄だよ!!」
---
新聞一面に刻まれた「龍神」の名
店長が差し出した新聞の一面には、『アレクサンド王国とゼッターランド帝国、歴史的同盟成立』の文字が踊っていた。
母「ええっ、あの怖い帝国と同盟になったんですか? 知らなかったわぁ……」
平和なニュースに胸をなでおろす母。しかし、店長が「ここだよ!」と勢いよくめくった次のページを目にした瞬間、母の思考は完全にフリーズした。
そこには、豪華絢爛な騎士団の制服(※カレン特製)に身を包み、なぜか引きつった笑顔で、ラーズ王とシャルロット皇帝に挟まれているエレンの写真がデカデカと載っていたのである。
さらに見出しには――
**『王立騎士団・特攻師団長にエレン・アルコット就任。龍神エレン、攻撃のエキスパートへ』**
母「…………(エレン、あんた何をやらかしたの?)」
事務員の娘を送り出したはずが、一ヶ月足らずで「国家を背負う特攻隊長」になっていた事実。母親のパート先の平和な朝は、エレンの「不幸な出世」という衝撃波によって、一瞬にして崩壊したのであった。
---
『激安スーパー・マルエー』のバックヤードに、母の悲鳴にも似た絶句が響き渡った。
---
新聞の2面を開いた母の目に飛び込んできたのは、凛々しく(※カレンが100枚撮った中から奇跡的にカッコよく撮れた一枚)映る娘の姿と、あまりにも「盛られた」武勇伝の数々であった。
☆「圧倒的な攻撃力」で将軍3人を撃破:(実際:エレンは覚えておらず、意識を失ってる間に大暴れ)
☆城塞都市・三都市奪取に貢献:**(実際:本当に都市は三つ落としたがこれも記憶なし)
☆三英雄最強・シューベルトと一騎打ちで引き分け:(実際:これもまったく記憶なし)
母「と、ところで、し、師団長って……何なんでしょう???」
店長「他国では『将軍』と呼ばれる最高幹部の役職だよ! アルコットさん、知らなかったの!?」
女性店員「街のあちこちに、セシリア様やカレン様と並んで、エレンちゃんの等身大パネルが飾られてるわよ!」
母「…………(つい最近まで納豆の安売りで喜んでた娘が、いつの間に人類の壁に……?)」
---
そこへ、中小企業で慎ましく働く父から、職場であるスーパーへ震える声で電話がかかってくる。
父「か、母さん!? 一体何が起きてるんだ!? エレンが騎士団幹部!? 殊勲者!? もう訳が分からないよ!! 何かのドッキリか詐欺じゃないのか!!」
娘が娘なら、親も親。アルコット家の家系図には「ビビリの血」が濃密に流れていた。現実を把握できず、電話越しに二人でガタガタと震えることしかできない。
---
そんなパニック状態の夫婦に、追い打ちをかけるように店員が本日発売の『週刊アレクサンド・エキストラ』を持って駆け寄る。
店員「アルコットさん! これ! 表紙がエレンちゃんですよ!!」
そこに載っていたのは、剣を高々と掲げ、不敵な笑みを浮かべて帝都に向かって宣戦布告をするエレンの姿。
【独占】『誇らしく大陸制覇を宣言する龍神エレン! 「大陸を制覇し!最強の剣士になるのはこのエレン様だ!!」と咆哮!!』
(※注:実際にシューベルトと闘った時に大陸制覇宣言をした瞬間の写真である)
母「ひいいっ! あ、あの、頭痛が痛くなったので早退させてください……!」
母は、娘が「闇堕ちして世界を滅ぼそうとしている」と勘違いし、意識が遠のくのを感じた。
---
空前絶後のエレンフィーバー
こうして、かつて「公務員試験に落ちたどんくさい娘」として知られていたエレンは、一夜にして街の誇り……もとい、「街の恐怖の象徴(あるいは崇拝対象)」へと変貌を遂げた。
街の人々「エレン様の生家はここか!」「龍神様の母君、拝ませてくれ!」
カレンの徹底的なメディア戦略の影響は、最果ての田舎街すらも熱狂と混乱の渦に叩き落としたのである。
---
夜明け前の帝都クレイド。清廉な空気の中、そこにはおよそ「英雄」という言葉の重厚感とは無縁な、スポーティーかつカオスな集団が集結していた。
人呼んで――『チーム・セシリア・ブートキャンプ』。
---
セシリア「うむ、皆ストレッチは済んだか? 今日も楽しくジョギングを開始するぞ! エイエイオー!」
全身で喜びを表現し、あざと可愛いポーズを決めるセシリア。だが、その後ろに並ぶ面々の表情は、まるで処刑場へ向かう囚人のようであった。
ハイドン&ジェームズ&アンドリュー「……自分らは人間をやめたくないのだが……むしろ人間らしくありたい……」
エレン「ひええ、最近エリーゼさんもかなり人間じゃなくなってきましたよねー?」
メンデル「アハハ、それってエレンさんも自分が人間じゃないって認めてるようなもんだよ~」
セシリアがにこやかに先頭を駆け出す。その後ろをメンデル、ショパン、そして「特攻師団」のエレンとエリーゼが続く。
---
シューベルト「かったるすぎてやってられるかよ……」
反抗期全開のシューベルトは、列を離れてチンタラと走り、道端の自販機で立ち止まった。缶コーヒーを飲みながら一服しようとした、その時。
「あ、シューベルト様?」「やっぱシューベルト様だ!」「ジョギングスーツ姿もカッコいい!!」
シューベルト「!!! し、しまった!! 見つかった!!!」
逃げ場のない早朝の路上。かつての帝国の英雄は、ファン(主にJS・JC連合)の包囲網に捕らえられた。
---
ゴール地点。
既に到着していたセシリアが、首を傾げる。魂が抜けかけたハイドン、アオジリアスを煽るエリーゼ、そして死にかけのエレン。
セシリア「シューベルトめ、どこかでサボっておるな」
メンデル「まあ、彼は素直じゃないだけさ。ほら、来たよ」
朝もやに煙る坂道。昇り始めた朝日が、一人の男のシルエットを神々しく照らし出す。
エレン「ほら、ちゃんと来ました……よ……? ……えっ?」
そこには、朝日を背負い、一歩一歩力強く坂を登るシューベルトの姿があった。そして彼の後ろには、笑顔で一緒に走る50人ほどの子供たち(全員女の子)。
その光景は、まるで往年の名作ボクシング映画『ロッキー』のトレーニングシーンのような、胸を打つ感動に満ち溢れていた。
---
シューベルトが、自分を慕う子供たちを引き連れて、眩しい光の中から感動的にゴールインする。
テーマソングすら流れてきそうな、誰もがその「美しき光景」に言葉を失いかけていた、その瞬間。
セシリア「シューベルトよ……お前まだロリコンを卒業してなかったのか……」
シューベルト「(絶句)!!!!!!」
マキ(……凄まじい。この、感動を一瞬にして塵に変え、ドロドロの汚名に着せ替える才能……! 誰だ……誰だ、こんな恐ろしい女を騎士団に入れたのは!!??(※貴女です))
セシリアの無邪気(という名の悪意)な一言により、感動のトレーニングは一瞬にして「不審者による引率」へと上書きされた。
---




