第103話:グラドへの旅路
第103話「グラドへの旅路」
舞台は帝都クレイドの某オムライス店。そこは、世界で最も平和な料理を囲みながら、世界で最も物騒な「特攻師団」の軍議が行われる場所となっていた。
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上座には相談役のハイドン、副師団長のジェームズとエリーゼ。
そしてその前には、セシリア配下の新人隊員3名(ファゴット、ホルン、コントラバス)と、歌劇隊の面々、さらにならず者頭領ドワルソンが並んでいた。
エレン「……さあ、食べてください(涙目)」
ファゴット「あの、エレン。これってさ……俺たちを『道連れ』にしようとしてないか?」
ホルン「エレン! 待ってくれ! アカデミー時代からお前を『どんくさい』とかからかったのは謝る! だから、命だけは助けてくれ!」
コントラバス「俺には里に仕送りを待つ弟妹が5人もいるんだ! 見逃してくれ!!」
新人たちにとって、エレンの「特攻師団」への勧誘は、もはや赤紙(召集令状)と同義であった。
エレン「ち、違いますっ!決して道連れなんかじゃありませんっ!!ただ、わたしと一緒に敵陣のど真ん中に突撃してくれたらそれでいいんですっ!」
ハイドン&ジェームズ(この子は‥‥もっとマシな言い方は思いつかないのか‥‥)
エリーゼ(コントラバスさんも、そのセリフは完全にフラグですよね‥‥)
ファゴット「その行為自体が道連れだって言ってんだよ!!」
ホルン「何を平然とした顔でサラリと無理心中をお願いしてんだ!?」
コントラバス「やはりアカデミー時代からバカにしてたことを根に持ってるだろ!?完全に俺らを殺しにかかってんじゃん!?」
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シューベルト「おい!!!テメエら!!!上官に向かって何呼び捨てにしてんだ? ブッ殺すぞ!!!!」
一番奥のテーブルで、オムライスを頬張りながら凄まじい眼光を飛ばすシューベルト。
エレン「ひっ! い、呼び捨てでいいです! むしろその方が助かります! わたし、友達も人脈もないから、あなたたちに頼るしかなくて……ごめんなさい、ごめんなさい‥‥‥(号泣)」
新人ズ(……この人、師団長なのに自分から謝ってるよ……)
シューベルト「……ったく、早速なめられてんじゃねーよ!! テメエら、エレンの言うことを聞かなかったら俺様が相手してやるからな!!」
新人ズ「ひいいっ! 了解しました!!(エレンよりシューベルトが怖すぎる!!)」
そんな殺伐とした空気の中、シューベルトの正面に座るファン(女子)が甘い声を出す。
ファン「シューベルト様ぁ~。せっかくブロマイド100枚集めて、やっと手に入れた『60分間オムライス同伴券』なんだから、あんな女に構っちゃ嫌ですよぉ?」
シューベルト「……ご、ごめん……(タジタジ)」
ファン「はい、あーんして?」
シューベルト「‥‥‥お、おう‥‥‥」
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店のカウンターの隅では、銀髪の軍師カレンが、サングラスをかけ不敵な笑みを浮かべながら電卓を叩いていた。
カレン「……ふふふ。次はもっとエグいのもあるわよ。ブロマイドをさらに集めれば、今度は『シューベルトと朝のジョギング・並走デート券』も景品に入れるつもりよ」
マキ「(目を白黒)……な、なんと! あの朝のブートキャンプすら商売にするつもりなのか!? 何なのだこいつは! 守銭奴か!? 上司を出せ、上司を!!(※私だ)」
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こうして、エレンの「必死の命乞い的勧誘」と、シューベルトの「威圧」、そしてカレンの「悪徳商法?」が見事に噛み合い、特攻師団の面々が(無理やり)揃いつつあった。
カレン「さあ、グラド王国攻略の準備は万端ね。エレン、あなたにはご褒美として『特攻師団長専用・深紅の赤い彗星鎧と赤い彗星マント』をあげるわ」
エレン「そんなの着たら余計に狙われるじゃないですかーーーっ!!」
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帝都クレイドの門。アレクサンド騎士団は、グラド王国攻略に向けて二つの軍に分かれることとなった。
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ラーズ王が発表した布陣は、まさに「戦略のカレン」と「武力のセシリア」を象徴するものだった。
* **【西側・港湾攻略軍(八万)】**
総大将:カレン
剣士師団:フルーレ
参謀:モーツァルト、ブキャナン
諜報師団:ハナ
特殊支援師団:シルフィ
魔道士師団:サマンサ、レイラ
堅実な実力者を揃えた大軍。数で圧倒し、港を制圧する定石の構え。
* **【東側・電撃侵攻軍(二万)】**
総大将:セシリア
三英雄:シューベルト、ショパン、メンデル
参謀:マリア
魔道士師団兼軍監:リノ
諜報師団:ヒナギク
剣士師団:サーヴェル
特殊支援師団:セイラ
特攻師団:エレン
(エレン配下:ハイドン、ジェームズ、エリーゼ、ドワルソン)
兵数は四分の一だが、中身は「歩く天災」と化した化け物たちの見本市。速度と破壊力のみで敵軍を蹂躙する、セシリア専用の殺戮布陣である。
エレン(……なんで私が、この「猛獣の檻」みたいな東軍の先鋒なんですかーーーっ!?)
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出発の直前、ラーズ王がリノを呼び止める。エレンと談笑していたリノの表情が、一瞬で凍りついた。
ラーズ「リノ。……マキをまた、戦場へ連れて行くのか?」
リノ「連れて行きますが何か? ラーズ王に預けるより百倍安全だと思いますがっ!!」
リノが声を荒らげる姿を初めて見たエレンは、「あわわ」と腰を抜かす。
リノの怒り――それは、かつてマキが政争や戦争という過酷な運命に入り込もうとしていたのを止める事が出来なかったラーズへの、消えることのない不信感だった。
リノ「私が、貴方のことを嫌いなのはご存知ですよね!?」
ラーズ「……ああ。そう毛を逆立てるな。止めに来たのではない」
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ラーズ王は静かに、赤い柄と鞘の一振りの神々しい剣を取り出しリノへ差し出した。
その瞬間、エレンの背負う「龍王」が、かつてないほど激しく共鳴を始める。
エレン「ひっ!? こ、この共鳴……あの時の!? ラーズ王、その剣って……まさか!?‥‥‥マキ様の八王の‥‥」
ラーズ「リノ、これをお前に預ける。……必ずマキを守ってくれるはずだ。それと二人とも、絶対に無事に帰ってこい。頼んだぞ」
リノ「…………謹んで、お受け致します」
嫌いだと断言しながらも、その剣の重み――ラーズが「自分に万が一があってもマキだけは」と願う、不器用さの結晶――
リノは最大の敬意でそれを受け取った。
マキ「……ラーズよ。お前は相変わらず軟弱者だな。私は大丈夫だ。だから、お前も絶対に死ぬなよ?」
今までラーズ王の前ではいつもふくれっ面のマキだったが、この時だけは優しい、そして少しだけ寂しげな笑顔をしていた。
マキ(しかしラーズよりリノが預る方が百倍安全とは‥‥‥どの口が言っておるのだ‥‥‥???)
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こうして、各々の因縁と魔剣を抱え、二つの軍は動き出す。
一方は、カレンの知略によって理詰めで勝利を奪う軍。
もう一方は、セシリアという火種に導かれ、エレンが絶叫し、シューベルトがファンを引き連れて走る、予測不能の暴走軍。
マキ(いよいよか……。グラド王国。そこには、エレンの「特攻」も、セシリアの「台無し」も通用せぬ、真の闇が待っているかもしれんがな……)
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アレクサンド騎士団、ついに二手に分かれての南進を開始。出発の間際まで、二人の天才(と一人の暴君)の火花が散っていた。
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カレン「それではセシリア、合流地点で会いましょう。私のほうが先に着いてると思うけど、フフフ」
セシリア「むむっ! 何を言うか! 私は合流地点どころか、グラドの王都まで先に落としてみせるぞ!」
カレンは呆れたように肩をすくめる。
カレン「それをやっていいなら、私も回りくどいことはしないわよ。相変わらずバカよね」
セシリア「何だと? このグラド戦が終わったら、痛い目に遭わせてくれる! フフフ」
カレン「ええ、早いとこ終わらせてそうしましょう。フフフ」
不敵に笑い合い、拳を合わせる二人。それは、互いの実力を認め合う親友であり、同時に負けられないライバルとしての宣戦布告。
こうして大軍を率いるカレンは西へ、精鋭(という名の猛獣)を率いるセシリアは東へと進軍を開始した。
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驚愕のエレン専用馬車
最東部への移動中、一同は「特攻師団長」エレンの専用馬車へと招待された。
クレイド最高峰の大工と、ならず者の中の凄腕職人が総力を挙げて造った、重厚で立派な「師団長仕様」の巨大馬車である。
だが、扉を開けた瞬間、エリーゼやサーヴェル、マリアたちは絶句した。
サーヴェル「……えっ。大工さんたち、手抜きしたの? なんでクレーム言わなかったのよ、これ」
そこにあったのは、師団長の権威など微塵も感じさせない、「昭和の木造アパート」そのものの光景だった。
* ブリキの台所:使い込まれたような質感。
* ブリキのヤカンやナベ:これまた使い込まれたような質感。
* 白塗りの壁: 絶妙な古臭さ。
* 畳とちゃぶ台: 部屋の真ん中にぽつんと鎮座。
* 竹籠: 季節ではないのにみかんが入ってる。
* 赤い急須とポット:どこから持ってきたのか。
* 日めくりカレンダー:殺風景な壁に一枚だけ。
* 赤い手ぬぐい:マフラーにも使いそうな勢いだ。
* 古い感じの浴室:「女湯」と書かれたのれんが下がり、とある歌が流れてきそうな銭湯の雰囲気。
* お風呂道具:** 使い込まれたような木桶の洗面器、いつもわたしが待たされそうだ。
エレン「あ、いらっしゃい。私がこの作りにしてほしいって頼んだんです。この方が家にいるみたいで落ち着くんですよ~」
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エレン「さあ、座ってください。お茶淹れますね」
一同(一般市民……というか、庶民レベルが凄まじすぎる……!)
唐草模様の座布団に正座し、安っぽいちゃぶ台を囲む騎士団の幹部たち。
外観はアレクサンドの最新鋭重装馬車なのに、中身だけは時空が歪んだかのような生活感。
だが、その「エレン・ワールド」に足を踏み入れた途端、戦いの緊張感が霧散していく。
エリーゼ「……何でしょう、この。凄まじい『女子力(実家力)』は……」
ヒナギク「ある意味、どんな防壁よりも精神的に落ち着くかもしれませんわね……」
マキ(龍神の器がちゃぶ台で茶を啜っている……。これこそが、彼女の最強のメンタル維持法なのかもしれんな……。それにしても、昭和すぎじゃね!?)
この昭和な一室だけは、まるでおばあちゃんの家のような静謐さが流れていた。
エレン「あ、これマルエーで安売りしてた茶菓子です。皆さんどうぞ」




