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第98話:騎士団長の夢の形

第98話「騎士団長の夢の形」





皇帝の間に響き渡る万雷の拍手。東と西、二つの巨大な歯車がガッチリと噛み合った歴史的な瞬間。


しかし、その熱狂の中で一人、冷徹な騎士の仮面が剥がれ落ちようとしている者がいた。


---


マキ(このような結末もあるのか……)


リノの腕の中で、マキは複雑な表情で両国の握手を見つめていた。


かつてマキが描いた大陸制覇の青写真。それもまた、皮肉にも一番最初にゼッターランド帝国を自らの力で屈服させることから始まるものだった。


しかし、目の前の光景は、彼女が「絶対に不可能」と断じたはずの究極の理想の形。


マキ(セシリア、カレン……お前たちは、私が見込んだ以上の……いや、遥かにそれ以上の逸材だったというのか)


「誰一人死なせずに戦争のない世界を作る」というセシリアの夢物語。


情を完全に排除したはずのカレンが選んだ、究極の「共生」というカード。


マキ(戦争のない世界を作る‥‥その理想は同じだ‥‥話し合いだけで解決しない、だから戦争で戦争のない世界を作る‥‥そこまでも同じだった‥‥しかし、しかし‥‥‥私はこの形を思い描く事さえ出来なかった‥‥‥)


マキは自らの武力による超短期決戦という選択肢、そして自ら命を断つ事で精算する選択肢が、彼女たちの柔軟な強さの前に塗り替えられていくのを感じていた。


マキ(私は……根本から間違って……)


---


リノの思念(マキ様……マキ様! マキ様!!!)


深い自省の淵に沈みかけたマキの意識を、リノの声が引き戻す。


リノ「すみません!! ちょっと失礼します!!席を外しますね!!」


驚く周囲を余所に、リノはマキを抱えたまま皇帝の間を飛び出し、静かな廊下へと滑り込んだ。


マキ「リ、リノ??? いったいどうしたのだ……むぐうっ!?」


次の瞬間、マキの思考は物理的に停止した。リノの唇が、逃げ場のないほど強くマキの唇を塞いだのだ。


マキ(むぐぐ……く、苦しいぞ!)


---


リノ(ぷはぁ……)


ようやく解放されたマキは、息を切らしながら愛弟子(?)を睨みつける。


マキ「いきなり何を……何をするのだっ!!」


リノの思念「てへっ。あまりにも堅苦しい式典が続いたので、マキ様エネルギーを補充しないと、わたし発作が出そうになっちゃいました。てへっ♡」


マキ「……。変態は悩みがなくて羨ましいなっ!!!」


自らの軍略の過ちを真剣に悩んでいた「かつての最強の騎士団長」は、目の前の「最強の変態」のあまりのマイペースぶりに、毒気を抜かれてしまうのだった。


歴史の転換点という重厚なドラマの裏で、アレクサンド騎士団の「不協和音」は、今日も平常運転で奏でられている。


---


同盟の歴史的瞬間を終え、帝都はつかの間の静寂に包まれた。


しかし、その裏で「命拾いした」と胸をなで下ろすエレンの平穏は、即座に打ち砕かれる。


---


シューベルト「おい、龍神野郎。お前に用があるからちょっと俺様に付き合え!」


エレン「ひいいっ!! な、なぜ!?(私、また消されるの!?)」


有無を言わさず連行されたのは、クレイドの外れにある一軒の洋食店。


シューベルトは雑にメニュー表を投げつけ、「さっさと選べ」とエレンを睨みつける。


エレン「……あ、あの、わ、私な、何か気に障ること……し、しましたかね……?」


シューベルト「……いいからさっさと選びやがれ!!!」


怯えながら開いたメニューには、目眩がするほどの「オムライス」の文字。店主が慣れた様子で挨拶に来る。


店主「シューベルト様、いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。いつもの『ミニオムライスバラエティセット』で構いませんか?」


シューベルト「……ああ。おい、龍神野郎、お前もそれにするか?」


エレン「は、はいっ!!」


---


運ばれてきたのは、色とりどりのソースがかかった5種のミニオムライスに、熱々のマカロニグラタン、そしてコーンポタージュ。


シューベルト「オムライスが好物なんだろ? ここのはどれもうまいからさっさと食いやがれ!!!」


エレン「お、美味しい!! ていうか、シューベルトさん、なんで私の大好物を知ってるんですか!?」


シューベルト「…………(無言でオムライスを口に運ぶ)」


ホルモン屋で焼き奉行に徹し、自分は白米ばかり食べていたエレン。


さらにその前の「一騎打ち(寝落ち)」の際、うわ言で「オムライス……大盛り……」と呟いていたのを、この不器用な魔王は覚えていたのである。


---


平和で微笑ましい光景。だが、一番奥の席には、この空気感を台無しにする不審な気配があった。


サングラスの不審者シルフィ「ウフフ……不幸にならないエレンさんは、何か物足りませんね……ウフフ」


サングラスの不審者リノ「まあ帳尻合わせで必ず不幸になるはずですよー、リバウンド不幸、楽しみですねっ、てへっ♡」


リノに抱っこされたサングラスの不審な赤ちゃん(マキ)が、思念で鋭く突っ込む。


マキ(エレンを心配して着いてきたのかと思ったら、不幸を楽しみにしてたんかーい!!!)


魔王のツンデレな優しさ、軍師たちの歪んだ愛、そして王と皇帝の演説。


帝都クレイドの午後は、相変わらずのカオスを孕みながら15時の定刻へと向かっていく。


---


帝都クレイド、大広場。そこには歴史の証人となろうとする民衆が、地平線を埋め尽くさんばかりに集結していた。


---


壇上に並ぶ主役たちを見上げ、市民たちの噂話が熱を帯びる。


「おい、あれが鬼神セシリア様だ! 十傑を三人抜きしたってマジかよ……」


「モーツァルト様を倒した風神シルフィ様もいるぞ!」


「十傑と引き分けた雷神フルーレ様に龍神エレン様……アレクサンドは化け物揃いだな!」


カレン「……。何か辛うじて汚名(AAカップ等)だけ消せて、『神』なんて呼ばれてるのが逆にムカつくわね」


ハナ「いいじゃないですかカレン様! 噂の実物より可愛いって言われてますよっ!」


リノ「(思念)ふふふ、もっと褒めてもいいんですよ?てへっ♡」


一方、三英雄への声援は、黄色い悲鳴を通り越して「合唱」の域に達していた。


「シューベルト様〜♡」「カッコいい!」「結婚してー!」


セシリア「……。……お前、相変わらず大人気だな。……小さな子供たちから」


シューベルト「…………(遠い目)」


皮肉なことに、午前中の「サイン会」の噂が広まったのか、最前列を陣取る熱狂的なファン層の平均年齢は、驚くほど低かったのである。


---


シャルロット皇帝が力強く同盟の締結を宣言した瞬間、広場を支配したのは「静寂」だった。


市民も、そして死を覚悟していた兵士たちも、この「誰も負けない結末」が現実であると理解するのに、数秒の時間を要したのだ。


そして――。

クレイドを揺るがすほどの地響きのような歓声が爆発した。


ラーズ「カレン、本当に心から礼を言うぞ。この形を作るためにどれほどの苦労をしたのか……感謝しかない」


カレン「フフフ……ハイドンさんとブキャナンさん、それとモーツァルトさんがいなかったら、こうはいかなかったわよ」


その言葉を背後で聞いていたハイドン、ブキャナン、モーツァルトの三人は、溢れる涙をこらえきれず、目頭を強く押さえた。


大陸の均衡を破壊するのではなく、守るための同盟。それは、かつて誰も成し遂げられなかった、最も困難な「勝利」の形だった。


今回の神の如き采配は、大軍師カレンの名がこの後、千年の後にも伝説として語り継がれる程の大偉業であった。


しかし、ここから更に大偉業を重ね積み上げていく事になるというのは、彼女ですらまだ知りえなかった。


---


こうして、過去に例のない歴史的同盟は無事に締結された。


だが、アレクサンド騎士団の夜はまだ終わらない。19時からの会席(という名の無礼講)が、彼女らを待っているのだ。


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