第97話:歴史が動いた日
第97話「歴史が動いた日」
皇帝の間。そこでは、大陸の運命を決める「王」と「皇帝」の対面が行われていたが、その会話の内容は、あまりにも常軌を逸していた。
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シャルロット「ラーズ王、本来なら敗戦国であるわたくしが訪れなければならないのに……それにしても、どうやってこんなに早く来られたのですか?」
ラーズ「いえいえ、淑女をアレクサンドまで足を運ばせるわけにはいきません。まあ、普通に正式な手続きなら準備だけで10日、大軍での行軍ならそこから更に7日はかかります。なので、三人でこっそり最短距離の山越えで来たのですよ」
シャルロット「三人で……!?しかも山越えなんかされたら 野盗や山賊がたくさん出ましたでしょうに!」
ラーズ「アハハ、たくさん出てきましたよ。シャルロット陛下なら、どうされます?」
シャルロット「わたくしなら……現れた山賊を都度撃退して道案内をさせ、次の山越えの先鋒隊にしながら増やしていきますが」
ラーズ「気が合いますね。まあ、私もそうしながらクレイドまで来たんですけどね」
シャルロット「まあ……奇遇ですね。全く同じ考えでしたか」
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エレン(ひいいっ!! ラーズ王もまともじゃないけど、まさかシャルロット陛下まで……!!)
山賊を「撃退」するだけでなく、そのまま「吸収」して増殖させる。その発想は、軍略家というよりは、もはや「災害」の類であった。
シューベルト「何を驚いてんだ?シャルロットは帝位に就くまでは俺様と互角に近かったんだからな。当然そうするだろうさ」
エレン「ひいっ!」
セシリア「ラーズのやつも、わたしが何回ボコボコにしても、本気で真っ二つにしてやろうとしても、なかなか死ななかったからな。とにかくアイツはしぶといぞ」
エレン「きゃああ‥‥セシリア様は国王をいったい何だと思ってるんですかぁ!?」
カレン「まあラーズ王も幼少の頃はマキ様の一番弟子で、マキ様と唯一互角の勝負ができてた人だもんね。あの王がまともだと思うほうがおかしいわよ」
マキ(ふん‥‥ラーズの強さはわたしも認めてる、が、あの軟弱な性格は面倒くさいのひと言に尽きる‥‥だから認めない!!!)
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怪物たちの共鳴を目の当たりにし、エレンは悟りを開いたような顔で呟く。
エレン「ラーズ王もシャルロット陛下も……どちらも……。護衛とか、まったく必要ない人なのでは……?」
その瞬間、隣にいたジェームズの視線が、極点より冷たくエレンを貫いた。
ジェームズ(……それ、キミが言うか?)
十傑シューベルトと一騎打ちをして「寝落ち」で引き分けた伝説の一般市民(自称)。
彼女の「まとも」の基準こそが、この部屋で最も崩壊している事実に、本人は一生気づかないのであった。
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山賊の「しつけ方」で盛り上がる王と皇帝。そのあまりに不穏な団欒を、限界を迎えた「琥珀色の鬼神」が打ち破る。
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セシリア「おいラーズ! 早く本題に入らぬか! お昼ご飯までに終わらせないと暴れるからな!!」
空腹による鬼神モード発動の予兆。その殺気を感じ取り、ラーズ王はやれやれと苦笑しながらも、一瞬で「アレクサンドの王」の顔に戻った。
ラーズ「それではシャルロット陛下、本題に入らせていただきますね」
シャルロット「はい。……私の緊張をほぐそうと、色々とお気遣いいただき感謝しております」
セシリア「おいシャルロットよ、ラーズは天然だからな。気遣いとかじゃなく普通に『地』だと思うぞ?」
ラーズ「……セシリア、うるさいよ?」
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シャルロットは居住まいを正し、震える声を抑えて言葉を紡ぎ出す。それは、一国の主としての最後の大仕事であった。
シャルロット「私は敗戦国の皇帝です。無条件降伏の締結が済み次第、皇居を明け渡す所存です。投獄も処刑も覚悟の上ですが……それでも部下たちはどうかお咎めなく、アレクサンド騎士団として仕官させていただけないでしょうか? 全ては私の責任ですので……お願いなどできる立場ではないのですが、何卒どうか……どうか‥‥‥」
その言葉に、背後の三英雄が息を呑む。
シューベルト「……シャルロット……‥‥」
ショパンの目には涙が浮かび、メンデルは唇を噛み締めながら沈黙を守る。
自らの地位を、命を捨ててでも部下を守ろうとする少女の背中は、あまりに危うく、そして高潔だった。
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重苦しい沈黙を破ったのは、ラーズ王の穏やかな、しかし確固たる意志を持った声だった。
ラーズ「皇居を明け渡す必要なんかないですよ。シャルロット陛下には、そのままここに居てもらいますから」
シャルロット「……???……。敗戦国の皇帝がそのまま玉座に座るなんて、聞いたこともありませんが……」
理解が追いつかないシャルロットに、ラーズは微笑みを向けた。
ラーズ「そもそも、私は無条件降伏の締結をしに来たわけではないですよ。アレクサンド王国とゼッターランド帝国の『同盟』の調停に来たんですから」
「……!!!!」
その瞬間、皇帝の間が凍りついたような静寂の後、爆発的などよめきに包まれた。
大臣たちは腰を浮かし、三英雄と将軍ズは互いの顔を見合わせる。
勝利を手にしながら、相手を屈服させずに対等な隣人として手を取る。
それは、これまでの大陸の歴史を覆す「王の決断」であった。
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シャルロット「ここまで圧倒的な勝利を収めながら……同盟なんですか……?」
シャルロットは、その手に握られた「支配」という名の勝利の果実が、実は「手を取り合う」というもっと大きな未来への種であったことを知り、愕然とした。
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ラーズ「我々アレクサンド王国は建国以来、支配ではなく常に『同盟』という形を貫いてきました。だから私も王位に就いた時からずっとあなた方と手を取りたかったのですよ」
シャルロットは問う。「それで、本当に良いのですか」と。
そこへ、カレンが鋭く、しかし温かな理性を湛えた声で割って入った。
カレン「では、なぜ、今まで北のアスランと南のグラドが、定期的にアレクサンドとゼッターランドに軍事侵攻を仕掛けてきていたか分かりますか?」
シャルロット「……我々のどちらかが統一されるのを恐れていたから……」
カレン「その通り。どちらかが強くなり過ぎないようにするのが目的ですが、西と東が統一される事よりも、彼らが一番恐れていたのは西と東のお互いが手を取り合うことです」
カレンの言葉に、帝国の閣僚たちが息を呑む。大陸を四分していた勢力図。その「二つ」が一つになれば、それはもはや均衡の崩壊を意味する。
もしもアレクサンドかゼッターランドのどちらかが勝利し、統一された場合は、間髪入れずに進行し、疲弊している内に叩く。
北のアスラン帝国、南のグラド王国、どちらも同じ考えであったのは間違いない。
しかし北と南にとって、最悪のシナリオは、東西のお互いが犠牲を出すことなく手を取り合う事。まさに最悪のシナリオである。
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カレン「だから私も、軍師に就任して以来、ずっとこの日を……あなた方との同盟をずっと心から望んでいました」
セシリア「それがなかなか上手くいかなかったのだがな。ようやく今日、一つ目の夢が叶ったぞ。シャルロット、お前が受けてくれたら、だがな?」
その言葉は、刃よりも深くシャルロットの胸に届いた。
自分達が「防衛」だと思っていたものは、実は「孤立」であり、相手の「侵攻」だと思っていたものが、実は「救出」だったのかもしれない。
シャルロット「……私は……愚かでした……本当に……完敗です……」
その場に泣き崩れる少女皇帝。その震える手を、ラーズ王が優しく、力強く取った。
ラーズ「我々と共に戦っていただけますか? シャルロット陛下」
シャルロット「……私でよろしければ、喜んで……」
千年近くもの間、血で血を洗う歴史を繰り返してきた東と西。
その長く暗い不協和音が、今、奇跡のような美しい和音へと変わった。歴史が大きく動いた瞬間だった。
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#### 一方、その背後では……
エレン「(……ハンカチ、ハンカチ……陛下が泣いてらっしゃる……あわわわ……)」
カレン「エレン、泣いてる暇があったら同盟締結後の祝賀会の予算表を作って。あと、山賊三万人の『同盟記念・清掃パレード』のルート確認も!」
エレン「この歴史的瞬間に情緒のかけらも無いんですかーーーっ!?」
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いつも読んでいただいてる方々、本当にありがとうございます!
ここまで続けられたのはひとえに皆様の励ましのおかげです。
初めての小説挑戦で読みにくさMAXでしょうが、わたしの中ではこの物語の四分の一に到達できました。
こんな駄作ですが、どうかこれからもよろしくお願いしますね!
荒井熊




