第96話:西の王の威厳
第96話「西の王の威厳」
昨夜のホルモンパーティーの脂っ気がまだ抜けていない翌朝、帝都クレイドの平穏は、地平線を埋め尽くす正体不明の軍勢によって破られた。
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「国籍不明の軍勢、その数三万を超え! 帝都に接近中!!」
その報に、シャルロット皇帝は即座に防衛態勢を命じた。
シャルロット「シューベルト、ショパン、メンデル! 早急に確認と防衛を!!」
だが、隣で冷徹に時計(と予算表)を見ていた軍師は、眉一つ動かさなかった。
カレン「陛下、慌てないでください。今日で三日目ですか……少々早過ぎるとは思いますが、心当たりはありますのでご安心を」
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カレンの指示で編成された千騎の精鋭と、三英雄、そしてセシリアたちの部隊は、城門から二里程の地点でその軍勢と対峙した。
そこには、軍隊というよりは、大陸中の山賊、野盗、ならず者、ヤクザ者をかき集めて煮詰めたような、凄まじくガラの悪い大集団がひしめき合っていた。
山賊の頭領「セシリア様か、カレン様はおられますか?」
セシリア「わたしがセシリアだが」
山賊の頭領「おお!貴殿がセシリア様でありましたか!少々お待ちを!」
山賊軍がモーゼの十戒のように左右に割れる。その中央を、一騎の馬が悠然と進んできた。
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エレン「え? あの人……」
セシリア「ふん。お前、ついに山賊や野盗の長にまで成り下がりおったか」
馬上の男は、セシリアの毒舌を爽やかな笑みで受け流した。
ラーズ王「相変わらずだな、セシリア。お前の武勇は逐一聞いておったぞ、大義であった」
セシリア「随分早かったではないか」
そこにいたのは、正規軍を率いる代わりに、三万もの「ならず者(傭兵および義勇軍)」を即座にまとめ上げ、強行軍で駆けつけたアレクサンド王国の主、ラーズ・アレクサンドその人であった。
ラーズ「平和の調停には、賑やかな方が良かろうと思ってな」
シューベルト「(……あのバカげた数のならず者を、一言も発さずに統率してやがる。あいつが……西の王か‥‥)」
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地平線を埋め尽くす不穏な軍勢の正体。
それはアレクサンド王国の正規軍ではなく、王が道すがら「拾い、叩き伏せて、従わせた」大陸の猛者たちであった。
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リチャード&ドーガン「セシリア様、ご無沙汰しております! ご武勇はお聞きしておりますぞ!」
セシリア「おお! お前たち! ラーズのお守りは大変だっただろう? 崖から突き落とせばよかったろうに」
ラーズ「セシリア……お前は相変わらずだな……」
呆れ返りながらも、旧友との再会に笑みをこぼすラーズ王。しかし、軍師カレンの目は笑っていない。
カレン「国王、何なのこのガラの悪い軍勢は? もっと大人しい到着の仕方はなかったの!?」
ラーズ「仕方ないだろう。速度を最優先して、リチャードとドーガンと三人で最短距離の山間部を抜けてきたら、次から次へと彼らが現れてだな……」
よく見れば、三万のならず者たちは皆、顔が腫れ、痣だらけ。特に頭領や組長クラスの男たちは、原型を留めぬほどボコボコにされた形跡があった。
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エレン「ええっ!? 三人だけで来たんですか!? それに、この人たちを全部やっつけたんですか!?」
ラーズ「おお、エレン久しぶりだな。お前の活躍も聞いてるぞ? 後でゆっくり褒めてやろう」
エレン(ひいいっ!! この人もやはりヤバい人だった!? アレクサンドにはまともな人が一人もいないんですかぁぁ!?)
王からの「褒美」という言葉が、エレンの耳には「次はお前の番だ」という宣告にしか聞こえなかった。
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ラーズ王は、再会の挨拶もそこそこにキョロキョロと周囲を見渡し始めた。
ラーズ「ところで‥‥リノはいないのか?」
「別にわたしを探したり心配したりなんてしてないでしょう? 目的は見え見えです」
不貞腐れた表情で現れたリノ。
ラーズ「い、いやリノよ、お前の心配は常にしていたぞ……」
リノ「目的はこっちでしょう!」
リノが抱っこしている、不機嫌そうだが元気なマキ。
その姿を見た瞬間、ラーズ王の顔から王としての威厳が消え、心底から安堵した「親しき旧友」のような表情に変わった。
マキ「ふん、ラーズめ‥‥相変わらずめんどくさいヤツだな……」
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カレン「とにかく、話の続きは皇帝の間でやるわよ。三万人のキャンプ設営、誰が指揮を執ると思ってるの!」
軍師の怒号を号令に、アレクサンド王と三英雄、そして三万の(ボコボコにされた)猛者たちは帝都クレイドへと進軍を開始した。
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帝都クレイドの城門をくぐった瞬間、三万の「ならず者」たちは、世界で最も礼儀正しい「清掃ボランティア団体」へと変貌を遂げた。
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ラーズ「えー、皆さん。私は今から皇帝陛下と打ち合わせがありますので、それまでの間はこのゴミ袋とトングを使って、クレイドの街を隅々まで清掃していてください」
頭領「了解致しました、ラーズ王! おい野郎共! クレイドを空き缶一つないピカピカな街に変わり果てさせてやるがいい!!」
ならず者三万「ウォー!! ラーズ王万歳!!! ジーク・ラーズ! ジーク・ラーズ!」
軍靴の音ではなく、トングがカチカチと鳴る音と共に、三万人の男たちが一斉に道端の吸い殻を拾い始める。その光景は、圧巻を通り越して「怪奇」であった。
シューベルト「こ、これが西の王の威厳か……。何というカリスマだ……」
ショパン「手荒な手段を使ったのは間違いないが、誰一人反抗させない徹底ぶり。恐ろしいな」
メンデル「まあいいんじゃない? あの人たちも定職に就けそうだし~」
カレン「ラーズ王。あいつらはここに置いて帰るわよ? 帝国の山賊なんだから、帝国に面倒を見させなきゃ」
ラーズ「……。……。飼ってはダメか?」
カレン「ダメに決まってるでしょ!!」
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皇居へと移動する一行の前に、一人の将軍が立ち塞がり、恭しく膝を突いた。
その立ち居振る舞いは、これまでのアレクサンドの「不協和音」とは一線を画す、真の「武人」のそれであった。
バッハ「ラーズ王! お初にお目にかかります。お会いしたくて待ち望んでおりました!!」
ラーズ「……。どうか頭を上げてください。こちらこそお会いできて光栄ですよ。えっと、貴方の名は……?」
バッハ「バッハと申します」
ラーズ「な、バ、バッハだと……!?」
王の顔から余裕が消える。「アレクサンドを怒涛の予算ラッシュ」で轟かせた伝説のその名を、ラーズが忘れるはずがなかった。
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#### 王の戦慄
バッハ「はい! つきましては、こちらの『戦後復興に伴う新規設備投資、及び全軍隊服リニューアル』の稟議書に承認を……」
三万人のならず者が襲いかかってきても、笑顔で拳を振るっていた黄金の王。
そんな彼が今、バッハの手にある「たった一枚の紙」を前に、見たこともないほどガタガタと戦慄に震えていた。
ラーズ(……こ、これが……カレンすら恐れる『予算の帝王』か……!!)
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