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第95話:分からないまま時は流れて

第95話「分からないまま時は流れて」




網の上で踊る脂の香りは、かつての敵味方を一つの「欲望」で結びつけた。だが、それは新たな争乱の火種でもあった。


---


ショパン「これをこのタレに浸けて食べるのか……?」


造形美を愛するショパンにとって、その不規則な肉の塊は未知の恐怖だった。


セシリア「うむ、食べ方を教えてやろう。これをタレにたっぷり浸けてだな、白メシの上に乗せるのだ。……そして白メシと一緒に食べる!」


手本を見せるセシリア。滴るタレが白米を汚し、至高の輝きを放つ。


セシリア「うまい!!」


それを見た一同も、恐る恐る真似をしながら口へと運ぶ。その瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。


シャルロット「美味しい!!」


シューベルト「な、何だこりゃ!! うめえじゃねーか!!」


メンデル「これいけるじゃん!!」


ショパン「……見た目と裏腹に、この美味……!」


---


だが、平和な感嘆は10分と持たなかった。


ショパン「シューベルト、そのミノは私が時間をかけて育てていたものだ」


シューベルト「はあ? テメエがトロいのが悪いんだよ」


メンデル「僕は焼きの早いセンマイ狙いだから……って、あれ!? 無くなってるじゃん!?」


セシリア「フフフ、メンデルよ。ここが戦場なら貴様は今ので死んでいたぞ?」


皇帝シャルロットさえも、脂の魔力に当てられ、箸の速度を「十傑級」へと加速させる。


シューベルト「何ぃ!? 俺様のテッチャンがいつの間にかねえじゃねーか!! 誰だ!!??」


シャルロット「シューベルトよ。トロい奴が悪いと言ったのは、お前ではないか?」


阿鼻叫喚の略奪戦。その中心で、一人だけ食べることすら許されない少女がいた。


一同「エレン!! 早く次を焼くのだ!!!!!」


エレン「ひいいっ……!!!!」


---


一方、少し離れた席では、カレンたちが優雅に(?)宴を観察していた。


カレン「あらあら。隣はすっかりみんな仲良しになったみたいね」


ハナ「ボク、隣のテーブルじゃなくて本当によかったよ。陛下の箸の動き、ハンパない速度だよ……」


フルーレ「エレンのやつ、さっきから焼いてばかりで食べてないっすけど……。胸がムダに太ってるから、ダイエットでもしてるんすかね?(ニヤリ)」


シルフィ「ウフフ……。一人だけ泣いていますけど、余程嬉しいみたいですね。ウフフ……」


マキ「エレンよ、何を今更そんなに泣いておるのだ。その席に入った時点でお前の運命は、既に決まっていたではないか……」


リノ(思念)「マキ様、酷いです。エレン様がかわいそうですぅ」


マキ「昨日エレンにインネンつけて説教して、挙げ句泣かしてたお前に言われたくないわ!!!!」


帝都の夜は更けていくが、エレンの網の上には平和も安息も、そして自分用のホルモンも一切存在しなかった。


---


網の上で弾ける脂の音も落ち着きを見せ、帝都最強の五人はようやく、まったりとした「戦後」の空気に包まれていた。


---


エレン「……やっと、静かに食べれる……」


震える手でタレとホルモンを白飯にかき混ぜ、自分用の「ホルモン丼」を生成しながら、網の端で野菜を焼くエレン。


シャルロット「‥‥‥エレン殿、それ凄く美味しそうですね?わたしもやってみます」


エレンの作った通りにホルモン丼を生成するシャルロット。


その横では、まだ負けを認めない男が毒づいていた。


シューベルト「次やれば、俺様が勝つのは間違いない……分かったか!」


セシリア「うむ。あれはわたしが早く到着したから一騎打ちが成立したようなものだからな。実際にお前はへっぽこエレンからかなり削られていた」


シューベルト「何だと!?」


しかしシューベルトは知らなかった、セシリアも100キロメートル以上離れた地からジョギングで駆けつけていた事を‥‥


セシリア「しかし、もしわたしがまだ遅れていたら、お前はさらにもっと悲惨なことになっていたぞ?」


シューベルト「そんな訳あるか。俺様は無敵だ」


セシリア「シューベルトよ、ウチの冷酷非情鬼悪魔軍師を甘く見るなよ。おそらく、お前がへっぽこエレンを倒しても、すぐに驚異のAAカップ師団長が出てくる。そこを撃退しても、休んで復活したへっぽこエレンがまた出てくる。それを倒したら今度はお菓子系師団長が出てきて、それを撃退してもまた復活したへっぽこエレンが出てくる……。おそらく、そんな『無限地獄』のシナリオであろうな」


シューベルト「……酷え作戦だな。というか、そのへっぽこエレンとはいったい何者なんだ? 何をやっても死なねーし、不死身のバケモノか……?」


エレン「……普通の、一般市民です……(蚊の鳴くような声)」


---


一方、その「冷酷非情な会話」は筒抜けだった。


カレン「冷酷非情鬼悪魔軍師って……シルフィのことかしら?」


シルフィ「ウフフ、カレン様以外にその二つ名に相応しい方はおりませんわ(満面の笑み)」


フルーレ「驚異のAAカップ師団長って、リノのことっすよね」


リノ(思念)「失礼な。わたしは一応Bカップですから。てへっ♡」


ハナ「お菓子系師団長って誰のこと? 皇帝陛下のことかな?」


すると、隣のテーブルから「皇帝」がホルモン丼を食べながら静かに口を開いた。


シャルロット「わたしはおやつは好きですが、基本『お色気担当』ですので」


ハナ「うわっ! 聞こえてた!? ……っていうか、お色気担当!?」


---


シャルロット陛下のまさかの自己申告(お色気担当)に、ハナだけでなく、その場にいた全員の箸が一瞬止まった。24歳の威厳なのか、あるいは天然なのか。


セシリア「フハハ! 良いではないかシャルロット! ならばわたしは『最強のアイドル担当』だな!」


シューベルト「……。……。俺様は帰る」


魔王シューベルトが、初めて戦場からの「戦略的撤退」を考えるほど、アレクサンド騎士団の不協和音は帝都のホルモン屋で完成されつつあった。


---


帝都クレイドのアーケード。祭りの後のような静けさの中、シューベルトは一人、思考を整理するように歩を進めていた。


---


シューベルト(何なんだあの軍団は……訳が分からねー……)


ホルモン屋での狂騒を思い出し、溜息をつく。だが、アーケードの入り口で足を止めた彼の目に、その「訳の分からなさ」の正体が飛び込んできた。


そこには、アレクサンド騎士団の隊服を纏った自らの全身パネルが、メンデルやショパンと共に並んでいた。威風堂々としたその姿は、帝国を導く新たなる「将軍」そのもの。


そして、その反対側。

セシリアを筆頭に、カレン、フルーレ、ハナ、シルフィ、リノ、そしてあの「へっぽこ」エレンまでもが、凛々しい顔つきで並んでいる。


シューベルト(……さっきの顔つきとは凄まじいギャップだぜ。俺はエレン、セシリアとしか殺り合わなかったが、ほかのヤツラも間違いなく本物のバケモノだ)


そして、その中心。センターで圧倒的な覇気を放つ深紅の隊服、マキ・クロフォード。


シューベルト(……結局、実物は出て来ねーのかよ。だが、いなくて正解だ。あのセシリアが勝てねえバケモンなんて、いたらそれこそボロ負けだったぜ……)


自嘲気味に笑い、「完敗だ」と呟いた。その背中に、幼い声が掛かる。


---


「あの……違ってたらすみません。シューベルト様ですよね?」


振り返れば、子連れの若い母娘。


娘「ね? ママ、私の言った通りでしょ!? 私がシューベルト様を間違うわけないもんっ!」


母親によれば、娘が熱狂的なファンだという。面倒くささを顔に出しながらも、シューベルトは無下にはできず、サインと握手に応じた。


だが、それが引き金だった。


「本物のシューベルト様だ!」「うちの娘も大ファンなんです!」「サインお願いします!」


気がつけば、周囲は子供連れの家族で溢れかえっていた。


女子中学生、小学生、果ては幼稚園児まで。憧れの眼差しを向ける少女たちの長い列は、もはや戦場よりも過酷な「ヒーローショー」のサイン会と化していた。


シューベルト「ちっ、なぜ俺様がこんなことを……!」


---


不貞腐れながらも、小さな手と握手を繰り返すシューベルト。


その背後から、全てを台無しにする「琥珀色の声」が響いた。


セシリア「シューベルトよ、後を追いかけて来てみれば、凄まじいことになっているではないか?」


振り返ると、そこにはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたセシリアが立っていた。彼女は周囲の「少女の列」をゆっくりと見渡し、一言、断罪の言葉を放つ。


セシリア「……お前、まだ『ロリコン』が直っていないではないか。」


シューベルト「!!!!!!」


全否定の叫びすら喉に詰まるほどの衝撃。


「最強の剣士」を目指し、「魔王」として恐れられた男の誇りは、帝都の子供たちの純粋な人気と、セシリアの無慈悲なレッテル貼りの前に、粉々に砕け散った。


---


帝都の子供たちを笑顔にし、クタクタになったシューベルト。


しかし、肉体的な疲労よりも、彼を苦しめていたのは拭い去れぬ「冤罪」であった。


---


シューベルト「セシリア、テメエには話があるからちょっと来い!!」


セシリア「……わたしでいいのか? わたしは成人だしおっぱいデカいし、お前好みではないだろうに……」


シューベルト「!!!!‥‥‥だからその件で話があるって言ってんだよ!!!!」


場違いなほど可愛らしい「喫茶ペルシャねこ」の店内で、シューベルトは必死にペンダントの由来を語り始めた。


シューベルト「あのペンダントはだな、皇帝の女系にのみ与えられる純銀製のペンダント、それを与えられた俺様は全権を与えられた証なんだよ! いわば、印籠みてーなもんだ!!」


セシリア「ふーん……」


頬杖をつき、生暖かい目で見守るセシリア。その反応は、言い訳に窮した男を見る「憐れみ」に近いものだった。


セシリア「フフフ、もう分かったから言い訳しなくてもいいぞ。好みは人それぞれだからな。犯罪にさえ走らなければそれでいい。……それよりわたしの要件だ」


シューベルト「テメエ、俺様の話をこれっぽっちも聞いてねーな!?」


---


セシリア「率直に言う。シューベルト、お前はロリコンだが、これからわたしの最大の剣となってもらう」


シューベルト「はあ!? 何を言ってやがる!? それより俺様はロリコンではない!!!」


セシリア「まあロリコンでも良い。とにかく、わたしの直属部隊に入ってもらうからな。歓迎してやる、楽しみにしておけ」


シューベルト「まっぴらゴメンだ!! ていうか、俺様はロリコンじゃねえ!!」


セシリア「それでは、わたしはペナント整理(※物販在庫確認)があるから帰るぞ。さらばだ」


一方的に「新入隊員(兼ロリコン担当)」のレッテルを貼り付け、セシリアは嵐のように去っていった。


喫茶店に残されたのは、ただただ虚無感に包まれた大陸十傑の魔王一人。


---


シューベルト「まったく、ひでえ女だ……」


彼が肩を落として立ち上がると、隣の席で新聞を読んでいた二人の男が同時に立ち上がった。


ジェームズ「お疲れ様です。ゆっくりくつろげる部屋にご案内しますよ」


ガリクソン「皆お待ちしてますよ」


シューベルト(……。新聞、逆さまだろ……)


最初から最後まで監視されていたことに気づきながらも、もはや抗う気力すら残っていないシューベルト。


こうして、「元・魔王」はジェームズとガリクソンに挟まれ、ドナドナのような足取りでアレクサンド騎士団の宿泊建屋へと「帰宅」していった。


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