第二十四話
辺りはしんと静まり返っている。
俺の呼吸音だけが周囲に響く。眼前には、真っ二つに切断されたディヴァドラグの姿がある。
俺の手におさまっていた【剣】が光の粒子となり、【守護者のアミュレット】に吸い込まれていく。
身体は重く、心もまた鉛のように重い。
レベルアップは確かにしたはずだが、それでも身体が重いのは、先ほど放った技の反動だろう。
ディヴァドラグを一撃で仕留めるほどの威力を持ったその技を俺は振るったが、その名前すら俺は知らない。
心が重いのは、何故だろうか。
考える前に、俺は走り出していた。
理乃、理乃……。と頭の中で繰り返す。俺の脳裏にこびり付いて離れない光景。血を流し、力なく地面に倒れる彼女の姿。それらを振り払おうとするかのように、俺は足を速める。
強敵を打ち倒したと言うのに、何の充足感も存在しない。あるのは喪失感だけ。
理乃はまだ死んだわけじゃない。急げば間に合うはずだ。全力で走り、デルマたちのところに行き、そこで手当てをしてもらおう。
そうすればまた、彼女は俺の隣を共に歩んでくれる。俺に笑いかけてくれる。俺の手を握ってくれる。
だが、辿り付いたその場所には愛しい彼女の姿は無い。黒く変色した血液が地面にこびり付いている。
それだけが、その場には残されていた。
「理乃……?」
呆然と呟く、
彼女は酷い怪我を負っていた。それは地面の血痕からも見て取れる。ならば動けるはずが無い。わからない。ならどうしてだ。どうして彼女の姿がこの場に無い……?
「理乃、理乃……っ!!」
彼女の名前を叫ぶ。
喉を枯らして懸命に、それだけを叫び続ける。そうすれば彼女が俺の前に姿を現してくれるような気がした。
返事はない。
地面に膝をつき、頭を垂れる。
拳を地面に叩きつける。皮がめくれ、血が流れる。気づけば涙が頬を伝っていた。
声にならない呻きが漏れる。
――俺はまた君を守れなかったのか……?
「っ!?」
俺の背後に誰かが立っている。そしてその誰かは、俺の頭に腕を回し、まるで赤子を抱くかのように優しく、俺の頭を抱いている。
誰なんだ、なんてことは思わない。
「……理乃」
振り向くと、会いたかった彼女の顔があった。
「代一……」
彼女は俺の名を呼び、そして俺の胸に飛び込んでくる。抱きしめると、艶やかな長髪が靡き、柔らかな香りが鼻をつく。
温かい。腕の中で彼女を抱きしめ、俺は思う。彼女と抱きしめあっていると、身体だけでなく、心まで温かくなる。
「理乃、良かった、無事で……だけど、どうして……」
理乃の身体には傷一つ無く、先ほどまでの痛々しい姿からは想像もできないほどに綺麗な状態だった。
疑問に思って彼女を聞くと、柔らかな感触が俺の唇を覆った。熱いくらいの体温が、口の中に伝わる。
キスされている、と言うことに気づくまで数秒掛かった。
唇を離し、唖然としている俺に向けて、理乃は幸福そうな笑みを浮かべてこう言った。
「――ずっと一緒だよ……」
心臓が強く鼓動し、俺の身体に流れ込んできた何かを全身へと巡らせる。何がなんだかわからなかった俺だが、理乃が生きていると言う事実に、涙を流しながら喜びに震えたのだった。




