第二十話
都合よく武器が落ちているわけがなく、俺は武器の耐久度を常に気に掛けつつ戦闘を行わなければならないことになってしまった。
理乃はやる気だが、一度や二度ならとも無く、彼女に接近戦での連戦を強いてしまうことは絶対に避けたい。
一瞬の隙がそのまま命取りとなってしまうので、出来れば理乃には広報から援護に徹して欲しいのだ。
魔物が出てこなければ全ては解決なのだが、そう上手くはいかないのが人生……もとい魔物の巣窟である〈深獄〉の探索である。
〈光る目玉〉と言う名前を持つ魔物が三匹、俺たちの進路をふさいでいる。ふわふわと宙に浮かんでいる球体の魔物であり、怪しく発光するその姿形は、眼球をそのまま大きくしたようで何だか不気味である。
「理乃、一匹任せもいい?」
余り強そうな魔物ではないので、理乃を接近戦に慣れさせるためのいい練習台となってくれるだろうと思った俺は、そう言って後ろで控えていた理乃の方を見た。
彼女は一つ頷いて、ダガーを構える。準備は万端であるようだ。
「行くぞっ!」
俺の声を合図に戦闘が開始される。
目玉たちはその巨大な瞳で俺のほうをじっと見ていて、その視線には何だか気味の悪いものを感じる。
だが立ち止まっているわけにもいかないので、剣を構えながら走り、右端にいた目玉に剣を振り下ろした。
光る目玉はふわりと攻撃をかわし、理乃のいる方へと飛んで行く。
「理乃、そっち行ったよ!」
「うん……っ!」
理乃が光る目玉に向かっていくのを横目で見て、俺は残る二匹の目玉と向き合う。
サラマンダーの炎に当てられて刃を潰されてしまった俺の剣だが、ところどころには刃が残っているため、それを部分を上手く使うことが勝率を高める鍵である。
右側の目玉に突きを繰り出す。ふわりと浮いてかわされるも、攻撃が若干掠ったらしく、俺の手にゴムの塊に触れたかのような感触が伝わる。
刃のある部分には触れなかったようで、光る目玉には傷一つ無く、俺は思わず舌打ちをする。
二匹目の目玉が横から迫ってきていた。その攻撃は至って単純。勢いを付けた突進である。
俺は横に跳びそれをかわす。光る目玉の動きは鈍く、それをかわすことは今の俺には造作もないことである。
問題はどう止めをさすかで、いくつか技を使用することも視野に入れて戦闘を進めていく。
二匹の目玉は連続で突進を繰り返してくる。
咄嗟に思いついた俺は、目玉の攻撃をかわし、そのまま眼孔目掛けて柄頭をたたきつけた。
重量溢れる攻撃に目球はゆらゆらと揺れて地面に落ちる。すかさず切っ先を魔物に向け、思い切り突き刺した。
刃は一直線に魔物の身体へと刺さり、その命を奪った。切っ先の刃が生きていたから成せた技である。しかし、目玉から剣を抜こうとしたとき、歪に潰れた刃が邪魔になり上手く抜き取ることが出来なかった。
だが敵は攻撃の手を弱めてはくれない。一匹残った光る目玉は俺の横腹目掛けて突進を繰り出してくる。
身体を捻って攻撃をかわす。だが剣は今だ抜けず、目玉は反転して俺のほうへと向かってくる。
どう迎撃すべきか考えていると、視界に影が入り込んできて、光る目玉の身体から鮮血が噴出した。
唖然としてその光景を眺めている俺の前で、俺の窮地を救ったともいえる理乃がさっとダガーを振るい、その剣身に付着した血液を飛ばした。
「大丈夫……?」
心配そうに俺を見つめる少女。
何だかやるせない気持ちになった俺だが、魔物の死体から剣を抜き去り、
「危ないところだったよ、ありがとう」
そう言った。
「それにしても、今の動きは凄いね……スピードなら俺以上だったんじゃないかな。短剣の扱いも何だか上手だし」
「ふふ……新しいスキルをゲットした」
なるほど。
思えば俺が【見習い剣術】のスキルを手に入れられたのは、スライムを剣で倒したからである。
理乃はこれまで呪文でしか魔物を倒したことが無いが、今のように魔物を倒したら彼女もスキルを獲得する可能性があった。
そして今、それが実現したということだ。
何だか俺の存在意義が危うくなり始めている。
剣の使えない俺なんてただの地味な男じゃないか。このままじゃ男のプライドが丸つぶれだ。
いや別に、それでもいいんだけど。
「どんなスキルなの?」
「……【疾風の短剣術】……短剣の扱いが上手くなって、動きが速くなるの」
「接近戦向きのスキルだね……これは俺、本格的にお荷物かも」
何せ理乃は回復もこなせるのだから、彼女が接近戦で戦えるようになれば、俺のいる意味が余り感じられなくなる。
剣があれば話は別なのだが、今の俺だとまさにお荷物そのものとなりそうだ。
「そんなことないよ……代一がいないと、私は戦えないから」
理乃はそう言いながらダガーを鞘に納めて、俺の胸に飛び込んできた。慌ててその体を抱きとめる。
いったいどうしたのだろう。
「理乃……?」
「代一がいるから、私は戦えるの……本当は怖いけど、代一が私に勇気をくれるの……だから代一は大事。いてくれないと私は困る」
「……。ありがとう」
彼女は俺の気持ちに本当に敏感だ。
俺の気持ちが沈み始めていることを察知して、このような行動に出たのだろう。
俺の腕の中にいる理乃は、俺のことを本当に信頼しているようで、まるで全てを俺に預けてくれているかのように俺の背中に手を回している。
そんな彼女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに声を漏らした。
理乃を放し、いつ壊れるかもわからない剣を見ながら、俺はこれからどう戦うべきか考える。
ふと、ステータスを確認して見ようと思い立つ。もしかしたらレベルが上がっているかもしれない。
荻野代一ogino yoiti
レベル:23〈↑2〉
スキル:【達人剣術】―〈四連斬り〉〈大炎陣〉〈心眼〉〈叢雨突き〉
■〈大岩斬り〉⇒〈斬波断〉
武器 :【上質な鋼のロングソード+5(損傷)】
防具 :【闇紅布のクロスアーマー】
装身具:【守護者のアミュレット】
:【知識の指輪】
:【神秘の道具袋】
レベルが二つ上がっている。
それにあわせて〈大岩斬り〉が〈斬波断〉と言う技に進化している。
〈斬波断〉
■込める力に合わせた刃を持つ衝撃波を放つ。込めた力が多いほど、体力が消費される。
おお、これは中々どうして今の俺向きの技である。
理乃に一言断って、俺は壁に向け〈斬波断〉を放つ。
最低限の力しか込めていないが、それでも五十センチくらいの大きさの衝撃波を放つことが出来た。
壁の岩に細い亀裂が走る。予想したとおり、刃の不完全な今の剣だっても、放たれた衝撃波には刃がともっているようだ。
〈大岩斬り〉は最高の攻撃力を持つ斬撃に最高威力の衝撃波を生じさせる技だったが、その進化系である〈斬波断〉は俺の好きなように威力を調節でき、消費体力を抑えられるようになっている。
使い勝手がかなり良くなったし、これなら今の俺でも敵と戦える。
新しい技を覚えたことを理乃に説明し、これで理乃が無理して戦うことはないと言うことを告げる。
だが理乃はすっかり前衛として戦う気分だったようで、自分も戦うと言って譲らなかった。
さっきの戦いから見て、理乃はかなり強くなっているので、妥協案として二人で接近戦を行うことにした。
俺の負担も減るし、彼女の負担を減らすこともできるのだから、これが一番いい形なのかもしれない。
武器の問題を一応解決し、俺たちはさらに奥へと進む。




