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第二十一話


 現れた二匹の〈光る目玉〉を、目にも留まらぬ速さで切り裂く。俺ではなく、理乃がである。

 一方の俺は〈サラマンダー〉に対し〈斬波断〉を繰り出して、その身体を両断した。

 魔物との戦闘はぐっと楽になった。理乃が戦えるようになったということもあるし、俺に新たな攻撃方法が増えたということもある。

 中距離の攻撃と言うのは案外重宝されるのだと改めて再確認した。


 だがそんな俺たちでも倒すのに苦労する魔物が現れた。

 〈バルバロイ〉の名を持つその魔物は、単体ながら他の魔物を凌駕する攻撃力と防御力を持っていて、理乃の攻撃では軽すぎるし、俺の攻撃では防がれてしまうといった具合に、中々良い攻撃を与えることが出来なかった。


 その状況を打開したのは理乃の【白魔術】だった。

 バルバロイは棍棒のような身の丈ほどの武器を持っている魔物で、その顔はまるでライオン、身体は筋肉質な人間のそれだった。

 力のままに振るわれる棍棒は、たとえ直撃しなくても地面を砕き、その破片が俺たちへと向かってくる。

 だからか、俺と理乃には細かい傷が無数についていた。


 戦いの緊張からか、俺たちには疲労もたまり始めていた。

 戦いの最中、理乃のダガーが弾かれ、宙を舞う。武器をなくした彼女に対してバルバロイは止めだと言わんばかりに強力な攻撃を叩き出したのだが、理乃は〈ヒーリング・バースト〉の呪文を発動させることによりそれを向かえ打った。


 理乃の傷が回復し、何故か俺の怪我と疲労も取り除かれて、それらをエネルギーとした光の弾丸が理乃の手から放たれ、バルバロイの身体を穿つ。その衝撃に動きを止めたバルバロイに、俺は全力を込めた〈斬波断〉を繰り出し、そして戦闘は終了した。

 

 二人とも疲弊していたが、それさえも理乃の〈ヒーリング・バースト〉は取り去ってくれたようで、理乃の魔力回復を待つだけで出発することが出来た。 

 〈ヒーリング・バースト〉は結構な量の魔力を消費するらしく、連発はできないらしいが、それでも強力な技である。傷ついていればいるほど、疲れていればいるほどその威力が上がるのだから。


 今回の戦いで理乃のスキルが進化した。

 俺もレベルが上昇した。だが技が進化することは無く、ただ身体能力が強化されただけだった。

 理乃のスキル【白魔術】は【聖魔法】へと進化し、その効果として理乃の魔力量は大体倍程度になり、魔力回復速度も上昇したらしい。

 呪文が進化することはなかったようだが、レベルアップを繰り返しているうちにおのずとそれらも変化していくだろう。


 俺の今のレベルは24だが、これまでの上がり幅を考えると段々レベルも上がりにくくなっているのだということがわかる。

 そりゃいつまでも簡単にレベルが上がっていたら俺たちはあっと言うまに最強だが、一気に強くなるあの感覚を味わうことはもう出来ないのだと思うと、なんだかなー、とは思う。


「……どっちに行く?」


 立ち止まり理乃が言う。分かれ道だ。こうした分かれ道は今まで何度もあったが、そのたびに彼女は俺の意見を聞いてくる。

 俺の幸運のおかげでこれまで行き止まりにぶち当たったことは一度も無い。前のように宝箱を発見することも無いが、それでも着実に前へと進んでいる感はある。


「右にしよう」


 そう答え、俺たちは右へと進む。

 光る岩に傷を付けつつ先へと進むと、今までに無いほどの巨大な空洞に出た。そこには光るクリスタルの塊が多数存在していて、その幻想的な輝きに俺と理乃は少しの間足を止め、それに見入ってしまった。


「道が見当たらないな……ついに俺の幸運も尽きたのかな?」


 その空洞内には次へと続く道が無かったため、俺は言った。いくら俺が幸運の持ち主だとしても、それを何度も発揮していれば運のつきも訪れると言うものなのかもしれない。

 だけど本当にそうだろうか。自信過剰というわけではないが、何だかこの場所には何かあるような、そんな気がしてならない。


「……もっと探してみよ?」

「うん。賛成だ」


 理乃も同じことを思っていたらしく、二人でもっと詳しく探してみることにした。魔物の気配はないので、理乃は左側を、俺は右側を受け持って探索を続ける。


 壁に沿って歩いていると、中間辺りのところで何か奇妙なものを発見した。


「なんだこれ……?」


 壁に何かが埋め込まれている。よく見ると、模様の刻まれた金属の円盤がそこにはあった。若干土を被っていてよく見えないのだが、恐らく何らかの生物の模様が刻まれているようである。


 手がかりと言ったらこれくらいしかないので、俺はそれに手で触れてみた。模様の部分の汚れを払うと、それが何を模したものであるのか、何となく察することが出来た。


 トカゲのような顔である。だが長い牙が口元から覗いている。これはまるで、そう――


「ドラゴン……」


 その時、空洞内が大きく揺れ、何か巨大な装置が稼動しているような、低い音が響き渡った。

 慌てて理乃の元に向かおうとする。が、地面から巨大なクリスタルが突き出てきて、俺の進行を阻む。

 俺はどうやら罠みたいなものを作動させてしまったらしい。突如出現したクリスタルの壁によって俺と理乃は分断されてしまった。特に通り道のようなものは見当たらない。紫色に光るクリスタルの一面に、呆然とする俺の顔が映りこんでいるばかりである。


 どしん、と地面が揺れた。

 俺の背後で巨大な生物がその気配、姿をあらわにする。


「なっ……」


 現れた魔物を見て、俺は言葉を失った。

 四本足の巨大な生物がその両眼で俺を睨んでいる。平たく大きな口からは牙が数本飛び出ており、荒い呼吸音がはっきりと聞こえる。


 ドラゴンだ、と俺は思った。

 翼こそないが、四本足で長い尾を持っているその魔物を、俺は間違いなくそれであると確信した。

 何よりも、その存在感たるや今までの魔物の比ではない。


 ――〈ディヴァドラグ〉――


 それが魔物の名前であるらしい。

 ずどん、と俺の背後で衝撃音が鳴る。まさか、と思った。


「理乃……」


 壁の向こう側でも俺と同じ事態が起きているとしたら、彼女は一人、このドラゴン、〈ディヴァドラグ〉を相手にしなくてはならないことになる。

「くそ……っ!」


 彼女を守ると誓ったのに、どうして俺は大事なときに傍にいてやれないのか。

 いや、こうなった以上考えている暇は無い。理乃を信じて戦いぬくしかないのだ。


『ゴオオオォォォォ!!!』


 地響きのような咆哮。爆音の衝撃が俺の体を振動させる。クリスタルにまで届いた音波はそれらを振動させ、キーンと甲高い音が空洞内に響き渡る。

 やるしかない。覚悟を決めた俺は剣を持ち、〈ディヴァドラグ〉と向き合ったのだった。


 


 

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