第十八話
中間地点から先は発光する特殊な岩に覆われているらしく、たいまつは必要なかった。
だが、ここからは俺と理乃だけで進むことになる。
「じゃあ俺はここで引き返すぜ」
「ああ、わかってる。気をつけて」
デルマは時期族長である。族長と言うのは村を纏めるリーダーのようなもので、ノーム族全体で見ると十数人存在しているらしい。
それらの族長のさらに上に立つのが王であり、王は地下世界の空洞全てと繋がっている大空洞に城を構え、そこで暮らしているのだと言う。
ともなくデルマは、時期族長である身として、スプリガンに襲われる危険に瀕している村に戻り、村人たちを統率しなくてはならないのだ。
それを事前に教えられていた俺と理乃は、彼を留めることなく送り出した。
「ヨイチ、リノを守れよ。リノも、ヨイチが馬鹿しないように見張っててくれ。こんなこと言って不安にさせたくは無いんだが、村を危機から救えるかどうかはお前ら二人に掛かってる。頼んだぞ」
そういい残してデルマは去って言った。俺と理乃はこれから〈深獄〉の中間地点よりさらに奥。デルマでさえ足を踏み入れたことの無い空間に二人きりで踏み入ることになる。
五時間後、彼が俺たちを迎えに来るそのときまでに、何とか村を危機から救える何かを手に入れて、俺たちもこの場所に戻ってこなくてはならない。
視界は確保できているため、迷うことはなさそうだが、それでも気は抜けない。持ってきている食料はあとわずか。もし迷うことがあり、デルマと合流できないとそのまま飢え死にしてしまうことも考えられる。
食事休憩を終えた俺と理乃は、デルマがいなくなった寂しさを紛らわそうと、どちらともなく手を繋いだ。
「理乃、俺は君を守るから。だから、君は俺を守ってくれ」
「……うん……っ!」
軽く抱きしめあい、それから名残惜しくも互いの身体を離す。
互いに武器を握り、集中する。
二人の足音だけが怪しく響く中、俺たちは発光する岩の明かりを頼りに進んでいく……。
―――
理乃は代一の一歩後ろを歩いている。彼の背中を見ていると、何か安心感を感じてしまう。
だが理乃はもう、彼に守られるだけの存在ではなかった。
雨笠理乃amagasa rino
レベル:22
スキル:【白魔術】―〈ヒール〉〈癒す光〉〈ディヴァージョン〉〈ホワイト・エンド〉〈ヒーリング・バースト〉
武器 :【上質な鋼のダガー+5】
防具 :
装身具:【魔力の腕輪】
これが今の理乃のステータスである。〈合体スライム〉に止めをさしたことにより、レベルは既に代一よりも高い。
スキル、呪文の説明は以下の通りである。
【白魔術】
□聖なる魔法へと続く魔術。使用者は呪いの効果を弾く。五種の呪文を覚える。相手の疲労度、怪我部位を見極めることが出来る。
〈ヒール〉
■対象者の疲労を取り除く。
〈癒す光〉
■対象者の怪我を治す。
〈ディヴァージョン〉
■痛みを薄れさせる。
〈ホワイト・エンド〉
■聖なる白炎で敵を焼き尽くす。発動まで時間が掛かる。
〈ヒーリング・バースト〉
■対象者の疲労、怪我を回復させる。回復させた割合に応じたダメージを敵に与える。
【白魔術】のスキルで覚えることが可能となっている五種の魔法を、梨乃は既に覚えている。
この中で使っていない呪文は、スライムとの戦闘の末に覚えることの出来た〈ヒーリング・バースト〉だけであるが、これはまだ使ったことが無い。
〈ヒール〉や〈癒す光〉は代一の身体を回復させるのに役立っているし、〈ホワイト・エンド〉は合体スライムとの戦いで大いに役立った。〈ディヴァージョン〉は理乃が試しに自分に使用しただけだが、これもタイミングが合えば強力な呪文である。
レベルアップしたおかげで理乃の魔力は各段に上昇している。【魔力の腕輪】の魔力回復速度上昇効果も相まって、使える呪文の数は飛躍的に増え、戦闘のバリエーションも増えた。
以前までは〈ヒール〉一回分の魔力を回復させるのに、一分ほどの時間が必要だった。それが五秒で回復するようになったのだから、【魔力の腕輪】の効果は相当である。
理乃も強くなったが、代一はそれ以上に強くなっていた。そして理乃は、そんな彼を癒す力が自分にあることを嬉しく思っていた。
そしてここから先は〈深獄〉の最下層地帯。さらに激化するであろう先頭の中で、代一をサポートし、時には彼の変わりに敵を倒すのが理乃の役目である。
(絶対に……二人で生きて帰る……!)
理乃は密かに、覚悟を決めたのだった。
――――
デルマは一人、村に向かって急いでいた。
代一と理乃の二人は戦いのたびに強くなり、その二人が相手となると、今ではデルマでさえ歯が立たないだろう。
初めてであったときは木の枝を振り回していた少年を思い出し、デルマはふっと笑った。
魔物との戦闘を何度かこなした後、村に到着する。
村人たちは彼の期間を待ち望んでいたようで、トンネルの市口付近で待機していた。
「状況は?」
デルマは村の男の一人に聞く。
「スプリガンが数匹、地上の裏に現れたみたいだ! まだ〈千年樹〉の姿は見えないが……」
そこに言葉を挟んでくる者が一人。
「それも時間の問題だということだ。デルマ、あの人間たちは本当に大丈夫なのか?」
ウルクである。
彼はデルマの弟だが、二人の仲は昔からあまりよくなかった。ウルクは一人で閉じこもり、周りを遠ざける性格をしているのだが、デルマはその逆で、周りとのつながりを何よりも大切なものだと思っていた。
ウルクはただ不器用なだけなのだということを、デルマは知っている。彼は父である族長に育てられ、この村のことを誰よりも大切に思っている。
言葉数が少ないからそれを理解している者は少ない。だが、代一や理乃の武器を人間用に鍛えなおしたりと、その考え方は彼の行動によく現れている。
「あいつらのことは心配ない。きっと何とかしてくれる」
「はん……どうだかな」
「お前の武器が大いに役立ってた。ヨイチの奴なんか、それで〈深獄〉の魔物をばらばらに切り刻んでたぜ。流石お前の作った武器だな」
「……そうか」
無愛想にしているウルクだが、兄であるデルマには彼が若干だが喜んでいるのだということがわかっていた。
鍛冶師として、自分の作った武器が村の危機を救う英雄の力になっていると知り、喜んでいるのだろう。
ウルクとの会話を終えたデルマは村人たちに言う。
「俺は五時間後、ヨイチたちを迎えいく。二人が戻ってきたとき、そのときが戦いの始まりだ。各自、準備に移れ!」
「「「――おおっ!!!」」」
男たちに命令を出したデルマは、女たちの元に行き、彼女らを族長の住処である〈石の館〉へと集める。
村に危険が訪れたとき、戦えない女や子供はここに集められるのだ。
妻であるレオリアと娘のエルナの姿を見つけ、デルマは二人の元へと歩く。
「あなた!」
レオリアが駆け寄ってくる。
その後ろからエルナも走ってきたが、彼女は途中で転びそうになってしまった。
そそっかしい娘の体をデルマは抱き上げる。
「ただいま、レオリア、エルナ」
「あなた、大丈夫? 怪我はない?」
「お父さん、大丈夫ー?」
心配そうに言う二人に、デルマは大丈夫だ、心配するなと声を掛ける。
「ヨイチさんとリノちゃんは、本当に大丈夫なの?」
「ああ、あいつらなら心配はいらねえ。俺たちは俺たちで出来ることをやる。心配するな。またすぐにでも、飽き飽きするくらいの平和がやってくるさ……!」
二人の身体を抱きしめて、デルマは言う。
そして覚悟を固めた。村を、家族を守るために、命を掛けて戦うという覚悟を。




