第十六話
〈合体スライム〉を倒したことにより、俺のステータスは大きく変化した。
荻野代一ogino yoiti
レベル:21(↑6)
スキル:【見習い剣術】⇒【達人剣術】
■〈二連斬り〉⇒〈四連斬り〉
■〈回転斬り〉⇒〈大炎陣〉
■〈見切り〉 ⇒〈心眼〉
―〈大岩斬り〉〈叢雨突き〉
武器 :【上質な鋼のロングソード+5】
防具 :【闇紅布のクロスアーマー】
:【黒鉄のカイトシールド】
装身具:【守護者のアミュレット】
:【知識の指輪】
【見習い剣術】が【達人剣術】に変化している。スキルの説明を開いて見る。
【達人剣術】
□【見習い剣術】の五種の技を全て使用することで発現。覚えていた五種の技を進化させ、新たに第六の技を覚える。剣の扱いが飛躍的に上手くなる。
次に進化したそれぞれの技についても、説明を表示する。
〈四連斬り〉
■四連続で敵を斬る。
〈大炎陣〉
■自分を軸に、回転しながら周囲の敵を斬る。炎を纏わせた剣での攻撃。
〈心眼〉
■心の目で相手の攻撃を見切る。
スライムとの戦いで感じた剣の技術の上昇。それは【見習い剣術】が【達人剣術】に進化したために起こった現象であるらしい。
そのおかげで俺は生き残れたわけだが、かなり運が良かった。もし〈叢雨突き〉を発動していなければスキルが進化することは無く、俺は触手に貫かれていただろうから。
進化したそれぞれの技も、かなり強力になっている。
実際に使ってみない限り詳しいことはわからないが、戦力の増強は著しいだろう。
レベルも6上がっている。俺でこれなのだから、実際にスライムに止めをさした理乃はどれだけレベルが上がっているのだろうか。
「レベルが6も上がってたよ。理乃は?」
「ふふん……私は、10も上がった……これで代一より強いかも……!」
「あはは。理乃のおかげで勝てたんだからね。相手によってはもう理乃のほうが強いよ!」
俺たちが話していると、デルマが訝しげな視線をこちらに向けてくる。
「おいおい、レベルってのは何だ? 何の話をしてる?」
実はこの世界にはレベルと言う概念はなく、また俺たちのように自分のステータスを見ることさえ敵わないのである。
俺たちがスキルとして使用している魔術や剣技は、この世界では全て自分の力だけで修得することになる。
レベルが上がらないから急激に身体能力が上がると言うこともない。
それを聞くと俺たちがとてもつもなく凄いように思えるが、俺たちとこの世界の人たちでは体の基本が違うらしく、レベルアップしなくてもただ鍛えるだけでこの世界の人たちはとんでもなく強くなる。
デルマなんかもそのいい例で、ノーム族が元々力持ちの種族であると言うことも相まって、彼はかなりの怪力の持ち主なのである。
自分の身体と同じくらいの大きさの斧を軽々振り回す様子からその力をとてつもなさは見て取れる。
理乃が【白魔術】を扱うことを彼に教えたときは驚かれた。
俺たちは気づけば突然ノーム領のあの森にいた、ということを彼にも説明しているのだからなおさらだった。
この世界では魔術を扱える人はそう多くないらしい。基本となる魔力を持ち合わせている人がまず少ないのだそうだ。
まあデルマには、なぜだか使い方を知っていて、そのおかげで生きて森から出ることが出来た、と言う説明でごまかしたのだが。
「な、なんでもないよ」
「何か隠してやがるな……ま、言いたくないならそれでもいいぜ。お前らが悪い奴じゃねえってのはわかるからよ」
「……ありがとう」
隠し事をするのは気が乗らないのだから、かといってステータスやレベルのことを彼に説明しても、あまりに現実離れした内容に逆に混乱させてしまうことになるだろう。
「気にすんな。それより気を引き締めていくぞ。ここからが本番だ。あと少しで中間地点につくが、湧き出る魔物の量は今までの比じゃねえからな」
「わかったよ。……注意していこう」
「……油断大敵」
俺と理乃はデルマの言葉に深く頷く。
そう、ここは魔物たちの巣くう〈深獄〉であるのだ。もしデルマに説明を行うとしても、それはここから生きて帰ったときにするのがいいと思う。それまでは俺たちのことをただ信じてもらうしかない。まあ裏切る気なんて毛頭無いし、彼も信じてくれているから心配はないと思うが。
デルマの言ったとおり、中間地点にたどり着くまでにはそれなりの数の魔物と戦うことになった。
途中で合体スライムとの何度か戦うことになったのだが、理乃が止めをさした超巨大スライムほどの大きさではなく、三匹程度のスライムが集まったくらいのものだった。
その場合は俺が剣だけで倒した。倒し方は至って簡単で、再生できなくなる大きさになるまで剣で切り刻んだのだ。
スキルを使用したと言うわけでもなく、単純な剣技のみでそれを行った。デルマは唖然として俺がスライムを無に返す光景を眺めていたし、理乃は目を輝かせながら俺のことを褒めてくれた。
まあこれは【達人剣術】の恩恵なのだが、それでも強くなると言うのは悪くない気分である。
戦いを繰り返すうちに、俺はデルマに一つのアドバイスをされた。それは盾のことである。
俺は自分の未熟さゆえに盾を装備していたのだが、今の俺は剣一本で敵を切り伏せることが出来るので、正直盾は邪魔なだけだったし、それに盾というのは何だか俺に向いていないような気がしていた。
彼もその点には気づいており、盾は戦闘の邪魔にしかなっていないと俺に指摘してきたのだ。
なので盾はおいていくことにする。帰りもこの道を通るのでそのときに回収すればいいのだ。
グリルスも何体か出現し、その上位種であるという〈レバノグリルス〉も出現した。
レバノグリルスはグリルスを一回り大きくしただけで、ほとんどはグリルスのときと同じ姿だったが、そのスピードたるやグリルスとは比べ物にもならなかった。
もし【見習い剣術】のままだったら、俺は簡単に殺されてしまっていただろう。そう思えるほどに、レバノグリルスは強かった。
そんな強敵のせいで少し困った事態に陥ることになった。何と、戦いに集中しすぎたデルマが道順を忘れてしまったのである。〈深獄〉はただでさえ複雑で、正しい道のほかにも横道などが数多く存在しているため、一度でも道を見失うと正しい道を進むのは不可能に近い。
道がわからないとなると、中間地点に到達するのは難しいかと思われる。
「面目ねぇ……」
「仕方ないよ、気を抜けば死んじゃうくらいの戦いだっただろ。デルマは悪くないって」
「……うん、悪くない」
「お前ら……」
落ち込んでいるデルマを俺と理乃が慰める。彼は感動したように俺たちの方を見てきたが、おっさん顔の彼にそんな顔をされても寒気がするばかりである……というのはまあ嘘で、仲間としての絆が深まりつつあるんだなと少し嬉しく思ったのだった。
「道がわからないとなると、わかる道に出るまで適当に進むしかないね」
俺の言葉に理乃とデルマは頷く。だが、適当にと言っても選択肢は複数存在している。
どの道を選択するかにより俺たちの運命は大きく変わることになるだろう。もしかするとそのまま彷徨い続ける……なんてことにもなりかねない。
だからこそ、どの道を選ぶか、これが非常に重要だった。
「この中で運の良い人はいる?」
俺の質問にデルマは首を振って否定する。
「……俺はだめだ。運となるとからっきしでな、賭け事でも負けっぱなし。村の奴らにはいいカモだって馬鹿にされる、その程度のもんさ」
なるほど。デルマはだめそうである。
理乃の方を見る。彼女もあまり自信がないようである
「……福引だっとティッシュしか当たらない……」
悔しいそうに呟く理乃。
彼女も運はなさそうである。まあ理乃ほどの美少女に生まれてくることってどれだけ運が合ってもそう簡単にはいかなそうだし、その美しさには福引の一等賞なんか目にならないくらいの価値があるんだということを一時間くらい語りたかったが、そうすると理乃は恥ずかしがりつつ俺に甘えてくるだろうし、デルマはいちゃつくんじゃねえと怒り出すだろう。
「――となるとここは俺の出番だね」
「……お前、大丈夫なのか?」
俺が自信満々に言うと、デルマは不安そうに表情をゆがめる。
「俺はこれでもクラス対抗ジャンケン大会で最優秀選手賞に選出されるほどの強運の持ち主なんだよ」
「……なんだそりゃ、それって凄いのか?」
ジャンケンのことを知らないデルマは俺の凄さを理解できないでいるようだった。
そんな彼に目を輝かせた理乃が力説する。
「それは…っ! とても凄いこと……っ!」
「そう、なのか……?」
リノがそういうのならそうなのかもな、とデルマは俺の幸運を信じてくれた。
そして俺に道を選ぶ権利が与えられたのである。二人には秘密にしていることなのだが、実は俺は重度の方向音痴だ。どれだけ詳しい地図を持っていても絶対に道に迷ってしまう。だが開き直って地図を捨て、勘だけを頼りに進むと絶対に目的地にたどり着いてしまうのだ。
「……よし。あの道に決めた」
俺はたいまつの光に照らし出された一本の道を指差した。デルマは黙って俺に従い、理乃は俺のことを完全に信じているようで、疑う様子さえ見せずに俺の後に続いて歩いてくる。
ところがその道は行き止まりであった。
ここで思い出されるのは〈深獄〉の特徴である。魔物が潜んでいるというのもそうだが、それでもノームたちがここを訪れるのは命を掛けるに値するほどの価値を持つ宝の数々がここに眠っているからである。
「こ、こりゃあ……!! ヨイチの幸運は本当だったってことかよ……っ!!」
とデルマが興奮に息を荒くして言う。
「代一……流石……!!」
「……別に宝を探したわけじゃないんだけど、これはこれでありだよね」
そこにあったのは宝箱が三つと、溢れんばかりに並べられている宝石の山である。
ノームの先祖が残した遺産を、俺を見つけ出してしまったのだった。




