第十三話
デルマは地面にたいまつを突き刺す。その周囲で戦闘を行うつもりであるようだ。
グリルスの姿がはっきり見えるにつれ、俺は背筋がざわつくのを感じていた。
見間違いでなければ、グリルスには両翼があるが、完全な鳥ではなくて、頭のある部分に平らな顔がひっつている。
その顔がまるで人間そっくりなのである。ノームの顔にも似ている。つまるところ、何らかの人間的生物の顔がモンスターであるはずのグリルスの首から上にあるのだった。
「こいつは悪魔系の魔物だっ! 死んだノームの肉体に憑依しやがる。全く胸糞悪いぜ……!」
デルマが斧を振るう。グリルスはぴょんと飛び跳ねてそれを交わした。彼の一撃に鋭さを目撃したためか、さらに後ろに後退し、たいまつの光の及ばないところまで下がっている。
「言葉は喋れねえが知能は人間並み。どんな卑怯な手でくるかわからねえからな、二人とも気をつけろっ!!」
デルマの言葉に気を引き締める。
たいまつから離れたところにいるグリルスの姿は曖昧なシルエットとしてしか俺の目に映らない。
スキルを試して見たいとも思ったが、俺の持つ【見習い剣術】の剣技はどれも接近技ばかりなので、距離をとられると使えない。
ふっ、とたいまつの火が揺れる。その瞬間、まるで弾丸のような速さでグリルスが突進を繰り出してきた。
デルマは斧を前に出してその攻撃を受け止める。金属と金属のぶつかり合う、ガキン、と言う音が響き渡る。
顔は異常でも、グリルスの身体は大きめな鳥のようだったはず。いったいどこにそんな武器を持っているというのか。
よく目を凝らして見てみる。と、羽毛の間に光る何かが隠されているのが見えた。あれは多分、鋭い爪だ。デルマの斧と打ち合えているところを見ると、相当な強度を持っているらしい。
それと、先ほどまでの動きから、グリルスは相当に素早い魔物であると言うことがわかった。
「デルマ、下がってっ!」
とすると、パワーファイターでスピードに掛けるデルマとは愛称が悪い。俺が戦うのが一番勝率が高そうだった。
「大丈夫か、こいつは強いぜ?」
「任せて。理乃、もしものときは回復よろしくね」
「……わかった!」
まあ今回の戦闘では俺は傷一つ負うつもりはない。
デルマを下がらせ、俺が前に出る。相手が代わったからか、グリルスは喉を鳴らしてこちらを威嚇してきた。
「さあ、来いよ」
見下すようにグリルスに言う。
頭がいいというのは本当のことのようで、挑発的な俺の態度を感じ取ったのか、グリルスは身体をふるふると震わせて、一度大きく吠えた。次の瞬間、脅威の突進が繰り出される。
俺は技の一つである〈見切り〉を発動させる。
〈深獄〉へ行く前に技の事前検証は済ませてある。この技は、発動させてから数秒の間、自分に向けられる攻撃を予測し、それを回避することが出来るのだ。
グリルスの攻撃がまるでスローモーションのように感じられたし、どう身体を動かせば安全に回避できるかもわかった。
俺は斜めに踏み出して、グリルスの突進を避ける。生気を失った白濁した瞳が俺を睨みつけ、憎々しげに喉を鳴らす。
だが、これで終わりだ。俺はすれ違い様に〈回転斬り〉を発動させていた。自分の周囲を剣で払うだけの単調なわざだが、今のような状況では非常に強力な技となる。
流れるようにして振るわれた刃は、突進の勢いを殺しきれていないグリルスの身体に吸い込まれるようにして食い込み、そしてそれを容易く切断した。
ぼとり、と二つに分かれたグリルスが地面に落ちる。
不思議なことに剣身には一滴の血液さえ付着していない。
「見事じゃねえか!! 悪魔系には心臓も血もないから殺すのに苦労するんだぜ。失血死もしないし、これと言った急所も存在しねぇから、今みたいに真っ二つに切断するくらいしねえと死なねえんだよ」
「こんなところじゃ負けてやられないだろう?」
「はっ、違いねえな」
剣を鞘におさめて理乃を見る。
「……代一、強かった……!」
彼女はそういいながら近づいてきて、俺に〈ヒール〉を掛ける。見るみるうちに今の戦闘で溜まった疲れが消え去っていく。
「理乃を守るって決めたからね。どんなときでも、どんな場所でも、俺が君の隣で君の事を守るんだ。そのためなら、俺はまだまだ強くなれるよ」
「……代一っ!」
感動したように目を潤ませた理乃が俺の胸に飛び込んでこようとする。それを制したのはデルマだった。
「おいおいお二人さん、ここは超危険地帯〈深獄〉だぜ。いちゃつくのは生きて帰ってからにしてくれよ」
その言葉を聞いて理乃はしゅんとした様子でうなだれた。
俺は何とか彼女を慰めようと、彼女の頭を優しく撫でた。
それだけでいくらか気分が晴れたようで、理乃は見とれてしまうような笑みを浮かべた。
そしてさらに先へと進む。
デルマの話では、グリルスは強力な部類の魔物であるらしいのだが、〈深獄〉の中間地点ではそれと同等かそれ以上の魔物がたくさん存在しているらしい。
気を引き締めていこう。




