第十二話
荻野代一ogino yoiti
レベル:13
スキル:【見習い剣術】―〈二連斬り〉〈回転斬り〉〈見切り〉〈大岩斬り〉
武器 :【上質な鋼のロングソード+5】
防具 :【闇紅布のクロスアーマー】
:【黒鉄のカイトシールド】
装身具:【守護者のアミュレット】
:【知識の指輪】
これが現在の俺のステータスである。レベルに変化は無いが、装備品が大きく変化している。
新しい装備の説明は以下の通りである。
【上質な鋼のロングソード+5】
■上質な鋼をふんだんに使用した剣。斬る、突く、叩くと言った攻撃を繰り出すことができる。
【闇紅布のクロスアーマー】
■強力な耐火性を持つ布を用いて作られた防具。
【黒鉄のカイトシールド】
■漆黒の盾。目立つ特徴は無いが、どんな攻撃にも対応できる防御力を備えもつ。
【知識の指輪】
■魔物の知識が宿った指輪。魔物の頭上に〈名前〉が表示される。
俺は族長の予言に従い、英雄としてノーム族を滅ぼそうとする悪に立ち向かうことを決めた。
次期族長であるデルマから【闇紅布のクロスアーマー】と【黒鉄のカイトシールド】それから【知識の指輪】を受け取り、〈深獄〉での戦闘に対応できる装備を整えた。
【上質な鋼のロングソード】に関しては、地下世界の入り口で俺と理乃から武器を取っていったノーム(名前はクラウ。デルマの弟であるらしい)が、俺たちに使い易いようにそれぞれ作り直してくれてそれを得ることが出来た。
俺は今、デルマの先導に従い複雑な地下世界のトンネルを進んでいる。右に左にと彼は迷わず進んでいく。
まだ魔物は出現しないらしい。デルマは〈深獄〉の中間地点まで俺を案内した後、一度村へと戻ることになっている。
そして俺の後ろにぴったりとついて離れない一人の少女。理乃の姿が俺のすぐ傍にある。
俺の告白に彼女は、俺の予想もしなかった言葉を返してきた。
『……私も代一が好き。代一が私のことを守ってくれるなら、それは私にとってとても嬉しいこと……だけど、私は欲張りだからそれだけじゃ足りない……』
そう言って理乃は、涙を浮かべた瞳を俺に向け、微笑んだのだ。
『私の命を貴方にあげます……だから貴方の命を私にください。代一が傷ついたら、私が治してあげる。辛いときは、一緒に苦しむから。だから隣にいさせてください。私も代一が好きだから……だからずっと一緒にいるの。そう決めたんだから……!』
近づいてくる理乃の顔、肌に掛かる吐息、重なった唇の感触を、今でも俺ははっきりと覚えている。
最初は理乃を置いて〈深獄〉を訪れるつもりだった。そこにどんな危険が待っているかわからない以上、理乃を守りながら戦うことにはデメリットしかないと判断したからである。
けれど、それは間違いだった。理乃の存在は俺を奮い立たせる。どんな困難にも打ち勝てる力を俺に与えてくれる。絶対に守ってみせると誓った以上、彼女の傍を離れない方がいいのかもしれないと、今では思っている。
「見ろ。この大穴が〈深獄〉の入り口だ。ここを下りれば魔物の巣窟……くれぐれも注意を怠るな」
「わかってる。理乃を危険な目に合わせないためにも、油断は絶対にしないさ」
「……ったく、変な自信つけやがってよ」
デルマは金属の杭を一本取り出し、それを近くの地面に打ち付ける。しっかりと食い込んだところでそれが外れないか確認をし、そしてロープをそこにくくりつけた。
「これで下る。俺が最初に行くから、お前らは後から来い。下についたら合図を送る」
デルマはそう言うとロープを身体にくくりつけて大穴を下り始めた。何の躊躇も無く底の見えない暗闇へと身を沈める彼に、俺は尊敬の念さえ覚えた。
「理乃、高いところは大丈夫?」
「……苦手じゃない。私と煙は高いところが好き」
「あはは、可愛いな理乃は」
普段の理乃は少し天然が入っているようで、ところどころに意味不明な発言が見受けられる。
だがそんなところも愛おしく思えるのだから、俺はもう彼女に毒されてしまっているのだろう。理乃と言う甘美な毒に、全身余すところ無く侵されているのである。
「もう……からかわないで……っ」
「からかってないよ。理乃は本当に可愛いんだから」
「……っ!?」
長い黒髪を撫でながら耳元で囁くと、理乃は顔を真赤にさせて恥ずかしがる。
普段の彼女も素敵だが、照れたときに見せる表情もたまらない。何と言うか、全て忘れて彼女と二人きり、ずっと彼女のことを見ていたいとさえ思える。
「――おい、いいぞ!」
おっさん声に現実に引き戻される。
やると決めた以上、もう覚悟は固まっているのだが、ノームの件を解決したら理乃と気ままな旅でもしたい。
誰にも邪魔されることなく二人きり……なんて最高だ。
「理乃、行ける?」
「……大丈夫」
「気をつけてね」
俺が最初に行っても良かったのだが、理乃をこの場に一人きりにさせるのは何だか嫌だった。〈深獄〉以外にも魔物がいるかもしれないのだから、何事も最善の洗濯を持って行いたい。
理乃はロープを身体に巻きつけてするすると下りていく。案外運動神経がいいようで、何の苦も無く彼女は下に到着した。
そして今度は俺の番だ。ロープをしっかりと握る。そして一歩目を踏み出し、下降を始める。
特に問題なく半分の距離を下り終えた。そこでふと思う。デルマは下から俺の下りてくる様子を眺めているのだろう。
とすると、もちろん理乃が下りてくるときも同じように眺めていたはず。理乃の服装はスカートではなくズボンだから、下着が見えるようなことはないが、俺でさえ彼女を下から見上げたことは無い。
くそ……あのむっつりおっさんめ。こうなることを計算した上で自分が先に行ったと言うのか。
「許せな――うわっ!?」
デルマの対する怒りの余り、思わず手がすべりそのまま落下してしまった。幸いなことに半分以上の距離を下っていたことから、尻を強く打つだけで済んだのだが、理乃には心配されデルマには笑われてしまった。
おい、お前が原因なんだぞおっさん。まったく、美人な嫁に可愛い娘がいるくせに、理乃を下から覗き見るなんて……!
「どうしたの……?」
「ああ理乃。またこう言った機会があったら俺が先に下りることにするよ」
「別に、いいけど……」
「デルマ、あんたは最後だからな」
「はぁ?」
何のことだといわんばかりに首を傾げるデルマ。なるほど、わからないふりですか。このむっつりスケベめ……!
「何だかわからんが、ここからが〈深獄〉だ。気を抜くなよ」
デルマは背から斧を取って両手で握った。
俺も腰から【上質な鋼のロングソード】を抜く。理乃もクラウから渡されていた【上質な鋼のダガー】を構えつつ、俺の後ろに続く。
〈深獄〉まで来ると、光る土などは全く存在せず、デルマの持つたいまつの光だけを頼りに進んでいくことになる。
光る土の秘密についてもデルマに聞いた。すると、ノーム族に伝わる秘術により土を光らせることが出来る、との返答を得られた。
原理は全くわからないが、ここの土を光らせることはできないのだろうか。
そのことを彼に告げると、
「〈深獄〉の土は魔力を多量に含んでるからな。それを光らせようとすると、それ以上に魔力が必要となってくる。俺一人じゃ到底無理だぜ」
「なるほどね……」
中々簡単にはいかないらしい。
となると、先に進むことさえ一苦労だろう。そんな状態で〈深獄〉を探索することなど出来るのだろうか。
「ま、中間地点に行けば明かりの問題は解決されるからな。それまで辛抱してろよ」
と、デルマは自信満々に言う。
今は彼の言葉を信じるしかなさそうだ。
と言うか、〈深獄〉に入ってから理乃の口数が極端に少なくなっている。
「理乃……もしかして暗いの怖い?」
「っ!?……わ、私は、別に……!」
「怖くないの?」
「怖くなく……なくなく……ない」
つまり怖いらしい。
まあわざわざ言葉にして聞かなくても、繋がれた手の震え具合から予想することは容易だったのだが。
好きになると、相手を困らせてみたいな、と言う感情も生まれてくるのである。
「馬鹿話はそこまでだ!――敵が来るぞ!」
デルマが叫び、俺と理乃も戦闘態勢に入る。
装備している【知識の指輪】の効果で、たいまつの光によりぼんやりと浮かび上がるモンスターのシルエット、その頭上部分に文字が表示されているのが見える。
――〈グリルス〉――
距離が近くなるにつれ、その姿がはっきりとしていく。
大きさはデルマと同じ程度だ。
鳥のような羽を持っていて、それをばたばたと羽ばたかせている。
しかし、羽を持っている割には空を飛ばず、地面を歩いてきている。
歩く鳥、なのだろうか。
「こいつは厄介だぜ……!」
デルマが憎憎しげに呟く。
『グオォォォ!!』
グリルスが吼え、それが戦闘開始の合図となった。




