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幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


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第34話 洞窟の研究所

 洞窟の入り口には、見張りらしいゴブリンが一体、槍を手に立っていた。


【サイレンス】


 優花が、小声で詠唱する。淡い闇色の光が、ゴブリンの体を含めた周囲を包んだ。


「――え?」


 馨が、思わず声を漏らしかけて口を噤む。あまりにあっさりとした光景だった。


「音を消したの。これで、あいつが叫んでも誰にも聞こえない」


 優花が、事も無げに説明する。


「そういえば、そんな魔法が闇属性にあったね」

「咄嗟にだと思い出せないけど、こうして使っていれば、自然と身につくと思うの」


 優花の感覚はTRPGのプレイヤーに近かった。

 TRPGでは宣言しなければ、行動することは出来ない。

 これがコンピューターのRPGであれば、コマンドの選択画面が出てくるのだろうが、現実はそうではない。

 自分が何を使えて、この場面では何が適切なのか。それは慣れることで、自然と引き出せるようになっていく。そうした訓練を兼ねた行動だった。


「行くわよ」


 闇に紛れた優花が、瞬く間にゴブリンの背後へと回り込んだ。振り上げた槍の一撃が、声にならない断末魔とともに、ゴブリンを沈黙させる。


「あっさりだな」


 馨が拍子抜けしたように呟いた。


「ゴブリンの見張りなんて、こんなものよ。奇襲さえ決まればね」


 優花はそう言うと、倒れたゴブリンの死体を、手早く物陰に隠した。もし他に見張りがいても、すぐには異変に気付かれないようにするためだった。


「馨、サーチは?」

「反応、変化なし。大丈夫」


 馨がサーチの魔法で周囲を確認しながら頷く。

 三人は、顔を見合わせて頷き合う。

 そのまま洞窟の奥へと足を進めようとする馨の肩を、優花が掴んで止めた。


「中には敵がいるんでしょ。念のため、魔法でステータスを底上げしてからにしましょう」

「あ、そうだね」


 戦いの前に支援魔法で実力を底上げするのは常套手段である。


【ブレス】

【レジスト・マジック】

【アンチポイズン】


 三つの魔法を使い、その後洞窟へと入っていった。


        *


 洞窟の奥へと進むと、奥はそんなに深くなかった。すぐに広い場所に出る。そこには簡素な祭壇と、無数の器具が並ぶ空間が広がっていた。

 その中心に、ローブを纏った男が立っていた。そして、五体のゴブリンと、ダークエルフの女がひとり。

 さらに奥に小部屋があり、その中には女性が数名いるのが、サーチの魔法でわかった。


「――客とは、珍しいな」


 男は驚いた様子もなく、こちらを一瞥した。


「村から色々盗むのをやめてもらえるかな?」


 馨はダメもとで言ってみた。


「はいそうですねと頷くとでも思っているのか?」


 ダークエルフの女が憐憫のまなざしを向けてくる。


「あれ、俺、残念な子に見えてる?」

「そうね。馨はもう少し、交渉というのを覚えた方がいいわね」


 陽菜も幼馴染に憐憫の感情を向けた。


「陽菜もそう見てるんだ」

「大丈夫。私は何があっても馨の味方だから」


 優花だけは違う反応だった。陽菜はそれを見て、しまったと思ったが後の祭り。少しだけ軌道修正をする。


「でも、ほら。これから治していけばいいじゃない」


 そうフォローすると、馨の表情が少し明るくなった。

 気を取り直しての仕切り直し。


「盗んだ物を返せ。それと、奥の人たちも解放しろ」


 そう言われた男は高笑いをし始めた。その瞳には狂気の光が宿る。


「フハハハハハ。我が名はドレイク。ラシェイナ様の忠実なるしもべ。我がラボに侵入し、実験体を解放しろなどという暴言。生かしては返さぬ!!」


 芝居がかった態度。ダークエルフの女は、こちらにも憐憫のまなざしを向けた。


「これがなければいいんだけど……」


 その台詞に、若干の同情を感じる陽菜。

 しかし、すぐに気持ちを切り替える。相手が戦闘態勢に入ったからだ。


「手荒なことは、したくないんだが――」


 馨は左の拳を体の正面に構えながら、静かに前へ出た。


【ゴッドフィスト】


 問答無用の一撃だった。神の力を纏った拳が、油断していたドレイクの顔面に直撃する。

 悲鳴を上げる間もなく、ドレイクの体は、あっけなく崩れ落ちた。


「――たった一撃で」


 傍らのダークエルフ――シェイラが、驚愕に目を見開いた。


「小僧、ただ者じゃないわね」


 シェイラの手に、闇色の魔力が渦巻き始める。


【デスマーク】


 紫紺の光が、馨へと放たれた。

 だが、その一撃は、馨の体に届く直前で、淡い光の膜に阻まれた。

 デスマークはレベル6の闇属性魔法。対象の見える場所(首筋や手首など)に、うずくまった羊の刻印を浮かび上がらせる。羊の首に巻かれた縄が日を追うごとに食い込んでいき、最期には絶命させるという魔法だ。

 即死ではないところが、非常に厭らしく、闇属性が嫌われる原因の一つにもなっている。


(レジスト・マジックのおかげか)


 事前にかけていた防御魔法が、辛うじて効果を発揮していた。それでも、皮膚がぴりつくような感覚が、馨の全身を這った。


「今のをレジストするのか。貴様ら、何者だ?」


 シェイラが、忌々しげに舌打ちする。

 自分のレベルは具体的にはわからないものの、かなりの実力者であると自負している。その魔法がレジストされたとあっては、相手の馨も相当の実力者だと認めるしかなかった。


「なら――」

「――もう、そこまでよ」


 シェイラの言葉を遮るように、優花の声が響いた。

 次の瞬間、優花の輪郭が揺らいだ。人間の姿が崩れ、鱗に覆われた蛇の下半身が現れる。


「――ラミア!!」


 シェイラが、驚愕に目を見開いた。

 答える間もなく、優花の姿が槍を構え、目にも留まらぬ速さでシェイラへと迫った。


「終わりよ!」


 全力の一撃が、シェイラの胴を捉える。抵抗する間もなく、その体は槍で貫かれ、体をくの字に曲げると、二度と動かなくなった。


        *


 シェイラがこの中では一番強く、他は相手にならなかった。

 直ぐに倒すと、洞窟内を物色する。

 奥の女性たちは疲弊しており、陽菜の魔法で回復させる。その後、彼女たちを休ませつつ、物色を継続した。


「――これ」


 陽菜が祭壇の近くに置かれていた、分厚い日誌を拾い上げた。

 馨たちは、それを読み進めながら、この研究所の全貌を把握していった。

 媚薬の改良実験。そして、寄生虫の開発。


「――女性たちには、媚薬だけが使われてたみたいだな」


 馨が、日誌の記述を確認しながら言った。


「【キュアポイズン】で、治療できるはずだ」


 馨は、鎖に繋がれた女性たちに、一人ずつ回復魔法をかけていった。淡い光が、彼女たちの怯えた表情を、少しずつ和らげていく。


「寄生虫の方は……」


 優花が、日誌のページをめくりながら続けた。


「人が死にすぎるから、動物実験に切り替えてたみたいね。村から盗んだ家畜、これに使われてたんだわ」

「そういう、ことか」


 馨は、小さく息を吐いた。


(――もし、寄生虫に感染した被害者がいたら)


 その場合、必要になるのは【キュアパラサイト】――プリーストレベル5相当の魔法だった。それを使えば、自分の実力が、周囲に知られてしまっていたかもしれない。


(――間に合った、ってことか)


 馨は、内心で胸を撫で下ろした。運が良かった、というだけの話ではあったが、それでも、この一線を越えずに済んだことに、密かな安堵を覚えた。


        *


 救出した女性たちを連れて村に戻り、事の顛末を、そのまま冒険者ギルドへと報告した。ただし、ダークエルフの女のことは秘密にして。なにせ、あの猛者を倒したとわかれば、その実力を知られることになる。

 ダークプリーストとラミアであることに繋がるような情報は、少しでも隠しておきたかったのだ。


 寄生虫の研究という、あまりにも異常な内容に、受付のロッテも、しばらく言葉を失っていた。


「――これは、上に報告しないと」


 ロッテの言葉に、馨たちは頷いた。


 村を脅かしていた泥棒の正体は、想像以上に根深い闇と繋がっていた。だが、その全貌が、まだ氷山の一角に過ぎないことを、この時の馨たちは、まだ知らなかった。


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