↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/33

第30話 毒杯

 ゴーストという情報だったが、実際に鑑定してみたらレブナントだった。

 ゴーストとレブナントの違いは知性。ゴーストとは会話が成立しないが、レブナントとは会話が成立する。

 そんあレブナントが聞いて欲しいというので、馨たちは一旦武器をおさめた。

 その様子を見て、レブナントが語り始める。


「――私たち、三人とも……妊娠した途端、殺されたんです」


 レブナントの一体が、震える声で語り始めた。


「奥様の、ご命令で……あの番頭に、毒を盛られて」

「子供ごと、殺されて……」


 他の二体も、掠れた声で続いた。恨みと悲しみが入り混じった、聞くに堪えない訴えだった。

 馨たちは、顔を見合わせた。誰の胸にも、同じ躊躇いが広がっていた。


(――これは、ただの討伐対象じゃない)


 目の前にいるのは、モンスターではない。無念のうちに命を絶たれ、それでもなお、この世に留まり続けている、かつての人間たちだった。


「――倒すのは、簡単だけど」


 優花が小さく呟いた。


「それだけでいいのかしら?」

「後味が悪いっていうか、悪いのは商会の方じゃない」


 陽菜も憤慨する。

 馨はしばらく考え込んだ。彼女たちは討伐対象なのか、と。

 それから、レブナントたちに向き直ると、静かに口を開いた。


「俺たちに、少し時間をくれないか」

「時間……?」

「あんたたちを殺した奴らを、ちゃんと裁く方法を考えたい。ただ倒すだけじゃ、あんたたちの無念は晴れないだろう」


 レブナントたちの虚ろな目に、初めて、かすかな光が宿った。


「それは是非とも。もはや、こんな身であり、冒険者の方たちに依頼などできませんし、お支払いする報酬も用意出来ませんが。よろしいのですか?」

「報酬は俺たちのターンアンデッドに抵抗しないでもらうだけでいい。保険金の受け取りを、報酬にするようなものだな」

「ホケンキン?」


 聞きなれぬ言葉に、レブナントが戸惑った。


「いや、なに。君らを除霊すれば、俺たちには金が入る。抵抗しないのであれば、仕事が楽に終わるからな」


 その言葉にレブナントたちは納得した。

 そんな会話をしていると、馨に妙案が浮かぶ。


「考え付いた。まず、この屋敷にある死体――前の番頭の遺体を使う」


 馨は自分の考えを、順を追って説明していった。

 レブナントたちは、その案を受け入れることになった。

 そして実行にうつる。


【クリエイトアンデッド】


 クリエイトアンデッドはガルドヴェイン固有の魔法である。死体から、任意のアンデッドモンスターを作り出し、使役する魔法である。

 使役の内容は、アンデッドモンスターの知的レベル次第である。ただし、アンデッドモンスターの種類は、術者のレベルによって変わってくる。術者のレベルよりも高いモンスターレベルの種族を作る場合、失敗の可能性が高くなるのだ。

 馨の呪文とともに、前番頭の遺体に、新たな魂が吹き込まれた。種族はレブナント。馨のレベルならば、絶対に失敗しない種族である。

 虚ろな目を開けたそれは、生前の記憶を鮮明に残したまま、馨の言葉に従順に頷いた。


「お前は、商会に戻れ。そして、繰り返し訴えるんだ。『毒殺しました』と」


 命令とともに、アンデッドと化した前番頭は、ふらふらとした足取りで屋敷を後にした。

 残る三体のレブナントは、その様子を見届けると、ゆっくりと馨たちの前で膝を崩した。


「これで……」

「もう、抗いません」

「私たちは、満足です」


 抵抗する素振りは、もはやなかった。

 が、馨はすぐにはターンアンデッドの魔法を使わない。

 異変にレブナントたちが気付く。


「ああ、私たちのために泣かないでください」

「ダークプリーストなのに、お優しい方」

「どうか、子供たちの元へと」


 肩を震わせ、泣いている馨に対し、レブナントたちが声を掛けた。

 それは、優花と陽菜も同じ。


「私が代わりにやるわ」

「馨は無理しないで」


 二人に言われると、馨は雑に涙をぬぐった。


「いいや、俺がやる。これを誰かに任せたら、一生後悔すると思うから」


 そう言うと、レブナントたちを見た。

 三人は頷く。


【ターンアンデッド】


 馨が静かに詠唱すると、淡い聖なる光が三体を包み込んだ。悲しみに満ちていたはずのその顔が、最期には、どこか安らいだ表情に変わっていた。


 三つの魂は、光とともに、静かに消えていった。


        *


 商会に、それは突然現れた。


「――毒殺、しました……!」


 青白い肌をした前番頭のアンデッドが、ふよふよと浮きながら店内に入り込み、声を張り上げる。


「奥様の、ご命令で……あの方々を、毒殺しました……!」


 店内は、瞬く間に阿鼻叫喚と化した。


「な、なんだこれは!? 死んだはずの……」


 新任の番頭が、腰を抜かしながら悲鳴を上げた。


 街中に、生きたアンデッドが出現したとなれば、放っておくわけにはいかない。すぐさま衛兵が駆けつけ、続いて、教会の神官たちも姿を見せた。エスタリオンに仕える者たちだった。真偽判定を得意とするその神官の一人が、アンデッドの訴える言葉に、静かに耳を傾ける。


「――嘘は、ついていないようですね」


 神官の一言が、決定打となった。

 衛兵は、すぐさま会頭とその妻の身柄を拘束し、厳しい取り調べを開始した。次々と明らかになる余罪。使用人への不当な扱い、複数の毒殺、証拠隠滅の数々――もはや、言い逃れのできる状況ではなかった。


 大商会は、あっという間に瓦解した。


        *


 それから数日後。


「――あら」


 冒険者ギルドの一角で、優花がふと足を止めた。


 そこには、かつてあの商会で応対した、感じの悪い番頭の姿があった。だが、今は見る影もなく、みすぼらしい格好で、日雇いの仕事を求める列に並んでいる。


「あ、番頭」


 馨が、小さく呟いた。前任者を心配する素振りすら見せなかった、あの冷たい態度を思い出す。


「因果、応報ってやつね」

「私たちには関係ないこと。ほっときましょう」


 優花がそう言うと、二人は頷いた。

 三人は、それ以上何も言わず、ただ静かにその場を後にした。


        *


 その夜、馨は、自分の半透明の板に、新たな数字が刻まれていることに気づいた。


 ――プリーストレベル6。


 三体のレブナントを送った経験が、確かな力となって、彼の中に積み重なっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。