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幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


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第27話 教えあい

「――そういえば、前から思ってたんだけど」


 薬草採取の合間、優花がふと切り出した。


「私たち、お互いの魔法の属性、教え合ってみない?」

「教え合う?」


 お互いの属性は既に伝えてある。

 馨は優花の提案の意図がわからなかった。


「馨くんは火と空間、私は水と闇。後天的に、師匠か魔導書があれば習得できるって話だったでしょ」


 馨は、少し考えてから頷いた。


「ああ、最初の時の説明に、そんなのがあったかも。でも、俺たちがそんなに簡単に魔法使えるようになったこと自体、実はかなり特殊なことだから、うまくいくのかなあ?」

「どういうこと?」


 馨は、資料室で読んだ内容を思い出しながら続けた。


「そもそも、この世界だと魔法使いやプリーストって、冒険者の中では不足気味らしい。プリーストは大抵、どこかの教団に所属した方が安全だから、独立して冒険者をやる人は少ない。魔法使いも、研究者気質の人が多くて、錬金術と組み合わせた付与魔法で稼ぐ方が、実入りが安定するんだ」

「なるほど。危険な戦闘職より、後方支援で食べていく方が理に適ってるってことね」

「それに、そもそも魔法を使える人自体が少ないらしい」


 馨が読んだ本には、そう書いてあった。


「エルフなら、ほぼ全員が何かしらの魔法を使えるらしいんだけど……そのエルフ自体が少ない。人間だと、誰でも使えるってわけでもないんだと」

「――つまり」


 優花が、少し神妙な顔になった。


「私たちがキャラメイクで簡単に魔法を使えるようになったのは、実はかなり優遇されてたってことね」

「そういうことになるな」


 この世界の人々にとって、魔法の適性は、望んで得られるものではない。生まれ持った才能か、あるいは血筋によるものが大半だという。それを、ポイントを払うだけで手に入れられた自分たちは、この世界の基準で言えば、破格の恩恵を受けていたことになる。


「そんな特殊な事情で取得した俺たちだから、師匠として教えられるのかっていうのがある。何せ、苦労して取得したわけじゃないから」

「そうね。勉強したわけじゃないから、どう教えていいのかわからないわね」


 それは、人が呼吸する方法を教えられるのかというようなものだ。

 生まれた時から普通に呼吸をしている。誰かに教えてもらったわけではない。これを、誰かに教えるとしたら、どう教えていけばよいのか、わかる人はほぼいないだろう。

 魔法も同じ。異世界に転移したときに、努力もせずに使えるようになっていたもの。だから、教え方がわからないのである。


「まあ、やってみるしかないか」

「そうね」


 二人は顔を見合わせ、小さく頷き合った。

 それを隣で見ていた陽菜は、自分が仲間外れになるのを嫌い、参加の意思を伝える。


「あ、折角なら、私にも教えて欲しいな」

「そうだな。陽菜も魔法を使えるようになってくれた、もっと安全になるかもしれないな」


 馨がそう言うと、優花も頷いた。

 こうして、薬草の採取は終了し、新たな魔法の取得のための訓練をすることになった。


        *


 訓練の場所は、宿から少し離れた河原に決まった。人目がなく、多少魔法を暴発させても被害が出にくい。


「――まずは、感覚の話からしましょうか」


 優花が、手のひらを上にして、前にだした。。


「私が水魔法を使うとき、頭の中でイメージしてるのは、川の流れなの。滞りなく、でも決して逆らわない。手のひらから、そのまま川が流れ出すような感じ」


【クリエイト・ウォーター】


 優花が魔法を使うと、指先から水が生まれた。水細い糸のように持ち上がり、するすると宙を這う。が、やがて河原の石の上に落ちた。


「――なるほど」


 馨は、そのイメージを頭の中でなぞってみた。

 そして、いつも使うように、手の先に精神を集中する――


「ああ、発動しないか」

「そんなに簡単にはいかないようね」


 優花のように水を作り出すことは出来なかった。

 しかし、最初から上手くいくとは思っておらず、落胆の色はない。

 気持ちを切り替えて、馨は火属性の魔法を披露する。


「俺の火は、全然違う感覚だな。流れっていうより、爆ぜる感じ。胸の奥で燻ってる熱を、一気に解き放つイメージ」


【キンドル】


 馨が手のひらを掲げると、小さな火花が指先で弾けた。

 本来、松明の代わりとなるような炎が生まれる魔法であるが、今回は明るくする必要が無いので、威力を絞って火花程度とした。


「暴発しそうな感じ、っていうのはわかるかも。私の場合、水は逆に、暴れさせない方が難しいのよね。放っておくとどこまでも広がろうとするから、押さえつけるようにコントロールしてる」

「真逆だな」


 今度は優花がやってみるも、やはり炎を作り出すことは出来なかった。

 そこからは、お互いに相手の属性の魔法を使うべく、イメージをしながら練習をした。

 馨は、優花の言葉を頭の中で繰り返しながら、それを自分の中に落とし込もうとした。だが、いざ水のイメージで魔力を練ってみても、何も起こらなかった。

 陽菜も四属性それぞれを試してみるが、神聖魔法とは根本的に違うため、二人よりも苦戦する。


「駄目!全然イメージ出来ない。祈ってドカンがいい」

「神聖魔法ってそんな感じだよね」


 難しさに癇癪を起こす陽菜。そして、苦笑いの馨。


「陽菜って、昔から難しい問題が解けないとそんな感じだよね」

「馨が頭良すぎなのよ。親に比べられる私の気持ちもわかって」


 そんな幼馴染同士の会話になると、優花は複雑な思いになる。

 優花が陽菜に勝っているのは、仲良しの経験だけ。積み重ねた時間は、到底及ばない。

 二人の会話を遮るように、今日は止めようと提案する


「――やっぱり、簡単にはいかないか。今日はこの辺にしましょう」

「まあ、初日だしね」


 こうして、三人は訓練を重ねていった。


        *


 数日、河原での訓練は続いた。


 最初のうちは、互いのイメージを言葉で伝え合うだけで、実際に発動には至らなかった。だが、繰り返すうちに、少しずつ変化が現れ始めた。


「――あ」


 三日目の朝、優花の手のひらから、小さな炎が灯った。頼りない、蝋燭ほどの火だったが、間違いなく炎だった。


「ついた……!」


 優花が、興奮気味に炎を見つめる。


「もともと魔法使いとしての素養はあるからな。要は、イメージの通り道を新しく作るだけで済むんだと思う」


 馨がそう分析すると、優花も納得したように頷いた。


 その二日後には、馨の方も、水の膜のようなものを手のひらの上に作り出せるようになっていた。完成度は低いが、確かに、水魔法の入り口には立てていた。


 一週間もすると、二人とも一通り、相手の属性の初歩を再現できるようになっていた。


「――思ったより早かったな」

「私たち、元から魔法使いだったからじゃない? 属性が増えただけで、魔力を練る根本の感覚は変わらないもの」


 優花の言う通りだった。魔力そのものを制御する土台は、すでに二人の中に出来上がっている。あとは、そこに新しい水路を通すだけでよかった。


        *


 一方、陽菜の方は、苦戦していた。


「――うーん」


 陽菜は、河原に座り込んだまま、何度目かの深呼吸をしていた。

 彼女には、そもそも魔法使いとしての素養がない。プリーストとして神聖魔法を扱ってはいるが、それは魔法使いの魔力操作とは、根本的に仕組みが違う。


「陽菜は、神聖魔法をベースに考えた方がいいかもしれないな」


 馨が、そう助言した。


「神様に祈って、力を借りる感覚だろ? それを、属性の力を借りる、っていう風に置き換えてみるとか」

「――やってみる」


 陽菜は目を閉じ、いつも神聖魔法を使うときのように、両手を組んだ。だが、そこに祈りを捧げる相手はいない。代わりに、火の揺らめきを思い浮かべながら、意識を集中させる。


「……何も、起きない」


 しばらくして、陽菜は肩を落とした。


「無理もないわよ。私たちは、そもそも最初から魔法使いの素養を選んでたから。陽菜は、神官と戦士なんだもの」


 優花が、フォローするように言葉をかけた。


「そもそも、魔法使いのスキルを新しく取るだけでも、キャラクターポイントを3000も使うのよね。私たちみたいに、最初から持ってた属性に上乗せするのとは、わけが違うわ」

「そんなに違うんだ……」


 陽菜が、ため息交じりに呟いた。

 プリーストとしての力を高めるのとは、まったく別の才能を、一から芽吹かせようとしている。それがどれほど難しいことか、陽菜自身、身をもって実感していた。


「焦らなくていいと思うぞ。俺たちだって、元々の下地があったから早かっただけだし」

「そうそう。陽菜には陽菜の伸び方があるわよ」


 二人に励まされ、陽菜は小さく頷いた。


「――うん。地道に、やってみる」


 その日も、日が暮れるまで、陽菜は静かに手を組み続けていた。

 小さな灯りひとつ生まれることはなかったが、それでも、諦めるつもりはなかった。


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