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幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


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第24話 愛人の屋敷

 教えられた屋敷は、フェルンハイムの中でも比較的裕福な区画にあった。こぢんまりとしているが、手入れの行き届いた庭のある一軒家だった。

 出迎えたのは、まだ若い女性だった。

 美しいが、棘があるといえばよいだろうか。不用意に手に取れば、怪我をするようなイメージである。夜職の女性にあるような、男を破滅に向かわせるような雰囲気を纏っていた。

 着ている服は、品の良い高価なものであるが、着こなせていない感じが違和感を醸し出す。


「ようこそ。セシリアと申します。この度は、護衛をお願いすることになりまして」


 物腰の柔らかい笑顔だったが、その奥に、隠しきれない緊張が滲んでいるのを、馨は感じ取った。


「早速ですが、依頼の詳しい事情を伺っても?」


 優花が単刀直入に切り出すと、セシリアは少し躊躇うように視線を落とした。


「ここでは人目もありますので、どうぞ中へ」


 案内されて室内へと入る三人。

 席に着いたところで、セシリアが口を開く。


「お恥ずかしい話なのですが――」


 セシリアは、静かに語り始めた。

 彼女は、この街で手広く商いを営む商人、ドナート・ヴァレンスの愛人だった。もう間もなく、七日後には、ドナートと彼の正妻との離婚が正式に成立する。そうなれば、セシリアはドナートの後妻として、正式に迎え入れられることになっていた。


「――でも、正妻の方が、それをよく思っていない、と?」

「はい……」


 セシリアは、震える声で頷いた。


「風の噂で聞いたのですが……あの方は、私さえいなくなれば、旦那様が離婚を思いとどまるはずだと、そう考えているようで」


 その告白に息が詰まる。

 馨は思わず生唾を呑み込むが、その音が聞こえるくらい、室内が静寂としていた。


「――つまり、命を狙われてるってこと」


 優花の言葉に、セシリアは青白い顔で頷いた。


「離婚の成立まで、あと七日。それまで、どうか、私の身をお守りいただけないでしょうか。離婚さえ成立してしまえば、諦めもつくことでしょう」


 その必死な様子に、馨たちは顔を見合わせて頷いた。


「分かりました。お引き受けします」


 馨がそう答えると、セシリアは深々と頭を下げた。


「ありがとうございます……!本当に、ありがとうございます」


 心から安心してはいるのだが、その所作が所々、男に媚びるようであり、優花は馨が鼻の下を伸ばしていないから、ちらちらと表情をうかがった。

 当の馨はそんなつもりはないのだが、

 こうして、七日間の護衛依頼が始まった。


        *


「浮気相手の護衛かあ」


 馨がため息をつく。

 屋敷の周囲を確認するため、三人は外にいた。

 侵入経路の確認のためというていだが、実際にはセシリアのいないところでの会話が目的だった。


 そのセシリアは屋敷の中である。通いのメイドがおり、今はそのメイドが身の回りの世話をしていた。信用できる人物だということで、警戒はしていない。

 いや、サーチの魔法を使っているので、敵意、害意があれば反応するのだが、その反応が無かったので、警戒をしていないというのが正しい表現である。


 ため息をついた馨の肩に、優花がポンと手を置いた。


「気持ちはわかるわよ。逆なら、不倫相手が正妻の命を狙っているっていうのなら、どんなに気が楽だったかしらね」


 その言葉に、陽菜も強く頷く。


「奥さんを追い出して、愛人と再婚でしょ。許せないよ。ミレーユは、そんな愛は認めてませんから」

「そうなんだけど、断って殺されても後味が悪いしなあ」


 馨は肩に置かれた優花の手に、自分の手をそっと重ねた。


「「それよねえー」」


 二人が同調する。

 命を狙われているのが事実であれば、この依頼を断ったことで殺されたと知った時、すごく後悔するのはわかっていた。

 警察官が犯罪者であっても、命を狙われていたら守らなければならないのと似た心境である。

 三人は、仕事だからと自分たちに言い聞かせ、屋敷の中へと戻った。


 最初の二日は、何事もなく過ぎた。


 馨たちは屋敷に泊まり込みで詰め、周辺を警戒しながら、セシリアの身の回りの世話にも付き合った。優花は植物学の知識を活かして、屋敷の庭にある植物の手入れを手伝ったりもした。


 だが、三日目の夜。

 事態が、ついに動いた。


「――誰か、いる」


 夜半、見張りに立っていた優花が、鋭くそう呟いた。


「こちらのサーチにも引っかかった。気配、二つ。屋敷の裏手から」


 馨の魔法でも、敵対反応があった。

 すぐさま、寝ている陽菜を起こす。


「陽菜、敵よ」

「とうとう来たのね」


 直ぐに起きると、武器を手に取る。

 馨も、すぐに臨戦態勢を取った。陽菜は、緊張した面持ちで武器を構えた。


「陽菜は念のため、屋敷の中に残って。私と馨で行くから」

「わかった」


 馨たちは二手に分かれ、外へと向かう。


 屋敷の外では、しばらくの静寂の後、音もなく、黒装束の人影が二つ、庭先に降り立った。

 月と星は雲で隠れ、彼らの存在を隠してくれた。


 しかし、それが通用するのも低レベルの相手まで。

 さらに、ラミアである優花には暗視という強みがあった。不眠と暗視を種族特性として保有したラミアは、夜の住人であった。

 その目が侵入者を捉える。


「盗賊レベル4。雑魚ね」


 優花の看破が相手の力量を見抜く。

 その声に驚いた黒装束たちは、ナイフを構えた。


「気づかれたか」


 一人が、抑えた声でそう呟いた。フードの下から覗く目には、隠しきれない殺気が滲んでいた。


「盗賊ギルドの、暗殺者か?」


 馨が静かに問いかける。


「答える義理はない」


 言葉を最後に、二人の暗殺者は、同時に動き出した。

 夜の闇に紛れるように、短剣を構えた影が、二手に分かれる。

 一人はセシリアの部屋がある方向へと突き進もうとする。そして、もう一人は優花へと向かった。


「――!!!」


 優花が、その進路に槍を突き立てると、穂先が見事に黒装束の胸へと吸い込まれた。

 即座の絶命。




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