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幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


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第14話 ゴブリン退治

「――報酬、三千リカか。安いわね」


 依頼書を確認しながら、優花がそう呟いた。

 しかし、安いと言いながらも、その依頼書を剝がして手に取る。


 馨たち三人は、冒険者ギルドの掲示板に貼りだされた依頼を見ていた。

 その中で目に留まったのは、フェルンハイム近郊の村から依頼が出ているゴブリン退治というものだった。

 薬草の採取とアルミラージやアイアンタスクボアの素材集めに飽きてきたので、何か別の依頼はないかと、常設ではないものを探していた。

 依頼はまだ真新しいものであるが、他の冒険者からは割に合わないと、見向きもされずに残っているものであった。


「往復で二日はかかる場所だし、目撃されたのも三体だけ。誰も受けたがらないのも、分かる気がする」

「初心者だと往復するだけで赤字。ベテランだともっと効率の良い仕事があるものね」

「じゃあ、なんで受けるんだ?」


 馨が問うと、優花は事もなげに答えた。


「ゴブリンなら、弱いから。経験を積むには、ちょうどいいと思って」

「私も賛成」


 陽菜が、迷いなく頷いた。この数日の訓練の成果を、実戦で試してみたい。そんな気負いが、その表情には滲んでいた。

 なお、ゴブリンは成りたての冒険者でも、パーティーを組んでいれば問題ない程度の相手である。ただし、群れを作った場合には、上位種が混じることがあり、ある程度の実力を持っていないと危険とされている。

 そんな群れがフェルンハイムの近くにあるようであれば、騎士団が出動するような事態であり、そんなことは滅多にない。ほとんどの場合、そうした群れになる前に目撃され、依頼を請けた冒険者によって討伐されているのだ。

 勿論、馨たちもモンスターの情報を調べた際に、ゴブリンのことも把握している。


「陽菜がそう言うなら賛成だ」

「よし、決まりね」


 優花はそう言うと、受付いたロッテにその場で依頼を受ける旨を伝えた。

 ロッテはどこか遠くを見るような感じで、心ここにあらずであり、声を掛けられてハッとする。


「あ、この依頼を請けますか。正直、ずっと残ってしまうのではないかと心配していました。請けていただけるなら助かります」


 そう言って処理を始めるロッテ。

 ふと思い出したように顔を上げる。


「あ、目撃情報はゴブリンとなっていますが、知識のない人は、上位種かどうかはわかりませんので、ゴブリンだけだと思い込まないでくださいね。上位種がいた場合は、討伐できなくても情報を持ち帰ってもらえれば、成功と判断することもありますので」

「なるほど。請けるのはゴブリン退治であって、上位種の退治は契約外ってことか」

「はい。勝てない相手に失敗を嫌って立ち向かうことをしないようにする処置です。討伐の証拠品になるのは、魔石か耳のどちらかですね。耳は方向を揃えてください。どうしても、戦闘になると耳を残すのが難しいんですけど、どちらでもよいとすると、討伐数を誤魔化す冒険者がいますので」


 依頼を失敗すれば、冒険者ランクが下がることもある。そうなると、おいしい仕事が請けられなくなるので、無茶をしてしまう冒険者もいるのだ。

 もっとも、馨たちは今が最低ランクなので、そんなことを心配する必要もないのだが。

 それと、討伐の証拠となるのは、魔石か耳である。両方を持ち帰っても、カウントされるのはどちらかのみ。ゴブリンには魔石が一つと耳が二つあるので、こうした取り決めがないと、一体を討伐しただけなのに、三体だと報告する不届き者が出るためだ。


 こうして、馨たちは村に向かうことになった。


        *


 村までの道のりは、思いのほか穏やかだった。街道沿いに畑と森が交互に続き、道行く商人ともすれ違う。半日ほど歩いたところで、ようやく目的の村が見えてきた。


 村長に話を聞くと、事情は単純だった。


「森の奥で、ゴブリンらしき影を何度か見た、という話がありましてな。畑を荒らされたわけではないんですが、いつ何をされるか分からんので……」


 三体、というのは目撃証言の数だ。実際には、もっといるかもしれない。村長はそう不安げに付け加えた。

 馨たちは挨拶も早々に、教えられた森の方角へと向かった。


「さて、サーチの魔法を使うか」


 馨がサーチの魔法を使う。

 すると、前方に反応があった。


「三体反応あり。そのうち一体は他の二体よりも強い感じがする。俺たちよりは弱いけどね」

「上位種?」

「ゴブリンかはわからないけどね」


 サーチの魔法は空間属性。罠・モンスター・野生動物・虫を感知する。一度感知したモンスターは二度目以降なら名前まで分かるが、初見時は「自分より強いか弱いか」「動物か植物か」「罠かどうか」程度しか分からない。

 だから、馨が言うように、ゴブリンかどうかはわからないのである。


 しばらく進むと、案の定、緑がかった肌をした小柄な人型の魔物が、こちらに気づいて牙をむいた。


「――一体、二体」


 優花が数えるように呟く。


「一体少ないわね」


 陽菜が身構える横で、優花が槍を構えたまま、周囲を油断なく見渡していた。


「いや、すぐ後ろに反応がある――」


 言い終わらないうちに、茂みの奥から、ひときわ大きな影が姿を現した。

 他のゴブリンよりも二回りは大きく、肌の色も濃い。手にした棍棒も、他とは比較にならないほどの太さだった。


「ホブゴブリン……!」


 優花の声に、緊張が走る。

 冒険者ギルドの資料で見たゴブリンの上位種だった。スライムの惨劇が頭をよぎる。


「陽菜は下がって。私と馨で対処する」

「――でも」

「無理はしないで。まずは、私たちの動きを見てて」


 優花はそう言うと、真っ先に飛び出した。並のゴブリン二体は、優花の剣が一閃するたび、あっさりと沈んでいく。

 残るは、ホブゴブリンだけだった。


「馨!」


【ゴッドフィスト】


 馨が拳を握って左腕を前に突き出す。神の力で作られた拳が、馨の左手から撃ちだされ、ホブゴブリンへと叩き込まれる。轟音とともに、その巨体が地面へと沈んだ。

 しん、と森が静まり返る。


「――終わった、か」


 馨が息を吐いた。


「上出来ね」


 優花が満足げに微笑む。


「陽菜もいい経験になったでしょ」

「うん……正直、怖かったけど」


 陽菜はまだ少し震える手を見つめながら、それでも小さく笑った。


「他に危険な反応はないし、少し休もうか」


 馨がそう言うと、二人は賛成した。

 魔石の剥ぎ取りは馨と優花で行い、陽菜はその作業をジッと見つめる。ついこの前まで日本で高校生をしていた三人には辛い光景であったが、この世界で生きていくためには慣れねばならぬことであり、作業から目をそらすことはなかった。


        *


 討伐の証として、ゴブリンたちの魔石を回収し、三人は村へと戻った。


「おお、もう片付けてくださったのか! ありがとうございます、ありがとうございます!」


 村長は涙を浮かべんばかりに喜んだ。約束の報酬に加え、幾ばくかの謝礼まで用意してくれた。


「そういえば」


 馨は、ふと思い出したように尋ねた。


「最近、他に何か変わったことはありましたか?」

「変わったこと、ですか……ああ、そうだ」


 村長は少し考えてから、思い出したように答えた。


「三日ほど前でしたか、旅の吟遊詩人が立ち寄られましてな。一晩、宿を貸してほしいと」

「吟遊詩人?」

「ええ。とても美しい方でしたよ。歌も見事で、村の者たちもすっかり聞き惚れて……次の日には、もう発ってしまわれましたが」


 村長は懐かしむような口調でそう語った。


「歌ねえ」


 優花は考え込む。大して金にもならないような、近隣の大きな街とフェルンハイムを繋ぐ街道沿いではない村。

 そこにやってきた吟遊詩人。嫌な予感と、可能性について考えるが、それを馨が邪魔する。


「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」

「は?」


 馨の突然のセリフに、優花は間抜けな声が出た。


「今のって、エヴァ?」

「そう。馨のお父さんってオタクなのよね。馨のお姉ちゃんの名前が渚で、弟が馨でしょ。男でも女でも使える名前だからって、生まれる前から決めていたんですって」

「あ、でも俺ってアニメは親が見ているから見てただけで、新しいのとかよくわからないから」

「いや、ちょっと待って。情報量が多すぎて、脳が追い付かない。あと、なんで私の声が緒方恵美じゃないんだろ」


 優花は壊れた。

 心配そうに見ている村長。その村長が声を掛けた。


「あの、もう日もくれますので、本日はうちに泊まられては?」

「いや、俺たちも街に戻りますね」


 壊れた優花を他人には見せたくない。そんな気持ちから、馨は村長の申し出を断った。

 夜とはいえ、危険なモンスターや盗賊が出るような治安ではない。ならば、帰ってしまおうというわけである。


「ええ、道中お気をつけて。本当に、助かりました」


 村長の見送りを受けながら、三人は来た道を戻り始めた。

 その背後で、森の奥には、まだ誰にも気づかれない気配が、静かに息をひそめていた。


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