第12話 情報共有
トランスファーを受けて目を覚ました陽菜は、まだ少しふらつく足取りで立ち上がった。
「大丈夫?」
優花が訊ねると、陽菜は首肯する。
「うん……なんとか」
「少し休憩してから戻りましょう」
優花の優しい言葉に、陽菜の顔が暗くなる。
「私、足手まといだよね」
目の前でクラスメイトが溶かされているのに、何もできなかったことが、陽菜の思考を暗いものにしていた。
優花はそんな陽菜の手を優しく握る。
「そんなことはないから。プリーストのスキルがあるでしょ。私と馨が動けなくなったらって考えると、優花がいてくれるのは心強いからね」
「でも、助けられなかった……」
「それは、実力以上の相手に挑んだからよ。下調べをして、勝てる相手とだけ戦えばいいの。それでも、何があるかわからないから、油断は出来ない。そのための回復役なんだから」
「うん……」
馨をめぐるライバルであるが、優花は陽菜を突き放したりはしない。むしろ、何も声を掛けられない馨が、忸怩たる思いで二人を見ていた。
しばらく休み、三人は採取した薬草と素材を換金するため、ギルドへと足を向けた。
受付はいつも通りのロッテである。採取した素材を渡すと、査定係へ渡すために奥へと引っ込んだ。
「ロッテさんって、若くて優秀だけど、王都の冒険者ギルドからこっちに左遷されてきたって噂があるのよね」
優花が呟く。
「噂ねえ。そういうのって、だいたいが面白くなるように脚色されているものだよね」
「そうね。上司と不倫して、それがバレての左遷って噂だから、誰かが面白おかしく脚色したのかもね」
「でも、火のない所に煙は立たないって言うじゃない」
陽菜は噂を全くの嘘とは決めつけない。
むしろ、真実であった方が面白みが増すと考えていた。
そんなふうに受付で査定を待っている間、見知った顔がこちらに気づいた。
「――あら」
阿部遥だった。真央と千尋も一緒にいる。委員長グループも、同じように採取から戻ってきたところらしかった。
「奇遇ね。ちょうどいいから、少し話さない?」
遥のその一言に、馨と優花の間に、一瞬緊張が走った。
(――何を聞かれる?)
スキルの内容や、正体に繋がりかねない話題を探られるのではないか。二人の間に、無言の警戒が生まれる。
その気配を察したのか、遥は苦笑しながら手を上げた。
「そんなに構えないで。個人のスキルとか、そういう話じゃないから」
「……じゃあ、何を?」
優花が、慎重に問いを返す。
「この世界のルールについて。分かってることを、共有しておきたいの」
その一言で、馨と優花の肩から、わずかに力が抜けた。
「――そういうことなら」
「ええ。ただ」
遥は、そこで少し声を落とした。
「スキルの内容は、簡単に他人に教えない方がいいわ。クラスメイトが必ずしも味方とは限らないから」
その言葉に、遥は少し離れた場所――ちょうど、大翔たちがいる方角へ、ちらりと視線を向けた。日雇いの女子たちのことを、暗に示しているようだった。無防備に情報を渡し、簡単に頼ってしまう危うさを、遥は苦々しく思っているらしかった。
「それで、共有って言うのは……」
「まず、経験値。数値としては、私たちには見えない」
遥はそう切り出すと、順に語っていった。
「モンスターとは、まだ遭遇していないんだけど――動物のステータスも、見えないの。だから、多分モンスターも同じでしょうね」
「見えない、っていうのは……」
「鑑定でも、名前と大まかな情報しか分からない。強さの数値とか、そういうのは一切出てこない」
真央が補足するように言った。
「ただ、看破のスキルレベルが上がれば、その辺りも見えてくるかもしれない。今のところは、分からないけど」
千尋が付け加えた。
優花は看破でその辺が見えている。というのも、冒険者レベルが判定に影響しており、彼女のレベルであれば、この周辺に生息している動物やモンスターなど、全て格下なので簡単に情報が得られるのだ。
誰もがそうではないとわかったのは大きな収穫であった。
もっとも、それを話すようなことはしないが。
「スキルレベルとか、冒険者レベルが上がる条件も、正直まだ分からないの。手探りよ」
遥がそう締めた。
馨は、思わず優花と目を見合わせた。自分たちも同じように、手探りで進んでいる。それを、こうして他のグループと共有できるというのは、思っていたより心強かった。
「――こっちからも、一つだけ」
優花が、少し考えてから口を開いた。
「陽菜を訓練してるの。後付けで冒険者スキルが取れるなら、鍛えれば戦士も取れるんじゃないかって」
「訓練で……?」
真央が、興味深そうに目を丸くした。
「もし本当に取れるなら、大きな発見ね。でも職業が固定化された世界じゃないというのを考えれば、それも出来るのかも」
遥は、少し考え込むように顎に手を当てた。
「――分かったら、また教えてくれる? こちらも、何か分かったら共有するわ」
「うん、もちろん」
陽菜が少し誇らしげに頷いた。
こうして、二つのグループの間に、細く、しかし確かな繋がりが生まれた。




