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幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


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第11話 みぞおちの一撃

「陽菜、スキル見せてくれる?」


 宿の一室、優花がそう切り出した。陽菜は少し戸惑いながらも、頷いた。

 優花は陽菜に向かって【看破】のスキルを使用した。

 看破は相手のスキルレベルがわかるスキルである。【鑑定】はスキルレベルはわからず、種族、種類がわかるスキルだ。鑑定でも強い弱いはわかるのだが、それは自分と比べてではない。一般論として強いか弱いかとなる。

 どちらも成功しなければ、結果がわからないのは一緒であり、高レベル相手では失敗することの方が多い。


「プリーストレベル1、信仰はミレーユ……あとは、調理、裁縫、ハウスキーパー、計算、交渉、鉄壁――」


 優花はその一覧を眺めながら、鉄壁の項目で目を止めた。


「鉄壁、いいわね。ダメージ軽減系」

「これくらいしか、戦えそうなのがなくて……」

「――でも、後付けで冒険者スキルが取れるなら、鍛えれば戦士も取れるんじゃない?」


 優花の言葉に、陽菜が顔を上げる。


「本当に?」

「試してみる価値はあると思う。採取のノルマを終えたら、時間を使って訓練しましょう」

「……うん、やる」


 陽菜は、迷いなく頷いた。


「馨はどんなスキルを持っているの?」


 陽菜が、隣に座る馨へと視線を向けた。

 馨は、少し息を詰めた。


(言うか、言わないか)


 迷いは、そう長くは続かなかった。陽菜を信じたい。この先、一緒にやっていくのなら、隠したままではいられない。

 馨は優花を見た。優花は、それだけで何を聞かれているか分かったように、小さく頷く。


「馨くんの判断なら、私は止めない」

「――俺、ダークプリーストなんだ」


 馨は、静かに切り出した。


「暗黒神ガルドヴェインを信仰してる。バレたら、多分、今みたいには一緒にいられなくなる」

「――え」


 陽菜の目が、大きく見開かれた。しばらく、言葉を失ったように黙り込む。

 だが、それも一瞬だった。


「――逃げるなら、一緒に逃げるから」


 迷いのない返事だった。

 その言葉に、優花の目が、一瞬だけ鋭く陽菜を捉えた。何かを見定めるような、険しい光。

 だが、それもすぐに消え、優花はいつもの調子を取り戻していた。


「私は戦士よ」


 優花は、それだけ告げた。他のことは、何も明かさなかった。看破を持たない陽菜には、それ以上の真実を見抜く手段がない。


        *


 その日も、三人は同じ森へと向かった。ギルドに寄れば、また面倒に巻き込まれかねない。常設の採取依頼だけで、当面は十分だった。


 (ちなみに、北の方角にある別の森では、小林大輝たちのグループが、同じように薬草採取に汗を流していた。だが、そちらの様子は、この場の三人には知る由もない)


 薬草を摘む合間に、茂みからアルミラージが飛び出してきた。


「――ゴッドフィスト!」


 陽菜が、慌てて拳を突き出す。淡い光を纏った一撃は、確かにアルミラージを怯ませたが、仕留めるには至らなかった。


「甘い」


 優花が横から槍を一突きし、動きを止めていたアルミラージを片付ける。


「これで、今日のノルマは達成ね」


 優花は満足げに頷くと、槍を地面に立てかけた。


「――さあ、訓練の時間よ」

「え、今から?」

「陽菜、武器は何かないの? なければ、それ使って」


 優花が指したのは、落ちていた太めの木の枝だった。陽菜は仕方なく、それを拾い上げる。


「盾は貸すわ」


 優花は自分のスモールシールドを外し、陽菜に持たせた。


「じゃあ、構えて」


 陽菜が慣れない様子で盾を構えた、その直後だった。

 優花の足が、鋭く跳ねた。


「――ぐっ!」


 陽菜のみぞおちに、蹴りが深々と沈み込む。陽菜は声も出せずに、その場に崩れ落ちた。


「陽菜っ!」


 馨が、思わずヒールの詠唱を始めようとする。


「駄目」


 優花が、それを制した。


「自分でかけさせて」

「でも――」

「自分でやらせないと、意味がないの」


 優花の声には、有無を言わせない硬さがあった。

 悶絶しながらも、陽菜は震える手で、涙を滲ませながら優花を見上げた。


「な、なんで……こんなこと……」

「――ここは、優しい世界じゃないから」


 優花の声は、冷静そのものだった。


「弱ければ、簡単に死ぬ。あのスライムの時みたいに」


 その一言に、陽菜の表情が変わった。

 あの日の光景が、否応なく脳裏に浮かぶ。武器が溶け、仲間が飲み込まれ、大翔が振り返らずに逃げていった、あの絶望。

 馨と優花もあとからスライムの惨劇を聞いて、気を引き締めていた。


「――っ」


 陽菜は、涙を拭うと、震える手で自分にヒールをかけた。淡い光が、じんわりと痛みを和らげていく。


「もう一回」


 優花の指示に、陽菜は真剣な眼差しで頷いた。

 もう一度、蹴りを受け、また自分でヒールをかける。それを、四回繰り返したところで――


「――う……」


 最後のヒールを唱え終えた瞬間、陽菜の体から、ふっと力が抜けた。そのまま、糸が切れたように倒れ込む。


「陽菜!」


 馨が青ざめて駆け寄る。


「大丈夫、精神力が尽きただけよ」


 優花は落ち着いた声で言った。


「トランスファーで、すぐ目を覚ますから」


 優花は倒れた陽菜の傍にしゃがみ込み、自分の精神力を分け与える魔法を紡いだ。ほどなく、陽菜の呼吸が穏やかになる。


「――やりすぎだろ」


 馨が、抑えた声で優花に言った。


「手を抜いたら、この子が危ないのよ」


 優花は、まっすぐに馨を見返した。


「私たちと一緒に来るなら、これくらいじゃないと。甘やかしてる余裕、私たちにはないでしょ」


 その言葉に、馨は口を噤んだ。反論できる材料は、なかった。


(――嫉妬も、少しあったな)


 優花は、心の中だけで、そっと呟いた。陽菜が馨の傍にいることへの、消えない苛立ち。それを、正しさの言葉に隠して、少しだけ、多めに蹴りを入れてしまったかもしれない。

 優花は、その自覚を、誰にも言わないまま、静かに胸の奥に押し込めた。


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