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幼馴染を守りたくてダークプリーストを選んだのに、彼女はもう寝取られていた  作者: 工程能力1.33


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第10話 個室と相部屋

 三人が次に泊まったのは、これまでよりいくらか上等な宿だった。稼ぎに余裕ができたこともあり、部屋割りも少し変わった。


「馨くんとは同じ部屋、松本さんは個室ね」


 優花が、当然のようにそう告げる。陽菜は怪訝そうに眉を寄せた。


「……ちょっと待って。木村さんと私、女同士なんだから、一緒の部屋でよくない?」

「え、なんで?」


 優花は不思議そうに首を傾げてみせた。


「私、馨くんと仲良しだもの」

「仲良し……?」


 陽菜には、その言葉の本当の意味までは分からなかった。だが、含みのある言い方に、何か引っかかるものは感じたらしい。

 それでも、陽菜は諦めなかった。


「馨、今夜は私の部屋に来ない? 積もる話も、あるでしょ」

「――え」


 馨が言葉に詰まる。陽菜が優花の吸血衝動や搾精衝動のことなど、知る由もない。だからこその、屈託のない誘いだった。


「都合が良すぎない?」


 優花の声が、すっと冷たくなった。


「男の人、コロコロ変えて。ついこの前まで大翔くんの隣にいたのに」


 その一言に、陽菜の顔がかっと赤くなった。反論しかけて、しかし言葉を飲み込む。


(ここで揉めたら――)


 行き場のない自分の立場を、陽菜は嫌でも自覚していた。この二人に見放されれば、また一人になる。それだけは、耐えられそうになかった。


「……分かった。個室でいい」

「そう。それと私の事は優花でいいわ。同じパーティーだから、名前で呼び合いましょう」

「ええ、わかったわ」


 陽菜は俯いたまま、それだけ言うと、あてがわれた部屋へと引っ込んでいった。


        *


 夜が更けた頃、馨と優花の部屋には、静かな空気が流れていた。


「――なあ」


 馨が、天井を見つめたまま、ぽつりと切り出した。


「もし、陽菜にバレたら、どうなるんだろう」


 優花は馨の腕にそっと頭を預けたまま、少し考えるように黙った。


「言いふらされたら――逃げましょう」

「逃げる?」

「隣のドレスガルド王国。バルグレイブっていう街があるの」


 優花は静かに続けた。


「資料室の本で読んだんだけど、あそこは盗賊ギルドの息がかかった、いわゆる悪徳都市。だからこそ、ダークプリーストだろうとラミアだろうと、誰も気にしないみたい。あ、盗賊ギルドっていうのは、マフィアみたいなものね。各国の裏社会を取り仕切っているらしいわ」

「そんな街が……」

「私たちみたいなのには、案外都合がいい場所かもね」


 優花は小さく笑ったが、その声にはどこか、諦めにも似た響きが混じっていた。


「羊のマークの旗を掲げていたりする?」

「それはないわよ。なんで?」

「いや、俺は左手から精神力を使ってエネルギーを打ち出しているから……」

「サイコガンじゃなくて、ゴッドフィストだけどね」


 優花がくすくすと笑う。


「冗談が言えるようで安心したわ」

「ありがとう。今俺がここに居られるのは、優花のおかげだから」

「うん」


 優花は陽菜と自分、どっちが大切と聞きたかったが、今それを聞いてしまえば、この関係が壊れてしまうきがして、聞き出せなかった。

 彼女も、馨が陽菜の元に行ってしまうのが不安だったのだ。

 独占欲が余計なことを口にさせる。


「ねえ、初めての時ってどんな感じだった?」


 直球の質問に馨はどぎまぎする。

 咄嗟に出てきた言葉が、


「童貞は一刻も早く捨てよっていうし、なんか、世界が広がった気がした」


 である。

 それを聞いた優花が笑い出した。


「それ、三島由紀夫の『不道徳教育口座』の話よね」

「え、そうなの?ネットでなんか見たフレーズなんだけど、三島由紀夫なんだ」

「ええ。他には女から金を搾取すべしとかあるわよ」

「あーすごい不道徳だよね」


 それを聞いた馨も笑い出した。

 この時、優花は敢えて処女・非処女を問題にすべからずというのを伏せた。

 そして、もう一度仲良くするのであった。



        *


 一方、個室にあてがわれた陽菜は、ベッドに突っ伏していた。

 馨。あの、いつも自分の傍にいた、頼りないくらい優しいだけの幼馴染み。

 その馨が、もう自分のものではなくなっている。それも、木村優花などという、かつて教室の隅で見向きもしなかった相手に。


(どうして……)


 悔しさなのか、悲しさなのか、自分でもよく分からない感情が、胸の中でぐちゃぐちゃに渦を巻いていた。

 枕に顔を押し付けると、堪えきれない嗚咽が漏れた。


(馨は家族みたいなもの。いつまでも一緒にいてくれると思っていたのに)


 まことに身勝手な理論である。

 陽菜からしてみれば、馨は家族のような存在であり、恋愛対象とはならないが、それでも大切な存在である。

 戻ってくればいつでも出迎えてくれるはず。

 そう思っていたのに、気が付けば女とくっついていた。自分が部屋に誘ったのに、あの優花という女の部屋に行ってしまった。


(私の事を大切にしてくれないの……)


 その悔しさから涙が止まらなかった。

 誰にも聞かれないよう、声を殺しながら、陽菜はいつまでも一人、枕を濡らし続けた。


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