王立士官養成学校2
軍士官養成学校。そこは、外の世界で通用する貴族の肩書きや家柄など一切意味を持たない、剥き出しの暴力と狂気が支配する空間だった。
降り続く冷雨の中、泥水をすすりながら行われる不眠不休の連続行軍。教官から理不尽に叩き込まれるのは、鉄の軍律と、革鞭の痛みだ。
だが、ルキウスにとってその肉体的な苦痛は、取るに足らないものだった。彼の冷徹な瞳は、極限の疲労と飢餓の中で、人間の精神がどのように軋みを上げ、壊れ、暴走していくかというプロセスだけを淡々と観察し続けていた。
中でも狂気を極めていたのは、卒業を間近に控えた最終課程――実戦さながらの防衛訓練だった。
「貴様らの生ぬるい平和ボケを叩き直してやる! ここは貴族の温室ではない、地獄の入り口だ!」
鬼教官の怒号と共に、演習場に凄まじい砲撃の雨が降り注ぐ。
それは、訓練用の火薬を減らした模擬弾などではなかった。候補生たちに本物の恐怖と極限の緊張感を植え付けるため、教官たちは意図的に『実弾』を混ぜて撃ち込んでいたのだ。
鼓膜を破る爆音。高く巻き上がる泥土。
ルキウスの数メートル先で実弾が炸裂し、恐怖で立ちすくんでいた同期の候補生が、悲鳴を上げる間もなく赤い肉片となって吹き飛んだ。
血と泥、そして内臓の焼ける不快な硝煙の匂いが塹壕に立ち込める。パニックに陥り、狂ったように神に祈り始める者。武器を放り出して泣き叫びながら逃げ出そうとする者。
だが、その阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、泥に塗れたルキウスだけは、一切表情を歪めることなく静かに戦局を俯瞰していた。
(なるほど。人間は極限の恐怖を与えられ、理性を失うと、最も安全に見える『偽りの退路』へ無防備に逃げ込もうとするのか)
逃げ出した候補生が、教官の容赦ない銃弾に足を撃ち抜かれて転がるのを眺めながら、ルキウスは自身の脳内にある『人間心理のデータベース』に新たな情報を書き加えていく。
同期の死すらも、ただの有益なデータ。自らの命すらも盤面の駒として冷徹に計算する極限の合理主義。
彼にとってこの三年の地獄は、自身のスキル『軍師』を完成させるための、血生臭い実験場に過ぎなかったのだ。
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