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生きる、何が、あっても  作者: 虹の箸
第1章 始まりの3人

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ヴィットーリオ・ファミリー 1

時計の針を少し戻そう。

 アレンがエリアナと廃礼拝堂で『共犯関係』を結ぶより前。スラムでドン・ヴィットーリオに拾われた孤児が、いかにして巨大マフィアの中核へと成り上がっていったのか。


 ヴィットーリオ・ファミリーは、三つの柱で成り立っていた。

 頂点に君臨するドン・ヴィットーリオ。汚れ仕事と武力を担う実行部隊トップの長男・アンソニー。


そして、表向きのビジネスを取り仕切り、ドンのボディガード兼秘書を務める次男のカルロだ。


 次男のカルロは、犯罪が露見した際にドンへ捜査の手が及ばないよう、実行部隊のアンソニーたちとは組織図上、完全に切り離されていた。


 アレンは、長兄アンソニーの実行部隊に組み込まれた。武闘派のアンソニーは義に厚く、部下からの人望も厚かったが、力任せのシノギが多く、常に敵対組織との血みどろの抗争が絶えなかった。


 そこで輝いたのが、アレンの持つ『息を止めている間は認識されないスキル』と、彼特有の知略と技能だった。

「兄貴。正面から殴り込む必要はありません。俺が奴らの金庫室から、賄賂の帳簿だけを抜いてきます。息を三十秒止めれば、監視をすり抜けられますから」

「……お前、本当にすげぇな。よし、帳簿が手に入れば奴らは終わりだ」


 敵対組織の厳重な警備を、アレンは存在を消して悠々と突破してみせた。

 だが、アレンの真の価値は、単なる隠密行動だけではなかった。彼を裏社会における『理不尽なまでの脅威』へと育て上げたのは、ドン・ヴィットーリオ直属の二次団体のボスであり、古参幹部のロレンツォの存在だった。


「いいか坊主。銃ってのは女と同じだ。優しく、丁寧に扱え。火薬の匂いを嗅ぎ分けられない奴は、三流の殺し屋で終わるぞ」


 恰幅が良く、常にトマトソースのパスタの匂いをさせている『太っちょのロレンツォ』。


 陽気な男だが、彼はファミリーの武器の調達から暗殺の始末までを請け負う、血の匂いが染み付いた冷徹なマフィアだった。


ロレンツォはアレンの類まれな集中力と器用さを気に入り、目隠しをした状態での銃の分解・組み立てから、即席の時限爆弾の作り方、火薬の調合比率に至るまで、殺しと破壊の技術を徹底的に叩き込んだ。


「素晴らしい手際だ、アレン。だがな、爆薬ってのはどうしても『音』がデカすぎる。仕事が派手になれば、それだけサツや教会の犬どもを惹きつける。それが俺たちの悩みの種だ」


 ロレンツォのそのボヤキを聞いた時、アレンの中にある『探究心』に火がついた。

 アレンはスラムにいた頃から、貴族が捨てるような古い錬金術や化学の専門書を拾い集め、読み漁るのが趣味だった。彼はロレンツォから学んだ火薬学に、独自に研究していた『魔素の化学的な抽出技術』を掛け合わせる実験を秘密裏に始めたのだ。

 通常、魔法とはエリアナのように才能ある者が体内の魔力を使って行使するものだ。だがアレンは、空気中に漂う微小な魔素を科学的なフィルターで抽出し、極限まで圧縮して『固体化』することに成功した。

 この高純度の魔素の結晶を、ロレンツォ直伝の爆薬の起爆剤として組み込んだのだ。

 その技術が初めて実戦投入されたのは、敵対マフィアの巨大な武器庫を襲撃した夜だった。


 アレンは息を止め、誰にも認識されないまま厳重な警備網をすり抜け、武器庫の中心に手のひらサイズの『それ』を設置した。


 導火線はない。アレンが遠隔で魔力を流し込んだ瞬間、強烈な化学反応が起きた。

 ――閃光。そして、奇妙なほどの静寂。

 通常の爆発のように外側へ衝撃波が広がるのではなく、固体化された魔素が周囲のエネルギーを急激に吸い込み、一気に『爆縮』を引き起こしたのだ。


 ドーム状の超高熱が武器庫の内部だけを舐め尽くし、鋼鉄の銃器も、大量の火薬も、一切の爆音を立てることなくドロドロに溶解して崩れ落ちた。


 外を歩いていた見張りの構成員たちは、背後の建物が「音もなく熱で溶け落ちた」ことに、しばらく気づくことすらできなかった。


「……ジーザス。お前、とんでもないモンを作りやがったな」

 遠くから双眼鏡でその光景を見ていたロレンツォは、咥えていた葉巻を落として震え上がった。

 物理的な警備を無に帰す「認識阻害のスキル」と、音もなくすべてを融解させる「魔素の固体化爆弾」。


 ロレンツォの薫陶を受けたアレンは、伝統的なマフィアの力技を『科学とスキルの融合』によって完全に過去のものにし、実行部隊のアンソニーに無敗の進撃をもたらした。

 ヴィットーリオ・ファミリーの勢力が、王都の裏社会でまたたく間に拡大していったのは、必然だった。

お読みいただきありがとうございました。

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