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生きる、何が、あっても  作者: 虹の箸
第二章 相食む。譲れないものがあるから

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終戦

すべてが終わった。

 世界を焼き尽くした巨大な狂熱は鎮火し、勝者と敗者の上に、平等に冷たい灰が降り注いでいた。


 世界大戦は、王国連合軍とステイツの完全なる勝利によって幕を閉じた。


 王都、宰相府の最上階。


 戦後処理と新たな国境線を引くための膨大な書類の山から顔を上げ、ルキウスは一人、執務室の窓辺に立っていた。


 狂人ハトラーという巨大なエラーは排除され、世界は再び彼が構築する計算式の中に収まろうとしている。だが、払った犠牲はあまりにも大きすぎた。焦土と化した同盟国、極東で灰となった数十万の命。


「……平和とは、これほどまでに血の匂いがするものか」

 ルキウスは拳を強く握りしめ、窓ガラス越しに、硝煙が晴れゆく王都の曇り空を見上げた。


これから始まる敗戦国の統治、暴動の鎮圧、そして新しい世界秩序の構築。国家の歯車となった彼に、休息はまだ訪れない。


 海を隔てた新大陸、ステイツ。

 莫大な戦時特需と闇物資の流通によって、ヴィットーリオ・ファミリーの富と権力はもはや一国家を凌駕する怪物へと成長していた。


 不夜城となった巨大カジノホテルの屋上。

アレンは高級なシガーの煙を夜風に吐き出しながら、ネオンの光が届かない遥か遠く、古い大陸の方角の空を見つめていた。


「……悪魔を倒すために、俺たちはそれ以上の悪魔になっちまったな」


 戦後復興という名の、新たな利権と金が渦巻く狂騒の時代。


光の世界からはみ出し、絶望する者たちを束ねるため、アレンは自らこの深い闇の底に君臨し続ける。番犬としての彼の戦いは、むしろこれからが本番だった。


 そして、王都の郊外に広がる巨大な難民キャンプ。

 新型爆弾による絶対的な無力感と絶望に打ち砕かれ、一度は魂を折られた聖王エリアナ。


だが、彼女は再び純白の法衣を泥で汚し、瓦礫の街に立っていた。

「痛みますか? 大丈夫、私がそばにいます」


 傷ついた孤児を抱きしめ、泥にまみれた手で包帯を巻く。


神が沈黙しているのなら、私がすべての罪と矛盾を背負って、この地獄を歩き続ける。

 一仕事を終えたエリアナは、額の汗を拭い、静かに白み始めた夜明けの空を見上げた。


 国家の宰相。裏社会の王。光の聖女。


 かつて、スラムの泥水の中で一枚の毛布を分け合い、理不尽な世界を変えようと誓い合った三人の孤児たち。


 彼らはそれぞれが選んだ役割を見事に演じ切り世界を救ってみせた。だが、その代償として手にした力はあまりにも巨大で、相容れないものになってしまった。


 三つの道は分たれ、その運命が再び交わることは、もう二度とないかもしれない。


 ――しかし


 冷たい風が吹く宰相府の窓辺から。

 ネオンが瞬く新大陸の摩天楼から。

 泥と血にまみれた瓦礫の街から。


 三人が同時に見上げたその『空』だけは、あの日、暗い路地裏から見上げた空と何も変わらず、等しく繋がっていた。


 ルキウスが、軍服の襟を正して作戦会議室へと歩き出す。


 アレンがコンシェーリを読んで部下たちに命令を下す。


 エリアナが、次の傷病兵を救うために救護テントへと駆け出していく。


 交わらぬ道を往く三人の、戦後の混沌を支配するための新たな戦いが、繋がった空の下で、今静かに始まったのである。

お読みいただきありがとうございました。

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