表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

第12話 吸血鬼と符剣士の闘い 2


 ブランとリンゼの闘いは第二ラウンドを迎えようとしていた。ブランは両手に爆符を持ってリンゼを睨んでおり、リンゼは無表情で薄紫の髪をいじっている。両者の間は30歩ほどだ。


(あの技をやるには丁度いい距離だ)


 ブランは左手の爆符を下手投げ(サブマリン)で投擲した。石床をこするように符がリンゼ目掛けて飛ぶ。


発破(ブラスト)


 唱えると飛んでいた爆符が爆発した。床が砕け石粒とホコリが舞い上がり煙幕と化す。その煙幕を突き抜けて二枚の爆符がリンゼへと飛来する。ブランが右手に持っていた符だ。煙幕を作った瞬間に投げていたのだ。


 リンゼは腕を前に突き出した。魔術を放つ準備だろう。


 二枚の爆符が両者の中間地点まで飛んだ所でブランは「旋回」と唱えた。すると爆符が見えない壁を登るように垂直に飛んだ。爆符を追ってリンゼの目が上を向く。


(今だ!)


 煙幕に向けてブランが走り出した。トカゲめいた低姿勢で駆けながら【追風】を唱え加速する。続いて【引出】で剣を取り出した。


 相手が上方の爆符に気を取られている間に接近、剣で足首を狩る。グレイグ流符剣術の技法の一つ、上爆下斬という。


 リンゼまで残り15歩に達したとき、爆符を急降下させた。女吸血鬼は上に向けて【水壁】を放った。それを見てブランは爆符を起爆させる。爆風は【水壁】で防がれるが構わない。本命は斬撃だ。

 残り5歩の地点で足首を切断すべく体幹を捻じる。まだリンゼは上を向いている。


(決まった!)


 決定的な一撃を与えれると思った次の瞬間。ブランは派手に転び、石床に頭をぶつけた。そして顔でスケートするように石床を滑った。


(なんだ? 何が起こった!?)


 石床と激突した衝撃と顔でスケーティングした影響で顔面は血だらけだ。

 だが痛みより先に疑問で頭がいっぱいになった。自分は何をされたのか?


 答えはリンゼの足元にあった。油だ。リンゼは迫り来る爆符を見上げたまま【水術:油池(オイルプール)】を唱え、石床に油だまりを展開。ブランはその油で足を滑らせたのだ。なんという地形と相手の移動速度を利用したカウンターか!


「上に意識を逸らして下から攻撃。まぁ有効よね」


 リンゼが振り向きざまに無感動に言った。


 ブランは血をぬぐいながら歯噛みした。リンゼを見上げていたので、足元の油に気づかなかったのだ。皮肉にもブランがやりたかった攻撃をそのまま返されてしまった。


 ここに来て符剣士の少年はリンゼとの経験値の差を意識し始めていた。

 相手は数百年生きている吸血鬼だ。何度も刺客を返り討ちにしてると言う。上爆下斬と似た技も経験済みなのだろう。


 顔の痛みを(こら)えながら次の手を考える。


(策ではこいつを出し抜けない。なら手数で勝負だ)


 亜空間から剣を二本【引出】した。二刀流だ。

 剣を持った両腕をだらりと下げながらリンゼにジリジリと近づく。


 呼応してリンゼもショーハルを二本【引出】し、二刀流にした。きらびやかなドレスに凶々(まがまが)しい得物が妙にマッチしていた。


 ブランは泰然と待ち構えるリンゼに苛立ちを覚えていた。


(接近戦でも問題ないってか。目にもの見せてやる)


 近づきながら何度も深呼吸し、身体のすみずみまで酸素を行き渡らせる。今度の技は酸素が物を言う。


 剣が届く一歩手前で【剛力】を唱え、一時的に力をブーストする。

 そして間合いに入った途端、リンゼの喉元めがけて右手で突きを繰り出した。

 リンゼはショーハルを身体と平行に構え斧頭を小型の盾とした。その盾で突きをさえぎる。


(まだまだこれからだ)


 ブランは左手、右手、左手と目まぐるしい速さで突きを繰り出し始めた。グレイグ流符剣術の技法の一つ、無吸六四(むきゅうろくし)という。呼吸を止めることで体幹を固定し高速突きを64回繰り出す技だ。ブランはこの技で何体もの怪物を穴だらけにしてきた。


 だがリンゼは落ち着き払って斧頭の盾で突きをさばいている。ブランは上下左右散らしながら突いているがカンカンカンと剣がショーハルに当たる音が響くばかりだ。


(当たるだろ!? 一発ぐらいは!!)


 おお、ご客人はお気づきだろうか? ブランの目的は目の前の吸血鬼を殺すことではなく、一撃加えることに格下げされている! 彼我(ひが)の実力差を無意識に知覚しているのだ。


 結局64回突いても一度もリンゼの肉に刺さることも、ドレスを破くこともなかった。


「くそっ」


 バックステップして距離を取る。長時間の無呼吸により酸欠になった。何度も大きく呼吸をするが心拍が落ち着く気配はない。


「今度はこちらの番ね」


 リンぜは両手にショーハルを持ち無慈悲に接近してくる。

 ブランは走って逃げる余力がない。息が整うまで行動不能になるのが無吸六四の大きな欠点であった。


(息が整うまでこの場でしのぐ)


 【格納】で左手に握っていた剣を仕舞った。非利き腕で持っていてもリンゼの攻撃をさばけないし、剣の重さの分回復も遅くなる。


 リンゼが間合いに入った。途端、リンゼの右手からショーハルが突き出され、槍先がブランを襲う。ブランは上半身を左にひねって回避。

 続いて左手のショーハルが突き出される。剣で弾いて回避。


 先ほどとは逆の格好だ。リンゼの両手からの連続突きをブランがいなしている。

 リンゼの突きは鋭く、当たれば致命傷だが攻撃間隔はそれほど速くない。


(避けれる。避けれるぞ! このまま回避しながら息の回復を待つ!)


 そう思った時だった。カソックコートの(そで)に何かが引っかかった。ブランは袖を見てギョっとした。ショーハルのかぎ爪が引っかかっていたのだ。外そうとするが生地と肉に爪が食い込んでいる。


 うかつであった。ブランはショーハルの斧頭と槍先だけに気を取られ、かぎ爪は意識の外だった。

 リンゼの狙いはまさにこれで、かぎ爪による決定機を掴むため投擲で斧頭を、突きで槍先を意識させてきたのだ。


 リンゼはワニが獲物を沼に引きずり込むような力でショーハルを引いた。連動してブランの身体が引っ張られる。引っ張られた先に待っていたのはリンゼの肘だ。


「ぐあッ!?」


 肘が鼻柱にめり込み反射で目をつむってしまう。完全に無防備だ。

 その隙を逃さずリンゼが腹に前蹴りを放つ。ドンという大きく鈍い音とともにブランは宙に飛ばされた。たっぷり3秒飛んだあと着地。慣性で何回も石床を転がった。


「ガハッ!」


 胃が破裂したかのような激痛だ。床に転がったまま足をじたばたしのたうち回る。その光景を蹴り飛ばされた地点にいた親衛隊員とゼシカたちが冷たい視線を送っていた。


「降参するならこれで終わりにしてあげるけど?」


 リンゼは問いかけたが、こみ上げてきた吐瀉物で喉が詰まり答えられなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ