第四章 第10話 「巡りの座」
九日目。
風は、迷わへん。
伏見。
御香宮神社の門前は、人で満ちていた。
市やない。
祭りでもない。
せやけど――それに近い。
「……えらいことになっとるな」
宗十郎が呟く。
「呼んだ覚えはないで」
喜兵衛が笑う。
「勝手に来とる」
その通りや。
呼んでへん。せやのに、人は集まる。
それが――巡りや。
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中央に、台が据えられている。
その上に並ぶ。
正水紅。
見返り団子。
抹茶きなこのわらび餅。
そして――新しい菓子。
星形の干菓子。
北斗を模した団子。
幸が、小さく言う。
「……星や」
源蔵が笑う。
「今日は金曜や」
弥七が言う。
「羅喉、外れとる」
一拍。
「ええ日や」
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人が、前に出る。
誰も、疑わへん。
誰も、ためらわへん。
ひと口。すぐに言葉が出る。
「軽やかや」
「余韻がええ」
「水みたいや」
同じ言葉や。京で定まり、
ここで――重なる。
紹巴が、それを見ている。
「言葉が、座ったな」
一拍。
「動かぬ」
---
そこへ。
義藤が現れる。
ざわめきが走る。
「将軍家の……」
誰もが道を開ける。
義藤は、静かに台の前に立つ。
菓子を取る。
ひと口。
沈黙。
そして――
「よい」
それだけや。せやけど。
十分や。
空気が、一気に変わる。
「やっぱりな」
「伏見や」
「正水や」
言葉が、広がる。
もう、揺れへん。
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清継は、その場に立っている。
何も言わん。
ただ、見ている。
人が来て、
食べて、
言葉を持ち帰る。
また、戻ってくる。
同じ動き。
同じ流れ。
幸が言う。
「三巡」
清継がうなずく。
「定まったな」
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そのとき。
御香宮の神官が前に出る。
声を張る。
「本日より――」
一拍。
「この地、伏見を」
「巡りの場と定める」
ざわめき。
「将軍家の御名のもと」
「この流れ、守られる」
義藤が、わずかにうなずく。
それだけで――決まる。
宗十郎が、低く言う。
「……区、やな」
喜兵衛が続ける。
「町やない」
弥七が笑う。
「場や」
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風が吹く。
東から、西へ。
南から、北へ。
そして――上から下へ。
すべてが、揃う。
清継が、ぽつりと言う。
「巡っとる」
幸が、静かに言う。
「止まらへん」
義藤が、空を見上げる。
「……これが」
一拍。
「天下の形か」
清継は答えへん。
ただ――一歩、前に出る。
人の中へ。流れの中へ。
「形は、変わる」
一拍。
「せやけど」
「巡りは、残る」
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その日。伏見は――
ただの町やなくなった。
流れが集まり、巡りが交わり、
また外へと広がる。
中心となった。
誰が決めたわけやない。
せやのに――誰もが、そう思う。
それが、定まりや。
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風は、止まらへん。
流れも、止まらへん。
そして――巡りは、終わらへん。
次へ、繋がっていく。
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