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戦国京都流通譚 正水 〜和菓子から始まる“本物”の価値の取り戻し〜  作者: 莵月
第三章(人の証明):巡りの証 ―流通戦―
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第四章 第10話 「巡りの座」

 九日目。


 風は、迷わへん。


 伏見。


 御香宮神社の門前は、人で満ちていた。


 市やない。

 祭りでもない。


 せやけど――それに近い。


「……えらいことになっとるな」

 宗十郎が呟く。

「呼んだ覚えはないで」


 喜兵衛が笑う。

「勝手に来とる」


 その通りや。


 呼んでへん。せやのに、人は集まる。

 それが――巡りや。


 ---


 中央に、台が据えられている。


 その上に並ぶ。


 正水紅。

 見返り団子。

 抹茶きなこのわらび餅。


 そして――新しい菓子。


 星形の干菓子。

 北斗を模した団子。


 幸が、小さく言う。

「……星や」


 源蔵が笑う。

「今日は金曜や」


 弥七が言う。

「羅喉、外れとる」


 一拍。


「ええ日や」


 ---


 人が、前に出る。


 誰も、疑わへん。

 誰も、ためらわへん。


 ひと口。すぐに言葉が出る。


「軽やかや」

「余韻がええ」

「水みたいや」


 同じ言葉や。京で定まり、

 ここで――重なる。


 紹巴が、それを見ている。

「言葉が、座ったな」


 一拍。


「動かぬ」


 ---


 そこへ。

 義藤が現れる。

 ざわめきが走る。


「将軍家の……」


 誰もが道を開ける。

 義藤は、静かに台の前に立つ。


 菓子を取る。

 ひと口。


 沈黙。

 そして――


「よい」


 それだけや。せやけど。


 十分や。

 空気が、一気に変わる。


「やっぱりな」

「伏見や」

「正水や」


 言葉が、広がる。

 もう、揺れへん。


 ---


 清継は、その場に立っている。

 何も言わん。

 ただ、見ている。


 人が来て、

 食べて、

 言葉を持ち帰る。


 また、戻ってくる。


 同じ動き。

 同じ流れ。


 幸が言う。

「三巡」


 清継がうなずく。

「定まったな」


 ---


 そのとき。

 御香宮の神官が前に出る。

 声を張る。


「本日より――」


 一拍。


「この地、伏見を」

「巡りの場と定める」


 ざわめき。


「将軍家の御名のもと」

「この流れ、守られる」


 義藤が、わずかにうなずく。

 それだけで――決まる。


 宗十郎が、低く言う。

「……区、やな」


 喜兵衛が続ける。

「町やない」


 弥七が笑う。

「場や」


 ---


 風が吹く。


 東から、西へ。

 南から、北へ。


 そして――上から下へ。

 すべてが、揃う。


 清継が、ぽつりと言う。

「巡っとる」


 幸が、静かに言う。

「止まらへん」


 義藤が、空を見上げる。

「……これが」


 一拍。


「天下の形か」


 清継は答えへん。

 ただ――一歩、前に出る。


 人の中へ。流れの中へ。


「形は、変わる」


 一拍。


「せやけど」

「巡りは、残る」


 ---


 その日。伏見は――

 ただの町やなくなった。


 流れが集まり、巡りが交わり、

 また外へと広がる。


 中心となった。

 誰が決めたわけやない。

 せやのに――誰もが、そう思う。

 それが、定まりや。


 ---


 風は、止まらへん。

 流れも、止まらへん。


 そして――巡りは、終わらへん。

 次へ、繋がっていく。


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『戦国京都流通譚 正水』

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