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戦国京都流通譚 正水 〜和菓子から始まる“本物”の価値の取り戻し〜  作者: 莵月
第三章(人の証明):巡りの証 ―流通戦―
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第四章 最終話 「灯の巡り」

 夜。

 水の上に、灯が浮かぶ。


 伏見。


 御香宮の門前から、細い流れが川へと続いている。

 その水面に――

 ひとつ、またひとつと灯が置かれる。


 精霊送りや。


 誰が言い出したわけやない。

 せやのに――


 宇治でも、京でも、堺でも。

 同じ夜、同じように灯が流されていた。


 ---


 宇治。


 川霧の中、灯が揺れる。

 茶の香りが、静かに混ざる。


 伊平じいさんが、手を合わせる。

「戻るで」


 誰にともなく言う。


 茶は巡る。

 人も巡る。


 灯も、同じや。


 ---


 京、東山。


 人は多い。

 言葉も、まだある。

 せやけど――

 騒がしくはない。


 整っている。


 紹巴が、灯を見ている。

「言葉も、流れるな」


 一拍。


「残るもんだけが、残る」


 灯が、進む。

 消えるものもある。


 せやけど――

 流れは止まらへん。


 ---


 堺。


 港に、灯が広がる。

 波に揺れ、離れ、また寄る。


 宗十郎が言う。

「ええもんは、戻るな」


 喜兵衛が笑う。

「人もや」


 金も、物も、人も。

 巡る。

 せやから、続く。


 ---


 山。


 鞍馬。


 弥七が、遠くの灯を見る。

「全部、繋がっとる」


 一言だけや。

 それで十分やった。


 ---


 伏見。


 御香宮の前。

 人は多い。


 せやけど、静かや。

 誰もが、灯に手を添える。


 祈る者。

 見送る者。

 何も言わん者。


 すべてが――そこにある。


 ---


 清継が、灯をひとつ流す。

 水は、澄んでいる。


 伏水や。


 鉄の少ない、やわらかい水。

 灯は、揺れずに進む。


「……ええ水や」


 ぽつりと。


 幸が横に立つ。

「流れるな」


 清継がうなずく。

「止まらへん」


 一拍。


「戻る」


 義藤が、少し離れて立っている。

 その様を見ている。


「……巡りか」

 小さく呟く。


 清継が言う。

「終わりやない」


 一拍。


「始まりや」


 幸が、静かに言う。

「止まらへん」


 義藤が、わずかに笑う。

「止めぬ限り、な」


 ---


 風が吹く。強くはない。

 せやけど――


 すべてを繋ぐ風や。


 東から西へ。

 南から北へ。


 そして――

 上から下へ。

 灯が、揺れる。


 せやけど、消えへん。


 ---


 清継が、空を見上げる。

 星は、薄くしか見えへん。


 せやけど――そこにある。


「人は、地に生まれ」


 ぽつりと。


 義藤が続ける。

「天をいただく」


 幸が言う。

「その中で、生きる」


 一拍。


 清継が言う。

「巡る」


 沈黙。


 風が、ひとつ通る。

 灯が、流れる。

 ひとつの中心から、

 八方へと広がり、


 また、戻る。


 一と八。九つの巡り。

 閉じへん。終わらへん。


 ---


 その夜。


 誰も、知らんかった。

 この小さな灯が、

 やがて大きな流れを変えることを。


 せやけど――ひとつだけ、確かなことがある。

 流れは、止まらへん。


 巡りは、続く。

 そして――還る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

本編は本話をもって完結とします。

数々の伏線はこちらの「茶太郎がいく」の物語が絡み合いながら交差する予定です。

是非、引き続きご笑読、お楽しみください。


〇茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~

 URL:https://ncode.syosetu.com/n5482ml/

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『戦国京都流通譚 正水』

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