第四章 最終話 「灯の巡り」
夜。
水の上に、灯が浮かぶ。
伏見。
御香宮の門前から、細い流れが川へと続いている。
その水面に――
ひとつ、またひとつと灯が置かれる。
精霊送りや。
誰が言い出したわけやない。
せやのに――
宇治でも、京でも、堺でも。
同じ夜、同じように灯が流されていた。
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宇治。
川霧の中、灯が揺れる。
茶の香りが、静かに混ざる。
伊平じいさんが、手を合わせる。
「戻るで」
誰にともなく言う。
茶は巡る。
人も巡る。
灯も、同じや。
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京、東山。
人は多い。
言葉も、まだある。
せやけど――
騒がしくはない。
整っている。
紹巴が、灯を見ている。
「言葉も、流れるな」
一拍。
「残るもんだけが、残る」
灯が、進む。
消えるものもある。
せやけど――
流れは止まらへん。
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堺。
港に、灯が広がる。
波に揺れ、離れ、また寄る。
宗十郎が言う。
「ええもんは、戻るな」
喜兵衛が笑う。
「人もや」
金も、物も、人も。
巡る。
せやから、続く。
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山。
鞍馬。
弥七が、遠くの灯を見る。
「全部、繋がっとる」
一言だけや。
それで十分やった。
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伏見。
御香宮の前。
人は多い。
せやけど、静かや。
誰もが、灯に手を添える。
祈る者。
見送る者。
何も言わん者。
すべてが――そこにある。
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清継が、灯をひとつ流す。
水は、澄んでいる。
伏水や。
鉄の少ない、やわらかい水。
灯は、揺れずに進む。
「……ええ水や」
ぽつりと。
幸が横に立つ。
「流れるな」
清継がうなずく。
「止まらへん」
一拍。
「戻る」
義藤が、少し離れて立っている。
その様を見ている。
「……巡りか」
小さく呟く。
清継が言う。
「終わりやない」
一拍。
「始まりや」
幸が、静かに言う。
「止まらへん」
義藤が、わずかに笑う。
「止めぬ限り、な」
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風が吹く。強くはない。
せやけど――
すべてを繋ぐ風や。
東から西へ。
南から北へ。
そして――
上から下へ。
灯が、揺れる。
せやけど、消えへん。
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清継が、空を見上げる。
星は、薄くしか見えへん。
せやけど――そこにある。
「人は、地に生まれ」
ぽつりと。
義藤が続ける。
「天をいただく」
幸が言う。
「その中で、生きる」
一拍。
清継が言う。
「巡る」
沈黙。
風が、ひとつ通る。
灯が、流れる。
ひとつの中心から、
八方へと広がり、
また、戻る。
一と八。九つの巡り。
閉じへん。終わらへん。
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その夜。
誰も、知らんかった。
この小さな灯が、
やがて大きな流れを変えることを。
せやけど――ひとつだけ、確かなことがある。
流れは、止まらへん。
巡りは、続く。
そして――還る。
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本編は本話をもって完結とします。
数々の伏線はこちらの「茶太郎がいく」の物語が絡み合いながら交差する予定です。
是非、引き続きご笑読、お楽しみください。
〇茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~
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