第四章 第7話 「星と風の返り」
三日後。
風は、止まってへん。
兵庫で始まった味は、堺に渡り、
堺の値は、京へ入り、京の言葉は、伏見へ戻り始めていた。
――巡りの一巡目や。
伏見。
通りの端で、ひとりの僧が座していた。
黒衣。
頭を低く垂れ、何かを見ている。
砂の上に、円と線が引かれている。
「……星か」
清継が言う。
僧は顔を上げる。
「星やない」
静かな声や。
「時や」
一拍。
「そして、方向や」
幸が、その図を見る。
「八方」
僧がうなずく。
「延暦寺の星供法や」
弥七が、目を細める。
「比叡のもんか」
僧は笑わん。
「流れを読むには、空も見る」
清継が座る。
「で、何が見える」
僧は、線を指でなぞる。
「吉方位」
東を指す。
「山科・醍醐」
「米、薪、紙、酒――安定する」
北東。
「京の市中」
「技が集まる」
南西。
「宇治」
一拍。
「茶や」
幸が、ぽつりと。
「生命線」
僧が、わずかにうなずく。
「その通りや」
清継は、静かに笑う。
「決まりやな」
一拍。
「茶、強める」
お葉が言う。
「宇治、増やすで」
僧は続ける。
「凶もある」
西を指す。
「山崎・淀」
一拍。
「三好が揺れる」
南。
「木津・奈良」
「興福寺の影」
北。
「洛北」
「比叡が動く」
弥七が、鼻で笑う。
「全部、当たっとるな」
僧は答えへん。
ただ――空を見た。
「星は、決めへん」
一拍。
「示すだけや」
義藤が、その言葉を聞いている。
「……人が選ぶ、か」
僧がうなずく。
「せや」
清継が、ゆっくり言う。
「ほな、使う」
一拍。
「山崎は避ける」
「宇治は取る」
「京は学ぶ」
幸が言う。
「流れ、合う」
そのとき。
弥七が、別の紙を出す。
「こっちもや」
書かれている。
羅喉日。
金曜。
角宿。
「今日、角や」
弥七が言う。
「三好、動くで」
空気が変わる。
お葉が言う。
「ほな、今日は閉めるか」
清継は首を振る。
「逆や」
一拍。
「開ける」
沈黙。
「なんでや」
宗十郎が問う。
清継が答える。
「人が来る日や」
一拍。
「怖い日は、人は集まる」
幸がうなずく。
「確かめに来る」
清継が続ける。
「せやから」
「今日、出す」
源蔵が笑う。
「団子やな」
清継がうなずく。
「金曜や」
一拍。
「多めに作る」
僧が、静かに言う。
「星供の日は、客が増える」
紹巴が続ける。
「言葉も増える」
清継が、指を鳴らす。
「ほな、決まりや」
一拍。
「星に合わせる」
幸が言う。
「時間や」
清継がうなずく。
「縦や」
弥七が笑う。
「横は、もう回っとる」
兵庫。
堺。
京。
風は、返り始めている。
そこに――時が乗る。
清継が、最後に言う。
「星は、流れやない」
一拍。
「せやけど」
「巡りを早める」
義藤が、静かに笑う。
「……天、やな」
清継が答える。
「地は揃った」
「人も動いとる」
一拍。
「これで――」
空を見上げる。
「三つ揃う」
風が、吹く。
今度は――上からや。
その日。流れは、ただ返るだけやなかった。
加速し始めた。




