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戦国京都流通譚 正水 〜和菓子から始まる“本物”の価値の取り戻し〜  作者: 莵月
第三章(人の証明):巡りの証 ―流通戦―
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第四章 第5話 「八方の座」

 伏見、御香宮神社門前。


 夕刻。

 風が、境内を抜ける。


 どこからともなく来て、どこへともなく去る。

 せやのに――

 方向を持っている。


「……集まったな」

 清継が言う。


 円を描くように、人が座している。


 義藤。

 幸。

 お葉。

 弥七。

 源蔵。

 宗十郎。

 喜兵衛。

 紹巴。


 誰もが感じている。

 これは、ただの寄り合いやない。


 清継が、地面に指を置く。

 土に、線を引く。

 十字。


「四方や」


 さらに斜めに線を足す。


「八方や」


 風が、その線の上をなぞる。


 清継が言う。

「一年に四季あり」

「四季に四方がある」


 一拍。


「地にも四方」

「天にも四方」

「合わせて、八方」


 紹巴が笑う。

「言葉にすると、整いすぎておる」


 幸がぽつりと。

「風」


 弥七がうなずく。

「八風や」


 義藤が言う。

「風は、言葉や」


 一拍。


「人を動かす」


 清継が、中心を指で押す。


「ここが、伏見や」

 円の中心。

「全部が、ここへ来る」


 宗十郎が笑う。

「大きく出たな」


 清継は否定せん。

「来とるやろ」


 一拍。


「堺から金」


「兵庫から物」


「山から情報」


 幸が言う。

「京から言葉」


 紹巴が続ける。

「宮中から価値」


 義藤が言う。

「幕府から秩序」


 空気が、重くなる。


 清継が言う。

「崩すもんも、来とる」


 沈黙。

 やがて、清継はもう一本、線を引く。


 縦や。円を貫く。


「……これは何や」

 源蔵が問う。


 清継は答える。

「時間や」


 一拍。


「春、夏、秋、冬」

「巡るもんや」


 幸が小さくうなずく。

「戻る」


 清継が続ける。


「横は、広がる」

「縦は、巡る」


 義藤が、その線を見る。


 静かに言う。

「交わるな」


 清継はうなずく。

「せや」


 指で交点を叩く。

「ここで、交わる」


 一拍。


「縦と横が交わると」

「循環になる」


 風が、強く吹く。

 四方から、違う風が混ざる。


 清継が、低く言う。

「循環は、止まらん」


 一拍。


「巡り続ける」


 紹巴が目を細める。

「……無限か」


 清継が、わずかに笑う。

「せや」


 一拍。


「縦と横の循環で」

「無限の巡りになる」


 沈黙。


 誰もが、その形を見ている。

 まだ見えへん。せやけど――

 確かに、ある。


 義藤が、ゆっくり口を開く。

「ならば」


 一拍。


「この場は、起点やな」


 清継がうなずく。

「せや」


 幸が言う。

「ここから、戻す」


 弥七が笑う。

「裏も回すで」


 源蔵が言う。

「酒で流す」


 喜兵衛が言う。

「人で繋ぐ」


 紹巴が言う。

「言葉を整える」


 義藤が言う。

「秩序を保つ」


 最後に。清継が言う。

「全部を、巡らせる」


 風が止む。一瞬の静寂。

 その場に――

 形が生まれていた。


 八方が広がり、時間が貫き、

 交わりが巡る。


 それはもう、ただの流れやない。

 意志を持った循環や。


 これより。世界は――

 回り続ける。


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『戦国京都流通譚 正水』

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