第三章 第18話 「揺らぐ信用」
伏見。
流れは、止まっていない。
だが――空気が変わっていた。
「……聞いたか。」
「混じっとるらしいで。」
「酒も、菓子も……」
声は小さい。
だが、確実に広がる。
お葉が振り向く。
「誰が言うとるん。」
商人は目を逸らす。
「……京でな。」
一拍。
「検問で聞いた。」
沈黙。
弥七が低く言う。
「流しよったな。」
幸が帳面を握る。
「速すぎます。」
「情報が回る速度が……」
清継は短く言う。
「意図的や。」
その頃――
京。検問所。
兵たちが、何気なく話している。
「伏見の荷な……」
「気ぃつけや。」
「混じっとるらしいで。」
別の兵が笑う。
「ほんまかいな。」
「上からや。」
一拍。
「言うとけ、てな。」
その言葉は軽い。
だが――命令だった。
場面が変わる。
薄暗い座敷。
酒が注がれる。
宗歓の前に、男が座る。
武家の気配。
「動きは。」
宗歓が問う。
男は答える。
「揺れております。」
「伏見の信用が。」
宗歓は杯を回す。
「良い。」
一口。
「疑いは、流れを止める。」
男が言う。
「さらに押さえますか。」
宗歓は、わずかに首を振る。
「押さえすぎるな。」
一拍。
「自ら崩れる。」
その言葉に、男は頷く。
その衣の紋。かすかに見える。
”三つの巴”
伏見。
商人たちの顔が、変わっていた。
「……ほんまに大丈夫なんか。」
「前は通ったけどな……」
「今は、分からん。」
一人が、荷を引き返す。
その動きが、波紋のように広がる。
弥七が舌打ちする。
「来たな。」
お葉が叫ぶ。
「止まらんで!」
だが――
人の足が鈍る。それは、力では止められない。
“疑い”だった。
幸が言う。
「このままでは……」
清継は動かない。ただ、見ている。
川を。流れを。
そのとき――甚八が戻る。
「源は、京や。」
一拍。
「検問から広がっとる。」
弥七が吐き捨てる。
「やっぱりな。」
甚八が続ける。
「ただ――」
「それだけやない。」
全員が見る。
「中にも、撒いとる。」
沈黙。
お葉が低く言う。
「……両方か。」
幸が呟く。
「外と内……」
清継が、ようやく口を開く。
「挟んできたな。」
一拍。
「見事や。」
弥七が苛立つ。
「褒めとる場合か。」
清継は静かに言う。
「分かった。」
「勝ち筋もな。」
お葉が振り向く。
「ほんまに?」
清継は頷く。
「疑いは――」
一拍。
「消せへん。」
沈黙。
「ならどうする。」
弥七が問う。
清継は答える。
「越える。」
その言葉に、空気が止まる。
幸が言う。
「越える……?」
清継は続ける。
「疑われても、選ばれる。」
「それを見せる。」
お葉が息を呑む。
「……できるんか。」
清継は答える。
「やる。」
短い言葉。だが、揺らがない。
弥七が笑う。
「ほな、付き合うわ。」
甚八が言う。
「全部、押さえる。」
幸が頷く。
「記録、揃えます。」
お葉が拳を握る。
「人、集める。」
清継は、川を見る。流れは揺れている。
だが――
止まってはいない。
「明日や。」
一拍。
「全部、見せる。」
風が吹く。その風は、冷たい。
伏見の空気が揺れる。
人が迷う。
だが――
それでも流れは、まだ残っている。
この一手で、すべてが決まる。
伏見が、“選ばれる場所”になるか。
それとも――
ただの通過点に戻るか。
勝負は、明日だった。




