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戦国京都流通譚 正水 〜和菓子から始まる“本物”の価値の取り戻し〜  作者: 莵月
第一章(天の芽):水の目覚め ―伏水の兆し―
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■ 第17話「行雲流水」

 流れは、止まらへん。

 形を変えて――続いていく。


 京の町は、いつも通りやった。


 声があり、物が動き、人が選ぶ。

 せやけど。

 どこか――違う。


「これ、ええな」


 迷いながら、手に取る。

 前みたいに、決め打ちはせえへん。

 少し考えて。

 選ぶ。


 それだけの違い。

 せやけど――大きい。


 覚えたもんが、残っている。


「……変わったな」


 弥七が、ぽつりと言う。


「ああ」


 わしは、うなずく。

 流れは、整ってきた。

 せやけど――


 終わりやない。

 続いていくもんや。


 ――石清水。


 人が、集まる。

 今日は、神事や。


 湯立。


 火が焚かれ、水が据えられる。

 静かな緊張が、場を包む。

 誰も、大きな声は出さん。

 せやけど――目が、離れへん。


 神職が、進み出る。

 所作は、無駄がない。

 ゆっくりと、水を扱う。

 火が、水を変える。

 静かな音。


 やがて。


 湯が、立つ。

 白い気が、上がる。


 まっすぐやない。

 揺れながら。

 広がっていく。


 誰も、触れてへん。

 せやのに――

 空気が、変わる。


「……ああ」


 誰かが、息を吐く。

 理由は、いらん。

 感じるだけや。


 神職が、笹を取る。

 湯に、くぐらせる。

 そして――振る。

 しぶきが、飛ぶ。


 細かく。

 柔らかく。

 人に、かかる。

 避けるもんは、おらん。


 受ける。


 静かに。


 それぞれに。

 同じやない。

 せやけど――分けられる。


「旦那……」


 幸が、小さく言う。


「ああ」


 わしは、うなずく。


 見えへんもんが、通っていく。

 言葉やない。

 形やない。

 せやけど――残る。


 結びが。


 そのときや。

 子どもが、手を伸ばす。

 しぶきを受けて、笑う。

 それを見て。

 周りも、少し笑う。


 広がる。

 小さく。

 確かに。


「……ええな」


 弥七が、低く言う。


「ああ」


 それだけで、十分や。


 神事が、終わる。

 人が、ゆっくりと動き出す。

 急がへん。

 押し合わへん。

 それぞれの歩みで。

 流れていく。


 ――帰り道。


 幸が、手にしている。


 組紐や。

 あの結び。


「持っときます」


 静かに言う。


「ああ」


 わしは、うなずく。

 それでええ。

 誰のもんでもない。

 せやけど――繋がっている。


「旦那」


 弥七が、前を見たまま言う。


「これから、どうする」


 わしは、少し考える。

 せやけど――答えは、決まっている。


「流す」


 それだけや。

 整えて。

 濁さず。

 止めず。


「残るように」


 間。


 弥七が、笑う。


「欲張りやな」


「せやな」


 わしも、笑う。

 空を見る。

 雲が、流れている。

 形は、変わる。


 せやけど――消えへん。


 続いていく。

 水みたいに。

 人の流れも。


 思いも。


「行こか」


 そう言うて、歩き出す。

 特別な道やない。

 せやけど――続く道や。


 後ろで。

 誰かが、結びを見ている。


 前で。

 誰かが、選んでいる。


 流れは、もう――止まらへん。


 整いながら。

 結ばれながら。

 ほんまもんが、残るように。


 それで、ええ。


 それが――ええ。


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