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■ 第11話「京へ」

 流れは、集まる。

 人も、物も、思いも。

 そのすべてが――京に向かう。


 都に入った瞬間、空気が変わる。

 人の多さやない。

 濃さや。


 声が重なり、匂いが混ざり、視線が交わる。

 それぞれが、それぞれの思惑で動いている。


「……違うな」


 わしが、ぽつりと言う。

 伏見とは、別もんや。


「せやろ」


 弥七が、肩をすくめる。


「ここは、全部が“値打ち”になる」


 人も。

 物も。

 言葉も。


「せやから、歪む」


 幸が、静かに言う。


 その通りや。

 正しさやない。

 選ばれるかどうか。

 それだけで、すべてが決まる。


 通りには、菓子が並ぶ。

 色とりどり。

 見事なもんや。


「見てみ」


 弥七が、あごで示す。


 並んでいる。


 正水。


 ――そして、似たもん。

 形は同じ。

 包みも、似せてある。


「……ようやるな」


 わしが言う。


「よう売れてます」


 幸が、静かに観察する。

 人が、迷いもせず手に取る。


「内裏でも評判やて」


 そんな声が、どこからか聞こえる。

 その一言で――流れが決まる。


「ほな、間違いないな」


 誰かが言う。

 誰も、疑わん。


「……これが、京か」


 わしは、小さく息を吐く。

 強い。

 あまりにも。


「旦那」


 幸が、こちらを見る。


「ここで、どうします」


 問いは、まっすぐや。

 逃げ場は、ない。


「変える」


 わしは、はっきり言う。


 間。


 弥七が、わずかに笑う。


「言うなぁ」


「無理や思うか」


「思うで」


 即答や。

 せやけど。


「せやから、やるんやろ」


 その通りや。

 簡単やったら、意味がない。


「流れは、ひとつやない」


 わしは、ゆっくり言う。


「伏見で見たやろ」


 比べた人は、戻らん。

 少なくても――残る。


「ここでも、同じや」


 京でも。

 宮中でも。

 人が選ぶ限り――変わる余地はある。


「……細いで」


 弥七が言う。


「ええ」


 幸が答える。


「せやけど、消えません」


 その声は、静かや。

 せやけど――揺れへん。


「育てます」


 その一言に、重みがある。

 わしは、うなずく。


「せやな」


 歩き出す。

 京の中へ。

 人の流れに、紛れる。

 せやけど――飲まれへん。


「旦那」


 弥七が、小さく言う。


「気ぃつけや」


「何にや」


「全部や」


 短い答え。

 その意味は、重い。

 ここでは――

 誰が見ているか、分からん。

 誰が動かしているかも。

 せやけど。


「見に来たんや」


 わしは言う。


「流れの元をな」


 逃げへん。

 目ぇ逸らさん。

 それだけや。

 そのときや。


 ふと、視線を感じる。


 振り向く。


 人混みの向こう。

 誰かが、こちらを見ていた。


 一瞬。

 すぐに、消える。


「……見られてるな」


 弥七が、低く言う。


「ああ」


 せやろな。

 ここまで来たんや。

 当然や。


「ちょうどええ」


 わしは、前を向く。


「向こうも、気づいた」


 なら――話は早い。


「旦那」


 幸が、静かに言う。


「伝えましょう」


「何をや」


 間。


「何を残したいか、です」


 その言葉に、足が止まる。

 何を残すか。

 ただ売るんやない。

 ただ勝つんやない。


「……せやな」


 わしは、ゆっくりとうなずく。

 京の空は、高い。

 せやけど――重い。

 人の思いが、積もっている。

 その中で。


「わしはな」


 ぽつりと、言葉が出る。

 幸と弥七が、こちらを見る。


「ほんまもんを、残したい」


 それだけや。


 間。


「嘘で固めたもんは、崩れる」


 時間がかかっても。


 必ずや。


「せやから」


 一歩、踏み出す。


「流れを、整える」


 奪うんやない。

 ねじ曲げるんやない。


「戻すんや」


 本来の形に。

 幸が、深くうなずく。

 弥七が、小さく笑う。


「……ええやん」


 その一言で、十分や。

 京は、動いている。

 人が動き、言葉が動き、値打ちが動く。

 その中に、入る。


 飲まれずに。

 流されずに。


「行くで」


 そう言うて、歩き出す。


 流れの中へ。


 ほんまもんを、残すために。


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