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【星屑『冥門に繋がれし三つ首』の強制降臨を開始します】
その通知が表示された直後、夜空が軋んだ。
空そのものに亀裂が入ったような、低く不気味な音が住宅街へ響き渡る。
目の前に出現した黒いゲートは、周囲の光を吸い込みながら少しずつ広がっていった。
ゲートの奥には、何も見えない。
ただ、底のない闇だけが広がっている。
その闇の中から、何かがこちらを見ていた。
姿は見えない。
それでも分かる。
あれは、俺たちとは存在そのものが違う。
身体が動かない。
先ほどグルガルドに吹き飛ばされたせいだけではない。
本能が命令していた。
見るな。
近づくな。
逃げろ。
だが、指一本動かすことすらできなかった。
【警告:世界境界の損傷率が上昇しています】
【警告:対象存在の完全降臨は許可できません】
【対象存在の行動を制限します】
【降臨可能領域を再設定します】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』の一部降臨を許可します】
ゲートの奥で、巨大な鎖が擦れる音がした。
ジャラリ。
ジャラリ。
地面が揺れる。
次の瞬間、闇の中から巨大な前脚が現れた。
黒い毛に覆われた脚。
先端には、人間の身体など簡単に引き裂けそうな爪が並んでいる。
それだけで、グルガルドの全身を上回るほど巨大だった。
続いて、闇の中に三対の赤い瞳が開く。
「三つ首……」
俺は息を呑んだ。
ゲーム内で倒したケルベロス。
その姿と、どこか似ていた。
だが、違う。
ゲームの中で戦ったものとは比べものにならない。
あれが偽物だったとは思わない。
それでも、目の前にいる存在は、まるでケルベロスという伝承そのものだった。
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が現世を観測します】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、あなたの存在を認識しました】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』は、朝倉レイに対する敵対行動を制限されています】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』は、対象のグルガルドへ直接干渉できません】
六つの瞳が、まっすぐ俺へ向けられる。
その瞬間、頭の中へ何かが流れ込んできた。
怒り。
警戒。
そして、かすかな興味。
言葉ではない。
それでも、感情だけははっきりと伝わってくる。
「俺を……知ってるのか?」
返事はない。
代わりに、星屑の視線が俺のアイテム欄へ向けられたような気がした。
【特殊アイテム《天命簒奪の輪》が、星屑の異権に反応しています】
「これに?」
俺がメニューへ意識を向けた瞬間、《天命簒奪の輪》が勝手に実体化した。
青白い粒子が集まり、黒い金属で作られた輪となって地面へ落ちる。
中央には、血のように赤い宝石が埋め込まれていた。
それを見た瞬間、ゲートの奥から低い唸り声が響いた。
大気が震え、近くの窓ガラスに細かな亀裂が走る。
星屑は、このアイテムを知っている。
しかも、好意的な反応ではない。
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、《天命簒奪の輪》に強い敵意を示します】
「やっぱり、ろくなアイテムじゃないな……」
そのとき、グルガルドが動いた。
先ほどまで星屑の存在に怯えて後退していたが、逃げ場がないと悟ったらしい。
背中の毛を逆立て、低い唸り声を上げている。
【中級魔獣が恐怖状態になりました】
【全能力が一時的に低下します】
【星座『万の遠吠えに応える星』が、星屑の介入に不満を示します】
【星座『均衡と平等を求める星』が、戦力差は是正されたと主張します】
戦力差の是正。
つまり、『均衡と平等を求める星』は俺を助けたいわけではない。
敵だけが一方的に強化されたから、その差を戻しただけだ。
グルガルドを倒すのは、あくまで俺自身。
「十分だ……」
俺は瓦礫へ手をつき、震える脚に力を込めた。
身体中が痛い。
呼吸をするたび、肋骨の奥が軋む。
右手に握った剣には、大きな亀裂が入っていた。
【《見習い騎士の鉄剣》の耐久値が低下しています】
【警告:耐久値が0になった装備は消滅します】
【残り耐久値:24/100】
あと一度。
まともに攻撃を受ければ、剣は壊れる。
俺も同じだ。
次にグルガルドの攻撃を受ければ、立ち上がることはできない。
それでも、先ほどまでとは違う。
グルガルドは恐怖によって動きが鈍っている。
首元を覆っていた針のような毛も、力を失ったように垂れ下がっていた。
倒すなら、今しかない。
【残り時間 00:41】
時間もない。
俺は剣を構え、グルガルドを見据えた。
「一撃で決める」
グルガルドが四本の脚へ力を込めた。
能力が低下しているとはいえ、中級魔獣であることに変わりはない。
次の瞬間、グルガルドが地面を蹴った。
【スキル《危機察知Lv.6》が発動しました】
視界に赤い軌道が浮かぶ。
正面から右の爪を振り下ろし、そのまま身体を回転させて左の爪を横薙ぎに振るう。
ゲーム内で何度も見た連続攻撃。
だが、知っているだけでは避けられない。
今の身体では、最初の一撃を避けるだけで精いっぱいだ。
俺は地面を蹴り、右へ飛んだ。
グルガルドの爪が、頬のすぐ横を通り過ぎる。
続いて左の爪が迫る。
避けられない。
俺は剣を斜めに構え、攻撃を受け流した。
ガギィン――!
耳をつんざくような音が響く。
剣に入っていた亀裂が、一気に広がった。
【《見習い騎士の鉄剣》の耐久値が限界に達しました】
【残り耐久値:3/100】
「まだだ!」
攻撃を受け流した勢いのまま、俺はグルガルドの懐へ潜り込む。
首元。
先ほど斬りつけた傷。
そして、進化した際に生じた皮膚の裂け目。
三つの弱点が一直線に重なっている。
残っている魔力を、《中級身体強化》へ注ぎ込む。
【《中級身体強化》へ追加の魔力が投入されました】
【スキル効果を一時的に増幅します】
右脚を踏み込む。
腰を回す。
腕だけではなく、身体のすべてを刃へ乗せる。
《上級剣術》が、最も深く剣を通す軌道を示していた。
グルガルドが口を開く。
牙が迫る。
一瞬でも遅れれば、俺の頭は噛み砕かれる。
それでも、剣を止めなかった。
「これで――終わりだ!」
剣を振り抜く。
刃は垂れ下がった毛を切り裂き、傷口の奥へ深く食い込んだ。
グルガルドの動きが止まる。
次の瞬間。
《見習い騎士の鉄剣》が、甲高い音を立てて砕けた。
折れた刃が宙を舞う。
だが、剣先はグルガルドの首を半ばまで切り裂いていた。
赤黒い血が噴き出す。
「グルルァァァァッ!」
グルガルドが苦悶の咆哮を上げた。
まだ生きている。
俺は咄嗟に、地面へ落ちた折れた剣先を掴んだ。
手のひらが裂け、血が流れる。
構うものか。
最後の力を振り絞り、傷口へ剣先を突き立てる。
「倒れろぉぉぉッ!」
刃が首の奥へ沈んだ。
グルガルドの巨体が大きく揺れる。
赤く光っていた瞳から、ゆっくりと光が消えていく。
そして。
地響きを立てながら、巨大な身体が道路へ崩れ落ちた。
【中級魔獣を討伐しました】
【緊急シナリオの対象が討伐されました】
【対象市民の生存を確認しました】
【緊急シナリオをクリアしました】
【残り時間 00:07】
「……間に合った」
力が抜け、その場へ膝をつく。
グルガルドの身体が青白い粒子となり、夜空へ昇っていく。
その粒子の中から、小さな赤い結晶が地面へ落ちた。
【中級魔獣の魔核を獲得しました】
【大幅なレベル差のある対象を討伐しました】
【格上討伐補正が適用されます】
【大量の経験値を獲得しました】
【Lv.1からLv.4へ上昇しました】
【ステータスポイントを3獲得しました】
【シナリオ難易度の上昇に伴い、追加報酬を精算します】
【スキル獲得権を1獲得しました】
通知が次々と表示される。
だが、喜んでいる余裕はなかった。
目の前には、まだ黒いゲートが存在している。
ゲートの奥に浮かぶ三対の瞳が、俺を見下ろしていた。
【星座『均衡と平等を求める星』は、均衡が回復したことに満足しています】
【星座『万の遠吠えに応える星』が、あなたの狩りに称賛を送ります】
「敵を強化したのは、そっちだろ……」
俺が呟いても、『万の遠吠えに応える星』から返事はなかった。
代わりに、ゲートの奥から鎖の音が響く。
星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、ゆっくりと顔を近づけてきた。
三つの頭部。
黒い毛。
燃えるような六つの瞳。
中央の頭部が口を開く。
牙の隙間から漏れた息だけで、道路に亀裂が走った。
俺は動けなかった。
グルガルドとは比べものにならない。
戦うという考えすら浮かばなかった。
だが、星屑は俺へ襲いかからない。
その視線は、地面に落ちている《天命簒奪の輪》へ向けられていた。
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、特殊アイテム《天命簒奪の輪》の再構築を要求します】
【再構築により、対象の天命を簒奪する権限が制限されます】
「力を……弱くするってことか?」
《天命簒奪の輪》は、装着した対象の天命へ干渉し、その支配権を一時的に奪うアイテムだ。
星屑が警戒するのも当然かもしれない。
この輪が星屑にまで通用するのだとすれば、首へ装着させることさえできれば、目の前の怪物すら支配できる可能性がある。
だが、一方的に力を奪われることを、システムが認めるのだろうか。
そう考えた直後、新たな通知が表示された。
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、再構築に対する対価を提示しました】
【異権《三冥の番鎖》に属する技の伝承を提案します】
【伝承対象:朝倉レイ】
「異権の……技?」
異権。
その言葉には聞き覚えがなかった。
スキルでも、星座が行使する権能でもない。
星屑だけが持つ、別種の力なのだろうか。
【取引内容を確認します】
==================
特殊取引
《天命簒奪の輪》の再構築
・天命への完全支配権限を封印
・装着対象への敵対行動制限へ変更
・アイテム等級を再測定
対価
異権《三冥の番鎖》に属する技を一つ伝承
==================
【この取引を承認しますか?】
完全な支配能力を失う。
それがどれほど大きな損失なのか、今の俺には判断できない。
そもそも、対象の首へ輪を装着させなければ使えない以上、簡単に扱えるアイテムでもなかった。
それに、等級さえ測定できない力を持ち続けることには危険もある。
目の前の星屑が、ここまで強い敵意を向けるほどの力だ。
代わりに得られるのは、星屑が持つ異権の技。
どちらが価値のあるものなのかは分からない。
だが、少なくとも一方的に力を奪われるわけではない。
「……承認する」
【特殊取引を承認しました】
【《天命簒奪の輪》の再構築を開始します】
地面に落ちていた黒い輪が、青白い光に包まれた。
中央に埋め込まれていた赤い宝石へ、黒い鎖のような模様が浮かび上がる。
【天命への完全支配権限を封印しました】
【異権《三冥の番鎖》の性質を一部付与します】
【特殊アイテムの再構築が完了しました】
==================
天命簒奪の輪
等級:A+
所有者:朝倉レイ
帰属状態:譲渡不可
効果:
装着対象の行動を一時的に制限する。
使用条件:
対象の首へ直接装着する。
詳細:
装着中の対象は、所有者である朝倉レイに対して敵対行動を行えない。
対象の意思や能力を超える要求は、拒絶される場合がある。
使用者と対象の力量差に応じて、効果時間が変動する。
==================
元の能力と比べれば、明らかに弱体化している。
相手の身体を完全に支配できるわけではない。
それでも、敵対行動を封じられるだけで十分に強力だ。
そして、取引はまだ終わっていなかった。
ゲートの奥から、巨大な鎖が擦れる音が響く。
星屑の三つの頭部が、同時に俺を見据えた。
【取引条件に基づき、異権の伝承を開始します】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、異権《三冥の番鎖》を行使します】
黒いゲートの奥から、一本の鎖が飛び出した。
避ける間もなく、鎖の先端が俺の胸へ突き刺さる。
「ぐっ――!」
痛みはない。
だが、凍りつくような冷たさが胸から全身へ広がっていく。
脳裏に、見たことのない光景が流れ込んできた。
底の見えない冥府。
死者の群れ。
冥門の前に立ち、三つの頭で異なる世界を見張る巨大な番犬。
その身体には無数の鎖が巻きつき、門を越えようとする者を捕らえていた。
鎖は、肉体だけを縛るものではない。
力を。
意思を。
存在そのものを、その場へつなぎ止めるものだ。
「これが……《三冥の番鎖》……」
【異権の伝承に成功しました】
【現在の器では、異権そのものを継承できません】
【異権《三冥の番鎖》に属する技を、スキルとして再構築します】
【特殊スキル《冥縛鎖》を獲得しました】
==================
冥縛鎖
分類:異権派生スキル
等級:D
タイプ:成長型
消費魔力:10
効果:
指定地点から冥界の鎖を出現させ、対象一体を拘束する。
拘束力と効果時間は、使用者と対象の能力差によって変動する。
追加効果:
魔獣、霊体、冥界に属する存在への拘束力が上昇する。
現在の制限:
同時に出現させられる鎖は一本のみ。
対象との力量差が大きい場合、鎖は破壊される。
==================
「成長型……」
今は一本の鎖しか出せない。
だが、スキル欄には通常の技ではなく、異権派生スキルと表示されている。
俺が成長すれば、いずれ元となった《三冥の番鎖》へ近づく可能性があるということだろうか。
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、取引の成立を確認しました】
六つの赤い瞳から、《天命簒奪の輪》へ向けられていた敵意がわずかに薄れる。
危険な力を封じる代わりに、自らの力を一部与える。
星屑にとっても、この取引は対等なものだったらしい。
中央の頭部が、さらに顔を近づけてくる。
六つの瞳が、身体の奥まで見通すように俺を見つめた。
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』が、あなたへ話しかけます】
頭の中へ、低く重い声が響いた。
『我が眷属を屠りし人の子よ』
声を聞くだけで、頭の奥が強く揺さぶられる。
『そなたの戦い、確かに見届けた』
『勝者には、相応の褒賞が必要であろう』
『本来ならば我が眷属を一体授けたいところだが、この世界では叶わぬ』
『代わりに、三つまでそなたの問いに答えよう』
「三つ……?」
これまで、星座や星屑と直接会話したという情報は聞いたことがない。
ゲーム内では、星座から通知や称賛が送られてくるだけだった。
目の前の存在が星座ではなく、星屑と呼ばれていることに何か関係があるのだろうか。
「質問は、今すぐでないと駄目ですか?」
『ならぬ』
『我が降臨を、この世界は長く許容できぬ』
その言葉を証明するように、ゲートの周囲へ亀裂が走る。
【警告:世界境界への負荷が上昇しています】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』の送還処理を準備します】
時間がない。
だが、聞きたいことは多すぎる。
なぜ現実に魔物が現れたのか。
《アストラル》とは何だったのか。
星座と星屑とは何者なのか。
この世界は、これからどうなるのか。
『時がない。問いを選べ』
「で、では……」
頭の中に浮かんだ疑問の中から、最も根本的なものを選ぶ。
「この世界は、《アストラル》になったのでしょうか」
星屑の三つの頭部が、わずかに動いた。
まるで、最初からその質問が来ることを知っていたかのように。
『その問いを選ぶと思っていたぞ』
『だが、そなたは一つ勘違いをしている』
「勘違い……?」
三対の赤い瞳が、俺ではなく夜空へ向けられた。
『この世界が、《アストラル》になったのではない』
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「じゃあ、これは……」
『《アストラル》は最初から、この世界の未来を模して作られたものだ』
「未来を……?」
『魔獣も、スキルも、シナリオも』
『いずれ現実に現れるものを、人の子らへ先に経験させるために再現されていた』
俺は、倒したばかりのグルガルドがいた場所へ目を向けた。
すでにその身体は消え、道路には戦闘の痕跡だけが残っている。
俺がグルガの攻撃方法を知っていたこと。
グルガルドの速度も、弱点も、進化後の特徴も知っていたこと。
ゲームの知識が、偶然現実でも通用したのではない。
最初から、現実に出現する魔獣の情報を基に作られていたのだ。
「俺たちが、魔獣の動きや弱点を知っていたのは……」
『神々が与えた知識だ』
『そなたら人類が滅びの始まりを迎えたその日に、何も知らぬまま死なぬようにな』
背筋に冷たいものが走った。
「滅びの……始まり?」
星屑の中央の頭部が、ゆっくりと俺へ視線を戻す。
『この世界は、すでに滅亡の道へ足を踏み入れている』
「何を言ってる……」
『《アストラル》は、ただの遊戯ではない』
『滅びゆく世界を救うため、神々が作り上げた選別と育成の庭だ』
選別。
その言葉が、妙に重く響いた。
『戦う者には、戦いを』
『救う者には、救済を』
『欺く者には、謀略を』
『人の本質を見極め、その者に必要な試練と知識を与える』
俺は、《アストラル》のシナリオシステムを思い出した。
プレイヤーの行動や性格を分析し、一人ひとりに異なる物語を与えるシナリオ生成AI。
そう説明されていた。
「シナリオを作っていたのは、AIじゃなかったのか?」
『人の子らが、神の仕組みに名を与えたにすぎぬ』
『あれは、そなたらの魂と可能性を測る秤だ』
言葉を失った。
世界中の人間が遊んでいたゲーム。
二十億人を超えるプレイヤー。
そのすべてが、知らないうちに試され、育てられていた。
「何のために……俺たちを選別した?」
三つの頭部が同時に俺を見据える。
『世界が滅びた後にも、生命を残すためだ』
『神々とて、定められた滅亡そのものを完全に止めることはできぬ』
『ゆえに、滅びの中でも生き残り、再び世界を芽吹かせる者を育てた』
『それが――滅びゆく世界を救う“種”だ』
「世界を救う……種……」
『シナリオを越え、星々に認められ、最後まで生き残った者』
『その者たちが、次なる世界の礎となる』
俺は、自分の手を見た。
傷だらけで、血に汚れている。
ほんの数時間前まで、俺はただゲームをしていた。
学校へ行き、授業を受け、家に帰れば《アストラル》へログインする。
そんな日常が、明日も続くと思っていた。
だが、すべてはこの日のためだった。
三年間積み重ねてきたレベルも。
シナリオも。
魔獣との戦いも。
ゲームだと思っていた世界で得た知識も。
神々が、俺たちを滅亡へ備えさせるために与えていたものだった。
『だが、その種が滅亡そのものを覆せぬとは、誰にも断言できぬ』
『一つ目の問いへの答えは以上だ』
『残り二つ』
星屑の言葉と同時に、ゲートが大きく揺れた。
【警告:降臨可能時間が残りわずかです】
【対象存在の送還処理を開始します】
黒い鎖が、星屑の身体へ巻きつき始める。
時間がない。
だが、聞きたいことはまだ残っている。
星座と星屑は何者なのか。
世界は、いつ滅びるのか。
俺は迷った末に、二つ目の問いを口にした。
「星座と星屑は……一体、何者なんだ?」




