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【緊急シナリオが発生しました】
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低級魔獣<グルガ>の討伐
難易度 ☆☆
制限時間 03:00
クリア条件
対象市民を救出する
クリア報酬
ステータスポイント 3
失敗条件
対象市民の死亡
失敗ペナルティ
星命値の低下
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「現実で……あれを倒せっていうのか?」
視界の端で、制限時間が減っていく。
【02:58】
【02:57】
【02:56】
道路では、グルガが女性へゆっくりと近づいていた。
女性は腰を抜かしたまま、地面を這うように後ろへ下がっている。
逃げ切れるようには見えない。
俺は自分の両手を見下ろした。
レベル一。
武器も防具もない。
ゲームの中なら、死んでも復活できた。
だが、ここは現実だ。
攻撃を受ければ傷つく。
最悪の場合、本当に死ぬ。
「無理だろ……」
思わず、そんな言葉が漏れた。
グルガは低級モンスターだ。
《アストラル》を始めたばかりの初心者でも、装備さえ整っていれば倒すことができる。
だが、それはゲーム内での話だ。
現実の俺には、木刀どころか身を守る装備すらない。
そのとき、視界の端で別のアイコンが点滅していることに気づいた。
【未受領の初期特典があります】
「初期特典……?」
さっき表示された通知を思い出す。
【ゲームアカウントの達成状況に応じて初期特典が支給されます】
俺は急いで通知へ触れた。
【対象プレイヤーの記録を確認します】
【プレイ期間:三年】
【最高到達レベル:85】
【達成シナリオ数:462】
【獲得称号数:37】
【総合評価:A】
【評価に応じ、初期特典を支給します】
青白い光が集まり、三つの選択肢が表示された。
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初期特典
① ステータスポイント 10
② スキル獲得権 1
③ 武器選択権 1
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「一つだけ……」
考える時間はない。
【02:42】
【02:41】
グルガが女性との距離をさらに縮める。
ステータスポイントを選べば、身体能力を強化できる。
スキル獲得権なら、新しい能力を手に入れられるかもしれない。
だが、今必要なのは、確実に相手へ傷を与えられる武器だ。
「武器選択権を選ぶ」
【初期特典として《武器選択権》を選択しました】
【選択可能な武器を表示します】
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《見習い騎士の鉄剣》
《狩人の弓》
《未熟な魔法使いの杖》
《臆病な戦士の戦斧》
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俺が選ぶものは、最初から決まっていた。
「《見習い騎士の鉄剣》」
【《見習い騎士の鉄剣》を獲得しました】
【装備しますか?】
「装備する」
答えた瞬間、右手の中に青白い粒子が集まり始めた。
粒子は細長い形を作り、やがて一本の剣へと変わる。
ずしりとした重さが、右腕へ伝わった。
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見習い騎士の鉄剣
等級:一般
攻撃力:5
耐久値:100/100
装備条件:筋力3以上
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ゲームの中で使っていた剣よりも、はるかに粗末な武器だった。
それでも、柄を握った瞬間、身体の奥に残っていた感覚が呼び起こされる。
足の置き方。
腰の落とし方。
刃の向き。
《上級剣術》によって補正された動作が、自然と頭の中へ流れ込んできた。
使える。
この剣なら、グルガを倒せる。
そう判断した直後。
女性の悲鳴が再び響いた。
「いやっ、来ないで!」
グルガが長い右腕を持ち上げる。
あの爪をまともに受ければ、人間の身体など簡単に切り裂かれる。
【02:21】
考えている時間はない。
俺は部屋を飛び出した。
階段を一気に駆け下り、玄関の扉を開ける。
冷たい夜風が頬を打った。
裸足のままだということに気づいたが、今さら戻る余裕はなかった。
道路へ出る。
グルガとの距離は、およそ二十メートル。
女性は俺に気づき、涙を浮かべた顔を向けた。
「助けて……!」
「そこから離れて!」
俺の声に反応し、グルガがゆっくりと振り返る。
赤く光る目が、俺を捉えた。
低い唸り声が、夜の住宅街に響く。
ゲーム画面越しに何度も見た相手。
攻撃方法も、弱点も知っている。
グルガは長い腕を振り回して攻撃する。
大振りで隙が大きく、首元の毛が薄い部分が弱点だ。
知識はある。
それなのに。
目の前に立つだけで、脚が震えた。
画面の中で見るのとは、まるで違う。
生臭い息。
腐った肉のような体臭。
地面を引っかく爪の音。
本能が告げている。
これは、自分を殺せる生き物だ。
「落ち着け……」
俺は剣を両手で構えた。
相手は低級モンスター。
何百回も倒してきた。
動きは分かっている。
グルガが地面を蹴った。
速い。
ゲーム内で見ていたよりも、はるかに速く感じる。
長い右腕が横薙ぎに振るわれた。
俺は後ろへ飛び退く。
避けた。
そう思った瞬間、爪の先が服を切り裂いた。
胸元に熱が走る。
「ぐっ……!」
浅い。
だが、確かに傷ついた。
赤い血がシャツへにじむ。
【体力が減少しました】
「本当に……いてぇな……」
一撃を受けただけで、グルガに対して恐怖が増した。
レベル一の身体では、まともに攻撃を受ければ終わる。
グルガが再び腕を振り上げる。
俺は反射的に前へ踏み込んだ。
後ろへ逃げれば、腕の長さに捕まる。
グルガの攻撃は、懐へ潜り込んだほうが避けやすい。
ゲームで覚えた動きだ。
振り下ろされた爪を横へかわし、そのまま左脚を踏み込む。
首元。
毛の薄い部分。
そこへ剣を振り抜いた。
刃が皮膚へ食い込む。
「硬っ……!」
ゲームでは簡単に通っていた攻撃が、途中で止まった。
現実の筋力が足りない。
《上級剣術》があっても、剣を振るう身体そのものはレベル一だ。
グルガが怒りの咆哮を上げた。
【低級魔獣<グルガ>があなたを強敵と認めました】
【低級魔獣<グルガ>が咆哮Lv.2を発動しました】
【対象の力が一時的に増幅します】
【星座『万の遠吠えに応える星』が不敵な笑みを浮かべました】
【星座『万の遠吠えに応える星』が一部権能を発動します】
【低級魔獣<グルガ>の咆哮スキルの能力が一部変更されます】
【咆哮スキルが進化し遠吠えを発動します】
【月の存在を確認しました。低級魔獣<グルガ>は中級魔獣<グルガルド>に進化しました】
グルガの身体が大きく膨れ上がった。
骨が砕けるような音とともに背骨が歪み、長かった両腕が地面へ落ちる。
首元の毛は針のように硬く逆立ち、四本の脚が道路を深くえぐった。
先ほどまで二足で立っていた魔獣は、巨大な獣へと姿を変えていた。
【スキル《危機察知Lv.6》が発動しました】
視界全体に赤い軌道が浮かんだ。
「攻撃範囲、広すぎだろッ……!」
【《中級身体強化》を発動しました】
俺は女性の腕を引き、地面を蹴った。
グルガルドの遠吠えの衝撃波が頭上を通り過ぎる。
風圧で髪が揺れた。
窓ガラスが一斉に砕け、電柱が大きく揺れた。
古い塀が崩れ、周囲から悲鳴が上がる。
「これは、まずいことになったな……」
基本中級魔獣は戦闘に慣れたプレイヤー二人で連携を取り戦闘するのがセオリーだ。
今回戦えるのは俺しかいない。
それに加え星座の権能により通常より強化されている。
本来は戦闘を避け逃げるのが正解なのだろうが俺が逃げれば被害は計り知れない。
自分が逃げれば被害が広がる。
目の前の人たちを見捨てることはできない。
それにペナルティが星命値の減少だ。
星命値まで失えば、今後この世界で生き残る道も遠のく。
星命値は、星座からの関心と評価を示す数値だ。
これを失えば、契約への道は遠のく。
現実世界が《アストラル》と同じ法則に侵食されたのなら、ここで星命値を失うわけにはいかない。
「次はもう助けられる保証はありません。すぐにここから離れてください」
【01:58】
俺は女性にすぐにここを離れるように伝え、もう一度剣を握り走り出した。
グルガルドは進化硬直で動けない、今がチャンスだ。
ゲーム内では感じられなかった体の熱の高まり。
足が軽くなり、握っている剣の重さは感じなくなった。
「くらえぇええ!」
俺は全力の一撃をグルガルドの首元に打ち込んだ。
カキンッ――!
甲高い金属音が響いた。
俺の全力の一撃はグルガルドの体にたどり着くことはなく、首元の太い体毛によってはじかれた。
「はは……これは、お手上げだな……」
俺の今の全力じゃ中級身体強化を使っても傷一つもつけられないのか。
【中級魔獣<グルガルド>の進化が完了しました】
【対象魔獣の進化を確認しました】
【緊急シナリオの難易度を再測定します】
【難易度が☆☆から☆☆☆☆へ変更されました】
【討伐対象が<グルガ>から<グルガルド>へ更新されました】
グルガルドはニヤリと笑みを浮かべゆっくりと近づいてくる。
グルガルドは四足歩行へ変化したことで、爆発的な瞬発力を獲得している。
その最大の武器は、獲物との距離を一瞬で詰める速度と、岩さえ切り裂く鋭い爪だ。
グルガルドが足に力を入れた瞬間だった。
目で追うのがやっとの速度だった。
俺は剣で振りかざされた右爪を剣で守るのが精いっぱいだった。
【《見習い騎士の鉄剣》の耐久値が大幅に減少しました】
【残り耐久値:31/100】
「ぐっ……!」
俺の身体は十メートル以上も後方へ吹き飛ばされ、建物の瓦礫へ叩きつけられた。
痛い。
ゲームでは感じなかった異常な痛み。
体が動かない。
グルガルドは動けない俺にゆっくりと近づいてくる。
「ここまでか……でも、巻き込まれた人を逃がす時間くらいは稼げたよな……」
俺は死を覚悟した。
その時だった。
【星座『均衡と平等を求める星』が『万の遠吠えに応える星』に強い怒りをぶつけます】
【星座『均衡と平等を求める星』が、一方的な権能干渉に強い不満を示します】
【星座『均衡と平等を求める星』は星屑『冥門に繋がれし三つ首』に助力を求めます】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』は助力を拒みます】
【星座『均衡と平等を求める星』は、星屑の拒絶を認めません】
星座同士が争っているのか?
それと星屑ってなんだ....
ゲーム内でそんな単語は聞いたことがなかった。
そんなことを考えていた直後。
目の前にゲーム内のダンジョンゲートに似た恐ろしいものが出現した。
【星座『均衡と平等を求める星』が、星屑『冥門に繋がれし三つ首』を神界から召喚します】
【重大な問題が発生しました】
【現在の世界レベルでは対応できない存在です】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』を強制的に神界に戻します】
目の前にあったゲートが一瞬にして閉じた。
一瞬しか存在していなかったにも関わらずその存在感はとてつもなく、
本能的に死を感じるものだった。
目の前にいたグルガルドは恐怖のあまり数十メートル後ろまで後退し様子を見ている。
【重大な問題が発生しました】
【重大な問題が発生しました】
【重大な問題が発生しました】
【重大な問題が発生しました】
【重大な問題が発生しました】
ゲーム内でも、これほど大量の警告を見たことはない。
何が起きようとしているのかは分からない。
それでも、事態が尋常ではないことだけは理解できた。
するとさっき閉じたと思ったゲートが突如出現した。
それは前回よりも大きく禍々しく体の芯から震えが止まらなかった。
【神界への強制送還を開始します】
【処理に失敗しました】
【上位存在による干渉を確認しました】
【干渉元:星座『均衡と平等を求める星』】
【警告:対象存在は現在の世界許容量を超過しています】
【警告:世界境界が侵食されています】
【星座『均衡と平等を求める星』が送還処理を拒絶しました】
【星屑『冥門に繋がれし三つ首』の強制降臨を開始します】




