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【システムを再起動します】


その文字が表示された直後、目の前のウィンドウが激しく明滅した。


「再起動……?」


俺が言葉の意味を理解するよりも早く、部屋に浮かんでいた青白い画面が一度すべて消える。

再び静寂が戻った。

薄暗い部屋に聞こえるのは、エアコンの風とパソコンの冷却ファンの音だけ。

まるで、さっきまでの出来事が幻だったかのようだった。


「……消えた?」


俺は恐る恐る、空中へ手を伸ばす。

指先に感じていた薄い膜のような感触はない。

やはり長時間ゲームをしていたせいで、頭がおかしくなったのだろうか。

そんな考えが浮かんだ、その瞬間。


ピコン――。


聞き慣れたシステム音が、頭の中へ直接響いた。


【システムの再起動が完了しました】

【現実世界への適合処理を開始します】

【プレイヤーデータを再構築します】

【レベル情報を初期化します】


「……は?」


青白いウィンドウが、再び目の前に出現する。

表示された文章を理解するまで、数秒かかった。


【プレイヤーレベルが初期化されました】

【Lv.85からLv.1になりました】


「ちょっと待て」


思わず、ベッドから立ち上がる。


「レベル1?」


三年間。

《アストラル》がサービスを開始した日から、俺はほぼ毎日のようにゲームへログインしてきた。

数え切れないほどのモンスターを倒した。

何度も死に戻り、攻略法を探し、ようやくレベル八十五まで到達した。

それが、一瞬でレベル1。


「ふざけるなよ……」


慌てて空中を二度叩き、メニューを開く。

今度は問題なく、見慣れたステータス画面が表示された。

==================


名前:朝倉レイ

レベル:1


職業:未設定


称号:

《世界に触れた者》

《上級剣士》

《偏衡者》



体力:10

魔力:5

筋力:3

耐久:3

敏捷:4


星命値:――


==================


「本当に……レベル1になってる」


見間違いではない。

ステータスは、ゲームを始めたばかりの初心者とほとんど同じだった。

レベルやステータスは初期化されたが、称号だけは引き継がれていた。

《アストラル》において、称号は単なる実績ではない。

レアリティや獲得難易度に応じて能力補正や特殊効果が与えられる、プレイヤーの強さを左右する重要な要素だ。

俺は続けて、スキル欄を開く。


【所持スキルの再構築が完了しました】

【一部のスキルが継承されました】


「は?」


何年もかけて習得したスキルがおおかた消えていた。


==================

《上級剣術Lv.3》《中級身体強化》《危機察知Lv.6》

==================


俺は続けてアイテム欄を確認する。


【通常アイテムはありません】


回復薬も、素材も、武器も、防具もない。

何百時間、何千時間とかけて集めたものが、一つ残らず消えている。


「最悪だ……」


俺は頭を抱え、その場に座り込んだ。

だが、アイテム欄の一番下に、一つだけ名前が表示されていることに気づいた。


【天命簒奪の輪】


ケルベロス討伐の報酬。

アイテム名へ指を触れると、詳細が表示された。


==================


天命簒奪の輪

等級:測定不能

所有者:朝倉レイ《譲渡不可》

効果:装着対象の天命に干渉し、その支配権を一時的に簒奪する。

使用条件:対象の首に着用させる。

詳細情報:閲覧権限が不足しています。


==================


「また閲覧権限不足かよ」


ゲーム内でも、星座に関係するアイテムや称号には非公開情報が多かった。

だが、等級が測定不能という表示は初めて見る。

最高等級の神話級でさえ、きちんと等級は表示される。

測定不能ということは、ゲームのシステムですら、このアイテムの価値を判断できていないということだろうか。


俺は次に、称号欄へ触れた。


==================


偏衡者


天界と冥界の均衡を一方へ傾けた者へ与えられる称号。


効果:閲覧権限が不足しています。

※この称号は解除できません。


==================


「解除できない?」


嫌な言葉だった。

効果が分からないうえに、外すこともできない。

どう考えても、普通の称号ではない。

そのとき、視界の端に小さなアイコンが点滅した。


【未確認の通知があります】


俺が通知を開くと、新しいメッセージが表示される。


【初心者保護機能を終了します】

【現実世界のシナリオが開始されました】

【プレイヤーにはゲームアカウント状況に応じ特典を配布しました】


窓の外から、何かが割れるような激しい音が響いた。

続けて、誰かの悲鳴が夜の住宅街に響き渡る。


「きゃああああああっ!」


俺は反射的に窓へ駆け寄った。

カーテンを開き、外を確認する。

街灯に照らされた道路。

そこに、黒い影が立っていた。

人間ではない。

猿のように長い両腕と、狼に似た頭部。

赤く光る目。

口元から伸びた牙。

黒い毛の間から、皮膚が見える。

背中は大きく湾曲し、地面に届きそうな爪が街灯を反射していた。

その姿には見覚えがあった。

《アストラル》の序盤に出現する低級モンスター。


「低級魔獣〈グルガ〉……?」


道路に倒れた自転車のそばで、一人の女性が腰を抜かしていた。

グルガは低い唸り声を上げながら、ゆっくりと女性へ近づいていく。

俺の目の前に、再びウィンドウが現れた。


【緊急シナリオが発生しました】


==================


     緊急シナリオ

   低級魔獣グルガの討伐


     難易度 ☆☆

    制限時間 03:00


      クリア条件

    対象市民を救出する


      クリア報酬

    ステータスポイント 3


      失敗条件

     対象市民の死亡


     失敗ペナルティ

      星命値の低下

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