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第三話 転移③

いつもありがとうございます!

 漸く見えた民家は、想像よりも遠かった。大介は比較的大柄な方であり、歩幅が広いため人より歩くのは早い方だが、それでも1,2時間は歩き続けていた。

 発見した時は一軒の家のように見えていたが、近づいていくにつれ幾つかの建物が点在する集落であることが明らかになった。

 先程のシロクマもどきに追われた時からここが確かに地球ではないと理解していた大介だが、民家は木造で、時代も現代から遡っているようだった。

 集落には畑があり、数人がその中で作業をしている。

 (今日はどうにかここで泊めてもらいたいな。野宿でもして()()()()()()()()に襲われたら堪らない…。)

 大介が畑に近づくと、作業をしているうちの1人が大介に気付き手を止めた。

 「おいみんな、ちょっと来てくれ!」

 痩身の中年男性が他の村人を大声で呼び集め、大介の方を見ながら何やらヒソヒソと話している。

 (いきなり部外者が来れば警戒するのは当然か。どうにかして打ち解けたいが…。)

 大介は話している集団に近付き、軽く一礼して話しかけた。

 「初めまして。」

 大介はそれだけ言って口を閉ざした。

 (待った、どうやって話せばいいんだ?いきなり水をくれとか食糧をくれとか、意味分からないよな。かと言って泊めてくださいなんて言ったらもっと変だし…。)

 当然村人達は怪訝そうな顔をして大介を見つめる。

 (うーん…あ、そうだ、こういう時は…!)

 大介は《居酒屋》の中にある、《女将》を選び、その中の《熟達した話術》を発動する。

 するとどうだろうか、大介の中で話す事が整理され、脳内でカンペのように言うことが浮かんでくる。

 「私、ダイスケと申します。旅をしている者なのですが、気付けばあそこの森の中を彷徨っていまして。ここがどこなのかも分からないのです。私に出来ることがあれば何でも手伝いますので、心ばかりのお水と食糧をお恵みいただけないでしょうか?」

 (す…ごいな。こんなの自分じゃ到底考えつかないや。)

 スキルの効果は絶大なようで、村人達から向けられていた警戒の視線が少し和らいだ。

 「あんた、旅をしていると行ったが荷物はないのかい?」

 「実は、途中で意識を失っていたようで。目を覚ました時には何も身につけていなかったのです。」

 「…そうかい。一体どこから旅をしてきたんだい?」

 「日本という国なのですが、ご存知ありませんか?」

 「ニホン?私は聞いたことがないが…誰か知ってるか?」

 痩身の男性が周りに問いかけるが、知っている人はいないようだ。

 「…初めて会う人には申し訳ないんだけどね、どこの誰かも分からない人をさあどうぞって迎え入れる訳にはいかないんだ。」

 「大丈夫です。こちらこそいきなり無理なお願いをしてすみませんでした。」

 大介が頭を下げると、村人達は困ったように顔を見合わせる。彼等からすれば、まさかこんなにあっさり引き下がると思っていなかったのだ。

 「1つ聞くが、あっちの森から来たと言ったね。モンスターに襲われたりしなかったのかい?」

 「モンスター?…あぁ、あの白くて大きい牙が生えている熊のことですか?」

 「まさか、白牙熊(ファンキビヨ)に出くわしたのかい!?」 

 痩身の男性が驚くと、周りからも騒めきが起こる。

 「名前はわかりませんが…。」

 「君、どうやって生き残ったんだい?あいつはここら辺でも五本の指に入るくらい恐ろしいモンスターだよ!」

 「ええっと…走って逃げました…。」

 大介は本当の事を言っただけなのだが、村人達は目が飛び出んばかりに驚いている。

 「あいつから走って逃げたって?君は冒険者なのかい?」

 「冒険者…?まあ確かに、冒険のような事はしました。」

 「じゃ、じゃあ君、『スキル持ち』なのかい?」

 「ああ、スキルならありますよ。」

 大介のその発言で、更に騒めきが大きくなる。何事かと民家から駆けつけた村人もおり、最初は4人ばかりだった村人が今では10人を超えて大介と相対していた。

 「何事だ!」

 奥から一際大きな声が上がり、後方からズイっと、大柄な男が先頭に立った。

 「ミカ、聞いてくれ。この人、旅をしている冒険者らしくてな、荷物がないから水と食糧を恵んでほしいって言うんだ。その代わりになんでも手伝うらしいんだが…。」

 「ほう…?」

 ミカと呼ばれた大柄な男は、大介の顔を覗き込む。

 「まあいいが、一つだけ条件がある。アンタのスキルを教えてくれ。何ができるのか、どういう能力なのか。」

 「おいミカ、それはご法度じゃ…」

 痩身の男が口を挟もうとするが、ミカが一睨みすると途中で話す事を諦めてしまった。

 「スキルは《居酒屋》です。ちょっと人より身体能力が高くて、あとは料理が作れます。」

 間違ったことは言っていない。というか大介もスキル、というものが何なのかイマイチ分かっていないのだ。《居酒屋》というスキルに内包された能力の全容を掴めずにいる現時点で答えられるのはそのくらいだろう。

 しかし大介の発言は村人達を大いに驚かせたようで、またもヒソヒソと話し始める。

 「嘘じゃ無いだろうな?」

 「え?…はい、嘘はついていませんよ。」

 「本当かどうか確かめさせてもらうぞ!」

 ミカはそう言うと、いきなり大介に向かって1歩踏み出し、殴りかかってきた。

 (何で??何か良くない事を言ったのか?)

 元はと言えば大介は日本生まれ日本育ちの居酒屋見習い。喧嘩などした事はないし、格闘技なんて当然経験がない。そんな人間がいきなり殴りかかられてどうにかできる訳もなく。

 ゴッ、と鈍い音が響いて顎を撃ち抜かれ、大介の意識は一度途切れることになる。




―――――――――――――――


 大介が目を覚ましたのは1時間ほど経ってからだった。

 (あれ、俺…そうか、あの人に殴られて…)

 大介が目を開き、視界に飛び込んできたのはなんと自分の顔を覗き込んでいたのは自分の顔を覗き込む()()()――ミカの大きな顔だった。

 大介は飛び上がり、咄嗟にミカと距離を置く。そんな大介の様子を見たミカは、深々と頭を下げた。

 「いきなり殴りかかってすまなかった。白牙熊(ファンキビヨ)から逃げてきた冒険者が、ちょっと身体能力が高くて料理が作れるだけなんて話、嘘だと思ってつい確かめようとしたんだ。本当にすまない。」

 「ああ、いえ…。私もミカさんの立場だったら怪しむと思うので…。」

 ミカは頭を上げ、大介と目を合わせた――かと思えば、もう一度頭を下げる。

 「それといきなりスキルを聞くなんて無礼な真似をした事を許してくれ。」

 「無礼…なんですか?」

 大介がキョトンとしていると、ミカは頭を上げてこちらもまたキョトンとした表情をする。

 「それはそう…だろう?スキルは言わば特権で、スキル持ちにとっての切り札だ。そんなものをいきなり聞くのは失礼だと言うのが当たり前なのだが…。」

 「すみません、かなり遠くから旅をしてきて、そこら辺の常識が少し違うかもしれないです。とにかく気にしていません。」

 「感謝する。お詫びと言ってはなんだが、水と食糧は渡そう。それに日もそう長くない、今夜は私の家に泊まっていくが良い。」

 「良いんですか…?それは大変ありがたいです…ありがとうございます。」

 「構わないさ。その上で、だ。一つだけあんたに頼みがある。」

 「頼み…ですか?もちろん私にできることなら、なんでもしますよ。」

 「ありがとう。実はな、うちの集落で栽培しているヤーキ麦の収穫が遅れているんだ。明後日商人が買取りに来るんだが、それまでに全部収穫しきりたくてな。」

 「なるほど。とは言っても私は初心者なのですが、大丈夫ですか?」

 「今は猫の手も借りたい状況だ。手伝ってくれるだけでありがたい。」

 「分かりました。そうと決まれば早速行きましょう。」

 「身体は大丈夫なのか?俺の言えたことでは無いんだが…。」

 「何ともありませんよ。さ、行きましょう。」

 「あ、あぁ…。」

 想像以上にタフな大介にミカは驚いたが、本人が大丈夫だと言うなら手伝ってもらうに越したことはない。二人でミカの家を出、すぐに畑へと向かった。

 集落にある家をグルっと囲むように広がっている畑には、黄金色の麦が生い茂っていた。各所で男衆が鎌を持って麦を刈り、収穫した麦を家側にある広場へと運び、女衆がそれらを地面に叩きつけている。

 (ヤーキ麦…大麦のような感じかな。昔何かで見たことがある。)

 ミカが大介を連れてきたのは、未だ収穫された様子がない畑。ミカは腰に提げた鎌のうち1つを手に取り、大介に手渡す。

 「これで麦の根元を刈って行ってくれ。ある程度溜まったら、束ねてあそこにいる女達の所へ持っていく。それの繰り返しだ。」

 「なるほど。」

 「鉄鎌を買う余裕はなくてな、石鎌で切りづらいかもしれないがまあ慣れてくれ。」

 「わかりました。ありがとうございます。」

 簡単な説明だけしてミカは自分の持ち場へと去っていく。

 「麦の収穫なんて初めてだ…。」

 大介はワクワクしながら収穫を始めた…のだが。

 (想像以上にキツイ…!腰も痛くなるし、麦を刈るにもかなり力が要る。こんなペースじゃ、日没までには畑一つも終わらないぞ。)

 そういう訳で大介は早々に手を止め、スキルの使用を決意したのである。

 

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