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第四話 集落①

いつもありがとうございます!

 大介は一度収穫の手を止め、今一度自分の持つスキルについて整理する。

 (《居酒屋》は大きな括りのような感じだな。それが《大将》《女将》《見習い》の三つに分岐して、それぞれが細分化されたスキルをまとめているのか。)

 《居酒屋》に内包された大量のスキルから、収穫作業に使えそうなものをピックアップしていく。先ず大介の目に留まったのは《女将》の中にある《作業効率【極】》と、《大将》の中にある《砥石【極】》だった。

 前者は単純作業の効率が加速度的に上がるスキルで、後者は所持している刃物の切れ味をよくするスキルだ。石鎌一本でヤーキ麦を収穫しなければならないこの状況には適している。それら二つに加えて《無尽蔵の体力》も発動させ、収穫を再開する。

 スキルを発動した後の大介は怒涛の勢いでヤーキ麦を刈って行った。石鎌は極上の鉄鎌の如き切れ味となり、力を入れずとも茎が切れていく。麦の茎を切り、横に捌け、前へ進み次の麦を刈り、横に捌け…という単調な作業の繰り返しはコマンドのように定着し、何も考えなくても体が勝手に効率よく作業を進めてくれる。

 傍から見た大介の動きは凄まじく、屈んでいるにもかかわらず一般人よりも遥かに速く走りつつ、腕は目にも留まらぬスピードで動いて麦を刈っていく。生涯をヤーキ麦の収穫に捧げたとしてもここまでの動きは成しえないであろう。

 「ふう…。次は麦を運ぶんだったな。」

 大介がスキルを発動してからおよそ30分。常人であれば収穫だけで半日以上――下手したら丸一日かかるほどの畑は、あっけなく刈り尽くされてしまった。しかし刈ったということは運ばなければならないということで、大介は刈り終えた畑に寝ている麦を眺めて思案する。

 (このスキルの内容によってはとんでもなく時間を短縮できるんだけど…一か八か、やってみるしかないか。)

 大介が悩んでいたのは、《女将》に内包されたスキル《蔵》。名の通り、モノの出し入れが可能なスキルなのだが、いかんせんキャパシティーが不明なのだ。それでも手で運ぶよりは早そうなため、大介は一先ず使ってみることにする。

 スキルを発動させると、瞬き一つする間もなく畑に寝かせておいた麦が忽然と消えた。大介は収穫した麦が蔵に収納されたのを確認し、広場へと歩いていく。

 大介が広場へ着くと、ちょうどミカも束ねたヤーキ麦を担いで広場に現れた。

 「どうだ、麦の収穫は。かなりキツいだろう?」

 「そうですね…初めてだったので苦戦しました。」

 「だろうな。それでもこの時間で一束持ってくるとは、初めてにしてはセンスがあるんじゃないか?」

 「あ…束ねるの、忘れてました。」

 「あー…ていうか、アンタの刈った麦はどこにあるんだ?」

 ミカは広場へ来たにしては収穫した麦が見当たらない大介の周りをキョロキョロと見渡す。

 「それならスキルで収納しました。手で持って運ぶより楽そうだったので。」

 「アンタ、収納持ちなのか!?」

 「そ、そうみたいですね…あいや、さっきスキルの話をしたときに言わなかったのは隠したわけじゃなくて…何て言うか忘れていたような感じで…。」

 ミカは驚いた後、声を潜めて大介の耳に顔を寄せる。

 「アンタ、一つ忠告だ。スキル持ち…特に収納系はこの辺じゃ引っ張りだこでな。基本的には丁重に扱われるし、俺たちだって言いふらしたりはしないが、中には力づくで収納持ちを手中に収めようとするやつもいる。口には気を付けておいた方がアンタのためだと思うぜ。」

 「そうだったんですね…。ご忠告ありがとうございます。」

 「まあ今言ったが、ここにいる間は大丈夫だ。とりあえずあんたが収穫した分をここに出してくれるか?」

 「分かりました…結構な量ですけど、いいですか?」

 「一束分じゃないのか?ならそうだな…ハンナ!ちょっとこっちを手伝ってくれないか!」

 ミカが呼んだのは麦を叩きつける作業をしていた女性のうちの一人だった。その女性はミカとは対照的に小柄だったが、大介の方へ来た途端、ミカの尻を引っ叩いた。

 「痛ってえ!なにすんだ!」

 「さっきウチで寝てた人ね。改めて、うちの人がごめんなさい。怪我はない?」

 「あ、いえいえ!全然大丈夫です!」

 「良かった。遅れたけど、私はハンナ。ミカの妻よ。あなたの名前は?」

 「大介です。」

 「ダイスケね。今日はうちに泊まっていくんでしょう?」

 「ミカさんにはそう仰っていただきましたが、ご夫婦のお邪魔をするのは…」

 「気にしないでよ!ていうか、ミカがダイスケを殴って気絶させたんだもの、お詫びして当然でしょう?」

 集落の中でもリーダー格のようなミカだが、嫁には尻に敷かれているようだ。ハンナが話し始めてからは口を噤んでいる。

 「ありがとうございます…お世話になります。」

 「うんうん!それでミカ、アンタずっと黙ってるけど私は何を手伝えばいいのか早く教えてくれる?」

 「黙ってるって…ハンナの話を遮らないように…」 

 「ミカ?言い訳はいいからサッサとして。私たち、時間ないのよ。」

 「すまん…。それでハンナに手伝ってほしいのはな…」

 そこからミカはハンナを読んだ顛末を話した。ハンナは納得して頷き、それなら束ねるための紐を用意しなきゃいけないと倉庫の方へ走っていった。

 「ふう…ああ、俺もこれからダイスケって呼んでいいか?アンタっていうのも何だか他人行儀だしな。」

 「構いませんよ。私もミカさんとお呼びしていいですか?」

 「勿論だ。それで大介、一束分じゃないって言ってたが、どのくらい刈ってきたんだ?」

 「えっと、さっき案内してもらった畑に生えてたぶん、全部です。」

 「は?」

 「え?」

 「あぁ、すまん…冗談か。あまりにもダイスケが真顔で冗談を言うから、反応できなかったぞ。」

 「いや、冗談じゃないです…。」

 大介の真剣な様子にミカは今日一表情を険しくする。

 「ダイスケ…全部ここに出せるか?」

 「はい。え…っとこうやって…えい!」

 大介が《蔵》からヤーキ麦を出すと、山なりに積みあがって大介とミカの前に現れた。大介は何も言わないミカを不思議に思って横を向くと、その男は魚のように口をパクパクさせたまま固まっていた。

 ミカが放心している間に、倉庫から紐をとってきたハンナが走って戻ってくる。

 「とりあえずこのくらいあれば足り…な…い?」

 ハンナも積みあがったヤーキ麦を見て絶句する。先に復活したミカがギギ…という音を立てるように首を動かし、顔を大介の方へ向けた。

 「ダイスケ…これ全部、お前ひとりでやったのか?」

 「はい。」

 「そうか…。」

 ミカは深く息を吸い込み、畑の方へ向かって叫んだ。

 「全員集合だ!!!!!!」

 この集落はミカが統率をとっているのか、呼び掛けに応じて村人たちがすぐに集まってくる。

 全員が広場に集まった事を確認してミカが口を開く。

 「この忙しい時にすることではないかもしれんが、割り当てを変えるぞ。」

 「ミカ、今更どういうつもりだ。」

 「落ち着けセブ。そして皆も同じ気持ちかもしれないが聞いてくれ。」

 常識的に考えれば一分一秒が惜しいこのタイミングで配置換えを行うのは非効率的だ。しかし、ミカ――この集落の(オサ)がそんな事も分からない人間ではないと皆は知っている。故にミカの話に口を挟むものはほとんどいなかった。

 「まず紹介しよう。こいつはダイスケ、旅人だ。訳あって収穫を手伝ってもらっているんだが、ダイスケが半刻で収穫したのがここに積み上がっているヤーキ麦だ。」

 ミカが積み上がった麦を指し示して言うと、村人たちはそれを見てザワつき、視線がダイスケとヤーキ麦を往復する。

 「つまりこいつは半刻で大畑を丸々収穫しきったってことか?」

 「そういうことだ――俺も半信半疑だがな。そこで、だ。4班から6班が担当している畑の収穫作業を全てダイスケに任せることにする。浮いた4班から6班は殻落としに回ってくれ。」

 「ちょっと待て、ミカ。確かに俺たちは非力なヤツらが集まっているかもしれんが、いくらなんでもそれは…。」

 4班の代表がミカの方針に異を唱える。この集落において、4班から6班は年老いていたり痩せていたりする者によって構成されている。その分作業効率は働き盛りの男達が集められた1班から3班に劣るが、彼らとてこれまでこれまで続けてきた矜恃がある。フラっと現れた旅人に仕事を奪われ、はい分かりましたと言えないのは当然だろう。

 村人たちの懐疑的な目線がミカに向けられる。だが、ミカはそこで思いもよらない行動に出た。

 村人全員の前で土下座をしたのだ。

 「すまない。お前らの気持ちは分かる。これまでずっと頑張ってきたお前らに対して不義理な事を言っているのは重々承知の上だ。だが分かってくれ!生きるためなんだ!プライドじゃ金は稼げねえ。俺たちが食い繋いでいくにはこうするしかねえんだ。一旦は俺の言う通りにしてみてくれねえか!」

 地面に頭がめり込むほどの姿勢に、村人たちは言葉を失ってしまう。それに、ミカが誰よりも集落のことを考えていることは皆が知る所だった。

 「文句なら後で幾らでも聞く。気に食わなければ俺を殴ってくれても構わねえ。それでも今は―――今だけは、頼む。この通りだ!」

 村人たちは目を見合わせ、どうするべきか決めきれないでいる。しかしそんな時、1人の老人が前に出た。

 「ミカの言う通りじゃ。もし本当にこの者が半刻で大畑の収穫を終わらせたなら、割り当てを変えた方が良いに決まっておる。それに、ミカが今までどれだけ尽くしてくれたかは皆も分かっているじゃろう。どうじゃ?」

 「ベン爺さん……」

 ベンと呼ばれた老人の呼びかけもあってか、村人たちは決心したようだった。

 「わかったよ。ミカ――お前を信じよう。いいな、お前ら!」

 先程ミカの方針に異を唱えた4班の代表が声をあげると、村人たちは肯定の意を示す。

 顔を上げたミカにハンナが手を差し伸べた。

 「ほら、休んでる暇ないわよ。」

 「ああ…ありがとう。」

 立ち上がったミカは散開し始めた村人たちに背を向け、大介に向かって頭を下げる。

 「ダイスケ…お前が頼りだ。無事に収穫が終われば礼はたっぷりする。だからそれまで、この村に留まってくれないか!」

 「ミカさん、頭を上げてください。元より行くあてもありませんから、私でよければ力になりますよ。さ、どこを収穫するのか教えてください?」

 大介は微笑んで言った。その言葉を聞いたミカは頭を上げ、大介を次なる畑へと連れて行った。


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