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第二話 転移②

いつもありがとうございます!

 (…熱くない?痛みも…無いな。そんなことも感じる前に死んでしまったか。)

 大介の意識は徐々に浮上する。心はあるのに身体が無いような、不思議な感覚。ふわふわと海の中を漂っているような気分だった。

 (大将と女将は無事だろうか。いや…流石にそれは無理があるか。せめて俺と同じように安らかに逝っていれば良いが…。この死に方で安らかも何もないか?)

 大介は目を開ける。そこは真っ白な世界だった。比喩でもなんでもなく、本当に周囲360°真っ白だ。身体は見えず、首を動かしている感覚もない。喋ろうとしても喋ることができない。というか、息すらもしていない。

 (死後の世界?神なんて信じていない俺が?)

 大介が今置かれているこの状況を不思議に思っていたちょうどその時。

 

 『ミカミダイスケ。気が付いたか?』

 

 前から、後ろから、横から、声が聞こえてくる。自分の中から声が聞こえるような、不思議な感覚。だが、声の主は見当たらない。

 (どこから話しかけているんだ?声を出せないせいで、問いかけることも出来ないが…。)

 『何処からでも。ワタシは全て。万物の主。』

 (俺の考えていることがわかるのか?)

 『ワタシは全て。全てはワタシ。考えていること、感じていること、全てがワタシ。』

 (じゃあ…ここはどこで、貴方は誰ですか?)

 『ここは魂の空間。ワタシは魂の管理人。』

 (魂…?)

 『アナタの肉体は死に、肉体を脱した魂をワタシが拾った。正確に言うとアナタは未だ死んではいない。』

 (よく分からない…)

 『ワタシは魂の管理人。輪廻転生を司るモノ。アナタには選択権が無い。』 

 (閻魔様的な感じだろうか。この先どうなるか、という宣告ですか?)

 『アナタの世界の言葉で言うなら、そう。そしてアナタは今から新しい世界に生まれ変わる。』

 (そうですか。俺は何をすれば良いのですか?)

 『それはワタシが定めることでは無い。』

 (好きにしろ、と)

 『アナタの行く世界は、元いた場所から遠い遠い次元の世界。アナタの世界の言葉で言うなら、ファンタジーの世界。』

 (ファンタジー?魔法とか、モンスターとかの?)

 『そう。その世界には「スキル」がある。アナタが生まれたその時、ソレは目覚めるだろう。』

 (スキル?ゲームとかに出てくるやつだったか。)

 『そう。アナタはきっと解らない。だから()()()()をつける。きっと大丈夫。』

 (そうですか。イマイチよく分からないけど…。そうだ、大将と女将はどうなったんですか?一緒に行けますか?)

 『カレラの魂も拾った。でも、魂の磨耗が激しく、輪廻の円環には乗せられない。』

 (そんな……)

 『カレラの魂は、アナタの魂を見守ると決めた。見えず、会えず、それでもアナタの傍に居る。』

 (傍に…。)

 何も感じないこの場所で、大介は一瞬、ほんの一瞬だが確かに感じた。自分が最も会いたい2人の匂い。匂いなんて感じるはずもないのだが、確かに一瞬、大介を包んだようだった。

 『時は満ちた。行ってきなさい。』

 声の主がそう言った瞬間、大介は再び意識を失った。







ーーーーーーーー

 大介が目を覚ましたのは森の中だった。風に吹かれ、木々は揺れて葉の擦れる音がする。

 「う…ん…」

 大介は目を開き、辺りを見回しながら立ち上がる。

 なんて事はない、普通の()だ。背後には大木があり、それに凭れ掛かるように座っていたようだ。身の回りには何もない。身につけているのは「(よろず)」の和服。輪廻転生と言ったいたため、赤ん坊からのやり直しかと思ったがそうではないようだ。それに先程…かどうかは変わらないが、会話の内容もはっきり覚えているし、前世(?)の記憶もしっかりある。転生、と言うよりは転移と言った所だろうか。

 (サバイバル…はしたことが無いんだが…。取り敢えずは森から出ることを考えつつ、食糧と水を確保しないとな。)

 大介は歩き始めた。どこへ向かえばいいかも分からないため、一先ずは一直線に。

 森とは言えど、然程鬱蒼としていない。道はフラットとは言い難いが歩けないほどではないし、動物が居そうな気配も感じない。

 暫く歩いていると、大介の耳にとある音が飛び込んできた。

 (この音…川かな?水場が近そうだ。)

 大介は水の流れる音が聞こえる方へと歩を進める。茂みを掻き分けながら木々の間を通り抜けていくと、どんどん水の流れる音は大きくなっていった。

 歩き始めてから10分程で大介は川に辿り着いた。

 (思っていたより大きい川だな。向こう岸までは5m以上ありそうだ。)

 川辺へ着いたはいいが、大介はそこで初めて水を入れるための物がないことに気付いた。さらに言うと一見綺麗そうなこの川の水も、飲み水として使えるかどうかはわからない。

 (参ったな。何か水筒になるものを探さなきゃ。)

 サバイバルはおろかアウトドアも碌にしたことがない大介にとっては中々に絶望的な状況だ。仕方なく来た道を戻り、水筒探しを始める。とはいえ川の位置がわからなくなってしまっては本末転倒だ。故に、探索範囲は大介がマッピングできる川の周辺に限られる。

 それなりに綺麗で、水漏れしなさそうな丁度良いモノがそう都合よく見つかるはずもなく、大介はただ体力を消費しただけで元いた川辺に戻る羽目になった。

 (まずい…よな。馬鹿な俺でも最低限水と火は確保しなきゃいけないってことだけは解る。食糧は後回しにするとしても、この二つのうちどっちかでも手に入れないと死んでしまう。)

 大介が途方に暮れかけていると、不意に向こう岸のさらに奥に生えているであろう木々が揺れ始めた。最初は風でも吹いているんだろうと気にしていなかった大介だが、徐々にその揺れが川辺へと近づいてくるにつれて流石に違和感を感じ始めた。風にしては直線上に集中しすぎているし、木々の揺れ方が不規則すぎる。

 咄嗟に茂みに隠れて様子を伺う。そもそも対岸だし、万一危険な何かだったとしても逃げ切れると踏んでいた。もしも人だったら助けを乞う。違ったら逃げる。大介は勿論前者の登場を願っていたのだが、対岸に姿を現したのは―――。

 (よし、逃げよう。そーっと立ち上がって、そーっと逃げよう。)

 シロクマを見たとき、人間はどう思うだろうか。基本的にシロクマと遭遇するのは身の安全が保障されている動物園の中だけだろう。故に、「カワイイ」という感情が最初に来るのが一般的だ。ではもしも檻なんかない場所で、体長が中型トラック並みで、上顎から生えている牙が1mくらいあるシロクマ(?)に遭遇したらどう思うか。当然最初に感じるのは「生命の危機」だろう。

 大介は体勢を変え、逆方向に身体を向けようとしたのだが。

 ――ガサガサッ。

 茂みの中で体を動かせば、当然茂みは揺れるし音も発する。そして森の中で生きる捕食者が、そんな異変を見逃すはずもなく。

 「グオォォォォォ!!」

 ビリビリと肌に刺激が来るほどの咆哮を放ったシロクマまがいの捕食者は、大介のいる茂みに向かって走り始める。当の大介は咆哮が始まった時点で、森の中めがけて一目散に駆けだしていた。

 (やばいやばいやばい!どうすればいいんだこれ!何かないか…何か…!)

 どうにかこの状況を打開する策を考えるも、焦りすぎていて思考がまとまらない。もともと運動が得意な大介だが、流石にここまでの体格差があると追いつかれるのは時間の問題だった。現に、大介の後方から、木々と茂みの揺れる音が徐々に迫ってきている。

 (スキル!スキルだスキル!…でもどうやって使えばいいんだ!)

 すると突然、大介の脳内に()()()と同じ声が響く。

 『スキルの覚醒を確認。全スキルを最適化しました。アナタのスキルは《居酒屋》です。』

 (居酒屋!?…ってなんだ?何かないのか…今この状況を打開できるスキル!)

 『スキル《居酒屋》を起動アクティベートしますか?』

 (します!とりあえずしてください!)

 『スキル《居酒屋》起動アクティベート。効果およびチュートリアルを魂に紐づけました。』

 (…?何も起こってないんですが!どうすればいいんですか!というか《居酒屋》って何ができるんです…か…)

 大介はそこでふと気が付いた。なぜか分かってしまう。生まれたときから備わっていたかのような、そんな感覚。兎に角この状況を打開すべく、早速スキルを発動する。とはいってもスキル名を叫んだりするわけではない。頭の中で「スキル」というファイルを開いて、その中にある能力をクリックする…そんな感覚だ。

 《居酒屋》スキルの中にある、《見習い》を選択。さらにその中にある、《無尽蔵の体力》《提供【幹】》《提供【速】》を発動させる。絶妙に間抜けなスキル名だが、今の大介にそれを気にしている余裕はない。

 (…お、す…っごいな…)

 名前は兎も角、効果は凄まじいものだった。荒かった息は一瞬で整い、茂みやら岩やらをよけるのにふらついていたのが安定し、走る速度は人間離れしている。今の大介を傍から見れば、人間というよりは獣に近い動きをしていた。

 シロクマまがいの捕食者は一時大介に迫ったものの、スキルを発動してからはぐんぐんと距離が開いていき、大介が気が付いたころにはとっくに姿は消えていた。周りには目もくれず走り続けていたために知る由はないのだが、大介は元居た地点からかなり離れたところまで走ってきていた。

 周囲にあった背の高い木々は姿を消し、川のせせらぎなどとうに聞こえなくなっている。それどころか森から脱し、眼前には開けた平地が広がっていた。そして落ち着いた大介は周囲を見渡し、発見した。

 遠すぎるために米粒のような大きさではあるが、それは間違いなく民家だった。

 

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