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追放された無能修復師、実は世界そのものを直せるチートでした  作者: 山奥たける


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第7話 井戸の中のもの

 井戸の中から、“それ”はゆっくりと這い上がってきた。


 水を滴らせながら、縁に指をかける。

 濁った目が、最初からこちらを見ていたみたいに動く。


「……っ」


 ミアが息を呑む。


「下がれ」


 短く言う。


 今回は少し強めに。


 ミアはすぐに後ろへ下がった。リオナも同時に距離を取る。

 判断が早い。助かる。


 “それ”は完全に井戸から出てきた。


 人の形はしている。

 だが、さっきまでの“壊れかけ”とは違う。


 明確に、“おかしい”。


「……遅かったな」


 ぽつりと、そいつが言った。


 声がある。


 しかも、はっきりしている。


「……喋るのか」


「喋るとも」


 ゆっくりと首を傾ける。


「水を戻したのは、お前か」


「そうだ」


「余計なことをする」


 言葉に感情は薄い。

 だが、確実に“意志”がある。


 これは――ただの壊れた人間じゃない。


「管理してる側か?」


 問いかける。


 そいつは少しだけ笑った。


「似たようなものだ」


「曖昧だな」


「お前も同じだろう」


 言い返される。


 少しだけ、面白い。


「ここは“止まっている”場所だ」


 そいつが言う。


「流れを止め、変化を止め、維持する」


「壊れてるだけだ」


「それを“正しい状態”としている」


「誰が」


「決めた」


 それだけだった。


 理由は言わない。

 だが、確信はある。


 面倒なタイプだ。


「で?」


 一歩踏み出す。


「それを、戻したらどうなる」


「戻すな」


「無理だな」


 即答する。


 そいつの目が細くなる。


「なら」


 足が動いた。


 速い。


 さっきの“壊れかけ”とは別物だ。


 だが――


「そこだな」


 軌道は見えている。


 一歩ずれる。


 腕を取る。


 引く。


 体勢が崩れる。


 そのまま、地面に叩きつける。


 ドン、と鈍い音。


「……」


 そいつはすぐに起き上がる。


 だが、さっきよりも動きが鈍い。


「……やっぱりズレてるな」


「何をした」


「直しただけだ」


「……」


 そいつは一瞬だけ黙った。


 明らかに理解できていない。


「お前、自分が何をしているか分かっているのか」


「分かってるつもりだが」


「分かっていない」


 また同じことを言う。


 流行ってるのか、それ。


「お前のそれは、“修復”じゃない」


「さっきも聞いた」


「違う」


 今度は、はっきりとした怒気が混じる。


「“書き換え”だ」


 少しだけ、間が空いた。


 初めて聞く言い方だ。


「……書き換え?」


「そうだ」


 そいつはゆっくりと立ち上がる。


「この場所は、“壊れた状態”が正しい」


「だから、それを維持している」


「それを、お前は――」


 一歩、踏み出す。


「“別の形に変えている”」


 その言葉は、妙に引っかかった。


 だが。


「結果が良ければ同じだろ」


「違う!」


 今度ははっきりと怒鳴った。


 ミアがびくりと震える。


「それは、“許されていない”」


「誰に」


「世界に」


「曖昧だな」


 同じ返しをする。


 そいつは歯を食いしばった。


 初めて、余裕が崩れる。


「……お前は危険だ」


「そうか」


「だから、止める」


 空気が変わる。


 さっきまでとは違う。


 本気だ。


「やってみろ」


 軽く言う。


 そいつが動く。


 今度は、さっきより速い。


 だが。


「無駄だ」


 踏み込みをずらす。


 腕を逸らす。


 逆に、足元を軽く触る。


 ズレを合わせる。


 カチ、と。


 また、小さな感覚。


「――っ」


 そいつの動きが止まる。


 完全じゃない。

 だが、一瞬止まる。


 それで十分だ。


「お前は“維持”してるつもりだろうが」


 一歩、踏み込む。


「それもズレてる」


「……っ」


「雑なんだよ、やり方が」


 そのまま、軽く押す。


 そいつの体が後ろに下がる。


 距離が空く。


 沈黙。


 風が通る。


 さっきより、確実に軽い。


「……」


 そいつは、しばらく動かなかった。


 それから、ゆっくりと口を開く。


「……理解した」


「何を」


「お前は、敵だ」


「最初からそうだろ」


「違う」


 首を振る。


「さっきまでは“観察対象”だった」


「今は?」


「排除対象だ」


 分かりやすい。


 いい変化だ。


「それでいい」


 こちらも一歩前に出る。


「やることがはっきりする」


 ミアが、小さく声を出す。


「……カイ」


「下がってろ」


 短く言う。


 視線は外さない。


 そいつも同じだ。


 空気が張り詰める。


 だが。


 次の瞬間。


 そいつは、ふっと笑った。


「……だが、今はやめておく」


「は?」


 予想外だった。


「なぜだ」


「壊れるからだ」


「どっちが」


「両方だ」


 そいつはゆっくりと後ろへ下がる。


「お前は、まだ“浅い”」


「……」


「だが、放っておけば深くなる」


 その言葉は、妙に重かった。


「そのときに、もう一度来る」


「好きにしろ」


「そのときは」


 一瞬だけ、目が細くなる。


「止める」


 それだけ言って。


 そいつは、井戸の中へと戻った。


 水面が揺れる。


 そして、静かになる。


「……」


 しばらく、誰も動かなかった。


 ミアが、小さく息を吐く。


「……なんだったの」


「管理者の一種だな」


「一種って……」


「複数いるってことだ」


 面倒だ。


 だが。


「……いい」


 思わず笑う。


「やりがいがある」


「えぇ……」


 ミアが引いた声を出す。


 リオナは何も言わない。

 だが、逃げてはいない。


 それで十分だ。


「……やることは変わらない」


 井戸を見る。


 地面を見る。


 人を見る。


「全部直す」


 それだけだ。


 そのとき。


 井戸の水面が、またわずかに揺れた。


「……ん?」


 今度は、さっきとは違う。


 もっと深い。


 もっと奥。


「……まだいるな」


 小さく呟く。


 ミアが、不安そうに聞く。


「まだ、出てくるの?」


「分からない」


 だが、ひとつだけ確かだ。


「……一人じゃない」


 水の奥。


 そのさらに奥。


 何かが、動いている。


 さっきのやつとは違う。


 もっと――


「面倒だな」


 思わず笑う。


 どうやら、この村。


 本当に“止まっているだけ”じゃないらしい。

一気に敵の輪郭が見えてきました。


ただ、まだ“全部”ではありません。

この村、もう少し奥があります。


もし少しでも「面白い」と思っていただけたら、

ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


次話、さらに踏み込みます。

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