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追放された無能修復師、実は世界そのものを直せるチートでした  作者: 山奥たける


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第6話 正しい壊れ方

 地面が、わずかに歪んだ。


 踏んだ感触が変わる。

 硬さも、沈み方も、さっきまでと違う。


「……おい」


 後ろでリオナが低く言う。


「これ、さっきと違う」


「分かってる」


 目の前の男――“管理してる側”は、ゆっくりと手を下ろした。


「どうだ」


「……雑だな」


 思わずそう言った。


 男の眉が、わずかに動く。


「何?」


「やり方が雑だ」


 足元を見る。


 歪みは広がっている。

 だが、均一じゃない。


 無理やり押し込んでいるだけだ。


「維持するなら、もう少し丁寧にやれ」


「……」


 男は、少しだけ沈黙した。


 それから、ふっと笑う。


「面白いな」


「そうか?」


「壊された状態を“整えるべきもの”と見るか」


「壊れてるものは直す」


「それが間違いだと言っている」


 男が一歩踏み出す。


 空気が重くなる。


「この状態は“正しい”」


「誰にとってだ」


「世界にとってだ」


 面倒な言い方だ。


「曖昧だな」


「分からないか?」


「分かる必要もない」


 足元を軽く踏み直す。


 歪みの位置を探る。


 さっきより深い。

 だが、構造は単純だ。


「……やる気か」


 男が言う。


「最初からそのつもりだ」


「なら、見せてみろ」


 挑発ではない。


 本気で試している。


 いい。


 そのほうが話が早い。


「ミア、下がれ」


「で、でも……」


「下がれ」


 短く言う。


 ミアは一瞬だけ迷って、それから下がった。


 リオナと男も距離を取る。


 視線が集中する。


 静かだ。


 音がない。


 だが、確実に何かが動いている。


「……ここか」


 地面の一部に手を当てる。


 違和感の中心。


 歪みの起点。


 ここを合わせれば、全体が動く。


「そんな簡単に――」


「簡単じゃない」


 遮る。


「だが、単純だ」


 押す。


 ほんの少しだけ。


 力じゃない。


 位置を、戻す。


 ズレているものを、正しい場所に。


 カチ、と。


 音がした。


 次の瞬間。


 風が通った。


「……え」


 ミアが息を呑む。


 空気が、変わる。


 さっきまで重かったものが、少しだけ軽くなる。


「……流れたな」


 立ち上がる。


 完全じゃない。


 だが、確実に変わった。


「……」


 男は何も言わない。


 ただ、じっと見ている。


「どうだ」


「……」


「これでも“間違い”か?」


 男は、ゆっくりと口を開いた。


「……やはり本物か」


「だから何がだ」


「お前のような存在がいると、困る」


「だろうな」


 素直に認める。


「だから、排除する?」


「できればそうしたい」


「できれば、か」


「今はまだ様子を見る」


 意外な答えだった。


「理由は?」


「面白いからだ」


 少しだけ笑う。


「それは助かる」


「ただし」


 男の目が細くなる。


「やりすぎるな」


「無理だな」


 即答した。


 男は一瞬だけ黙り、それから小さく息を吐いた。


「……そうか」


 それ以上は何も言わない。


 だが、敵意は消えていない。


 ただ、今は引くというだけだ。


「……行くのか」


「今日はな」


 男は背を向ける。


「また来る」


「好きにしろ」


 そのまま、影の中に消えた。


 完全に気配が消える。


「……なんだったの」


 ミアが震えた声で言う。


「管理者だな」


「管理者?」


「壊れたままにしておく役」


「……そんなの、いるの?」


「いるらしいな」


 さっきのやつがそうだ。


「……意味分かんない」


「俺もだ」


 だが、分かる必要はない。


 やることは変わらない。


「……でも」


 ミアが、少しだけこちらを見る。


「カイが直したら、変わった」


「そうだな」


「じゃあ……」


 言葉を探す。


「直していいってこと?」


「最初からそうしてる」


 ミアは、少しだけ考えて――


 小さく頷いた。


「……じゃあ、やろう」


「何を」


「直すの」


 少しだけ笑う。


 いい変化だ。


「そうだな」


 周囲を見る。


 井戸。

 地面。

 家。

 人。


 全部が、まだ途中だ。


「……やることは多い」


「うん」


 ミアが答える。


 さっきより、声が強い。


 リオナも、何も言わないが、その場に残っている。


 離れない。


 それだけで十分だ。


「まずは――」


 井戸を見る。


「水を安定させる」


「それから?」


「食い物だな」


「……どうやって」


「考える」


 簡単だ。


 問題があるなら、直せばいい。


 それだけだ。


 だが。


 ふと、さっきの言葉が頭に残る。


『やりすぎるな』


「……無理だな」


 小さく呟く。


 やりすぎないようにする理由がない。


 壊れているなら、全部直す。


 それだけだ。


 そのときだった。


 井戸の水面が、わずかに揺れた。


「……ん?」


 覗き込む。


 さっきよりも、深い。


 水が増えている。


「……おかしいな」


「なにが?」


「流れすぎてる」


「え?」


 本来なら、徐々に戻るはずだ。


 だが、これは――


 急すぎる。


「……誰か、触ったか?」


「触ってない」


 ミアもリオナも首を振る。


 なら。


「……あいつか?」


 管理者。


 だが、気配はない。


 井戸の中を見る。


 暗い。


 だが――


 何かが動いた。


「……おい」


 思わず声が低くなる。


「中にいる」


「え?」


 水面が、揺れる。


 さっきよりも、大きく。


 そして。


 ゆっくりと。


 何かが、上がってくる。


「……」


 形が見える。


 人だ。


 だが――


 明らかに、おかしい。


「……増えるな」


 思わず笑う。


 面倒ごとが。


 どんどん増えていく。


 いい。


 そのほうが面白い。


 井戸の中から、“それ”が顔を出した。


 濡れた手。


 濁った目。


 そして。


 はっきりと、こちらを見ていた。


 ――最初から。


 そこにいたみたいに。

ここから一気に“村の中身”に入っていきます。


少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


次話、さらに厄介になります。

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