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追放された無能修復師、実は世界そのものを直せるチートでした  作者: 山奥たける


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第5話 壊れた人間の直し方

 地面に転がった“それ”は、まだ動いていた。


 息はある。

 だが、目の焦点が合っていない。


 体は反応しているのに、意識が追いついていない。


「……これ、どういう状態?」


 ミアが恐る恐る聞く。


「半分、止まってる」


「止まってる?」


「体は動く。中身がズレてる」


 しゃがみ込む。


 顔を近づけると、わずかに目が動いた。


 反応はある。


 完全に壊れてはいない。


「……聞こえるか」


 声をかける。


 男の口がわずかに動く。


 だが、言葉にならない。


「……駄目か」


 予想通りだ。


 この状態は、単純な問題じゃない。


 さっきの井戸みたいに、位置を合わせれば終わる話じゃない。


「直るの?」


 リオナが低く言う。


「時間はかかる」


「……無理じゃないの」


「無理なら、さっきの水は出てない」


 そう言うと、リオナは黙った。


 納得はしていない。

 だが、否定もできない。


 それでいい。


「……どうやるの」


 ミアが聞く。


「順番にやる」


 男の手首を取る。


 脈はある。

 だが、リズムが崩れている。


「まず、体の流れを戻す」


「流れって……」


「説明は後だ」


 軽く手を添える。


 強くは触れない。


 必要なのは力じゃない。


 “ズレ”を探すことだ。


 肩。

 胸。

 腹。

 足。


 微妙に噛み合っていない。


 全体が、ほんの少しずつズレている。


「……面倒だな」


 小さく呟く。


 だが、不可能じゃない。


 ひとつずつ合わせればいい。


 肩に手を当てる。

 少しだけ押す。


 カチ、と。


 小さな感覚。


 次に胸。


 同じように。


 ズレを、合わせる。


 呼吸が変わる。


「……あ」


 ミアが声を漏らす。


 男の胸が、さっきより深く上下した。


「まだ途中だ」


 次に足。


 ここが一番ズレている。


 地面との接点。


 踏み方。


 全部が歪んでいる。


「……ここか」


 軽く位置を直す。


 力は入れない。


 ただ、正しい位置に戻す。


 その瞬間。


 男の体が、びくりと震えた。


「――っ」


 息を吸う。


 深く。


 さっきとは違う。


 ちゃんと“繋がった”呼吸。


「……戻ったな」


 手を離す。


 男はしばらく動かなかった。


 それから、ゆっくりと目を開ける。


 焦点が、合う。


「……ここは」


 声が出た。


 さっきとは違う。


 言葉になっている。


「村だ」


「……村?」


 男は周囲を見回す。


 少しずつ、認識が戻っていく。


「……水」


「飲んだだろ」


「……ああ」


 まだ混乱している。


 だが、戻っている。


 完全じゃないが、十分だ。


「……なんだ、今の」


 リオナが低く言う。


「直しただけだ」


「それが分からないって言ってる」


「分からなくてもいい」


 立ち上がる。


「結果が出てる」


 リオナは言葉を失った。


 ミアは、じっと男を見ている。


 さっきまでとは違う目だ。


「……すごい」


 ぽつりと呟く。


「普通じゃない」


「普通じゃないのは知ってる」


 男が、ゆっくりと体を起こす。


 まだ不安定だが、立てる。


「……あんた」


 こちらを見る。


「何者だ」


「さっきも言った」


「通りすがりの修理屋?」


「そうだ」


「……そんなわけあるか」


「よく言われる」


 男はしばらく黙った。


 それから、小さく息を吐く。


「……助かった」


「そうか」


「……礼を言う」


「いらない」


 礼を受け取るほどのことじゃない。


 壊れていたものを戻しただけだ。


 ただ、それだけだ。


 そのときだった。


 後ろで、別の音がした。


 さっき倒した“もう一つ”の影。


 それが、ゆっくりと起き上がる。


 だが、さっきとは違う。


 動きが、少しだけまともになっている。


「……あれ」


 ミアが指差す。


「直ってる?」


「いや」


 目を細める。


「まだ途中だ」


 だが、変化はある。


 完全に止まっていたものが、少し動いている。


「……影響か」


 小さく呟く。


「影響?」


 リオナが聞く。


「一つ直すと、周りも少し動く」


「……そんなことある?」


「あるな」


 実際、起きている。


 それが証拠だ。


 だが。


「……これは面倒だ」


「え?」


「一つずつじゃ、間に合わない」


 周囲を見る。


 まだ、影はある。


 完全に壊れているわけじゃない。


 だが、このまま放置すれば――


 完全に止まる。


「……どうするの」


 ミアが聞く。


 さっきよりも、明らかに頼る声だ。


「まとめてやる」


「まとめて?」


「そうだ」


 村全体を見る。


 井戸。

 地面。

 家。

 人。


 全部が繋がっている。


 なら――


「まとめて直す」


「そんなこと……」


 リオナが言いかけて、止まる。


 さっきの水。

 今の男。


 否定できない。


 そのとき。


 また、空気が変わった。


 今度は、はっきりと。


 冷たい。


 重い。


 明確な“異物”。


「……来たな」


 思わず呟く。


 視線を上げる。


 村の奥。


 そこに、立っていた。


 さっきの影とは違う。


 はっきりとした形。


 そして――


 明らかに、壊れていない。


「……誰」


 ミアが震えた声で言う。


 そいつは、ゆっくりとこちらを見る。


 目が合う。


 その瞬間。


 分かった。


 こいつは――


 “壊れている側”じゃない。


「……管理してる側か」


 小さく呟く。


 そいつは、わずかに口元を歪めた。


「面白いことをしているな」


 初めて、はっきりとした声。


 余裕がある。


 そして、明らかにこちらを見ている。


「勝手に直すな」


「……」


 なるほど。


 そういうタイプか。


「これは“放置されている状態”が正しい」


 そいつは、ゆっくりと歩いてくる。


「それを崩すのは、ルール違反だ」


 完全に理解した。


 この村は――


 壊れているんじゃない。


 “壊されたまま維持されている”。


「……いいな」


 思わず笑う。


 予想より面白い。


「なら、なおさらだ」


 一歩前に出る。


「全部直す」


 そいつの目が、わずかに細くなる。


「できると思うか?」


「できるな」


 即答する。


 根拠はない。


 だが、できる。


 そういう構造だからだ。


 空気が、張り詰める。


 ミアも、リオナも、男も、息を呑む。


 そして。


 そいつが、ゆっくりと手を上げた。


「……なら、試してみろ」


 次の瞬間。


 地面が、わずかに歪んだ。

この村、思ったより“普通じゃない”です。


直すだけの話かと思っていましたが、

どうやら誰かが“そのままにしている”みたいです。


次は、少しぶつかります。

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