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追放された無能修復師、実は世界そのものを直せるチートでした  作者: 山奥たける


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第4話 捨てられた場所の住人

 背後の気配は、ゆっくりと近づいてきていた。


 前には水を求める男。

 後ろにも、別の“何か”。


「……ミア」


「な、なに」


「下がってろ」


 短く言う。


 ミアは一瞬だけ迷って、それから素直に二歩下がった。

 いい判断だ。


 前の男は、もうすぐ手が届く距離まで来ている。


「水……くれ……」


 声は枯れているが、目だけははっきりしていた。


 完全に壊れているわけじゃない。


「飲むな」


 ミアが思わず言う。


「そのままだと腹壊す」


 男の手が止まる。


「……どうすればいい」


 反応がまともだ。


 話が通じるなら楽だ。


「少し待て。濾す」


 簡単な布を取り出し、桶の上に被せる。


 ついでに、さっき調整した井戸の縁を軽く触る。


 “流れ”を、もう少し整える。


 ごく小さな違和感。

 それを一つ、二つと潰す。


 水の濁りが、ほんのわずかに落ち着く。


「……これでいい」


 男に差し出す。


 男は一瞬だけこちらを見た。

 疑いはあるが、渇きのほうが勝っている。


 ぐっと飲み干した。


「……っ」


 息を吐く。


 それだけで、少しだけ顔色が変わる。


 極端だが、分かりやすい。


「生きてるな」


 ぼそりと呟いた。


 その言葉に、ミアが目を見開く。


「……どういう意味」


「そのままだ。死んでない」


 男はしばらく黙っていた。


 それから、ゆっくりとこちらを見る。


「……お前、誰だ」


「通りすがりの修理屋」


「……こんなところに来る理由がない」


「壊れてるからな」


「……」


 男はしばらく考えるように目を細めた。


 そのとき。


 後ろの気配が、はっきりと動いた。


 振り返る。


 崩れた家の陰から、もう一人出てくる。


 今度は女だ。


 痩せている。

 だが、さっきの男よりも警戒心が強い。


 距離を取ったまま、様子を見ている。


「……やっぱりいたか」


 小さく呟く。


 ミアが震えた声で言う。


「……あの人も、昔の……」


「住人、ってやつか」


「たぶん……」


 女の視線は、水に向いていた。


 そして、俺にも。


 測っている。


 危険かどうかを。


「来るか?」


 軽く言う。


 女は動かない。


「無理に来いとは言わない」


「……罠じゃないの?」


 初めて声を出した。


 乾いているが、芯はある。


「罠なら、もっと分かりやすくやる」


「……信用できない」


「それでいい」


 その反応は正しい。


 ここに残っている時点で、まともな警戒心はあるはずだ。


 女はしばらく動かなかった。


 だが、男のほうを見て、少しだけ表情を変える。


 男はもう一口、水を飲んでいた。


 問題はなさそうだ。


「……少しだけ」


 女が、ゆっくりと近づいてくる。


 完全には距離を詰めない。

 いい距離感だ。


 桶を差し出す。


 女は手を伸ばしかけて、止まる。


「……毒は」


「入れてない」


「証明は」


「ない」


 正直に答える。


 女は一瞬だけ眉をひそめた。


 それでも、桶を取る。


 少しだけ飲む。


「……」


 目を閉じる。


 それから、ゆっくり息を吐いた。


「……水だ」


「水だな」


 当たり前のことを確認する。


 だが、その当たり前が、この場所では失われていた。


 それだけで、十分な変化だ。


 女は、少しだけこちらを見る。


「……あんたがやったの?」


「井戸の位置がズレてたから直しただけだ」


「……それだけで?」


「それだけで」


 女はしばらく黙った。


 理解しようとしている。


 だが、理解できない。


 それでいい。


「……なんで」


 また同じ問いだ。


 ミアも、男も、同じことを聞く。


「さっきも答えた」


「壊れてるから?」


「そうだ」


「……変なやつ」


「よく言われる」


 女は、小さく息を吐いた。


 それから、少しだけ視線を落とす。


「……ここ、もう終わってる」


「知ってる」


「人もいないし、何も残ってない」


「それも見た」


「……なのに、直すの?」


「直せるならな」


 そこで、女は顔を上げた。


 ほんの少しだけ、目が変わる。


 疑いだけじゃない。


 別の何かが混じる。


「……できるの?」


「やってみる」


 断言はしない。


 だが、否定もしない。


 それで十分だ。


 しばらく沈黙が落ちた。


 風が、少しだけ動く。


 さっきよりも、ほんの少しだけ軽い。


「……名前」


 女が言った。


「リオナ」


「カイだ」


「……カイ」


 名前を繰り返す。


 その響きを確かめるように。


「……ここに、住むつもり?」


「そうなるな」


「一人で?」


「いや」


 周囲を見る。


 ミア。

 男。

 リオナ。


 すでに三人いる。


「もう三人いる」


「……え?」


 ミアが間の抜けた声を出す。


「いや、違う、そういう意味じゃ……」


「住人だろ」


「……」


 言葉に詰まる。


 リオナも、男も、何も言わない。


 だが。


 否定はしない。


 それだけで十分だ。


「……水は出た」


 地面を見る。


「次は、流れだな」


「流れ?」


「食べ物、人、空気。全部止まってる」


「……」


「それを動かす」


 言葉にすると簡単だ。


 実際は、少し面倒だが。


「……できるの?」


 ミアが小さく聞く。


「さっきの水は?」


「……できた」


「なら、次もできる」


 単純な話だ。


 そのときだった。


 また、空気が変わった。


 さっきと同じ感覚。


 だが、今度は少し違う。


「……おい」


 男が低く言う。


「あれ」


 視線の先。


 村の奥。


 崩れた家の向こう。


 影が動く。


 一つじゃない。


 二つ、三つ――


 増える。


「……住人、か?」


 ミアが震えた声で言う。


 だが、違う。


 動きが違う。


 遅い。

 歪んでいる。


「……いや」


 目を細める。


「壊れてる側だな」


「なにそれ」


「直す対象だ」


 影が、こちらに向かってくる。


 ゆっくりと。


 だが確実に。


「……面倒だな」


 思わず呟く。


 人が増えるのはいい。


 だが、最初からこれか。


「……どうするの」


 ミアが聞く。


 少しだけ、俺を見る目が変わっている。


 さっきよりも、頼る色が混じっている。


「簡単だ」


 一歩前に出る。


「壊れてるなら――」


 影が、距離を詰める。


 歪んだ足取り。

 濁った目。


 だが、完全には終わっていない。


「直す」


 そう言って、手を伸ばした。


 その瞬間。


 影の一つが、急に速度を上げた。


「――っ」


 予想より速い。


 だが――


「そこか」


 位置は見えている。


 体をずらす。


 足を払う。


 影が崩れる。


 地面に転がる。


 近くで見ると、それは人だった。


 ただ、どこかがおかしい。


 目が合う。


 その奥に、ほんのわずかに“残っている”。


「……まだ、いるな」


 小さく呟く。


 これは――


 ただの廃村じゃない。


 直すものが、想像以上に多い。


 そして。


 簡単には終わらない。


「……いい」


 口元が少しだけ上がる。


 面倒だ。


 だが――


 悪くない。


 こういうほうが、やりがいがある。

人が増えました。

でも、少しだけ“普通じゃない”形で。


この村、どうやら思っていたより厄介です。

次はもう少し踏み込みます。

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